「空間記憶」の版間の差分

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 この記憶研究の流れの中で、Tolmanの認知地図の概念はO'Keefe & Nadel<ref>'''O'Keefe, J. & Nadel, L.'''<br>The hippocampus as a cognitive map.<br>''Oxford University Press'':Oxford, UK: 1978</ref>. によって海馬認知地図仮説へと発展し、海馬が空間認知の神経基盤であると考えられた。
 この記憶研究の流れの中で、Tolmanの認知地図の概念はO'Keefe & Nadel<ref>'''O'Keefe, J. & Nadel, L.'''<br>The hippocampus as a cognitive map.<br>''Oxford University Press'':Oxford, UK: 1978</ref>. によって海馬認知地図仮説へと発展し、海馬が空間認知の神経基盤であると考えられた。


 海馬認知地図仮説の中で、[[wj:ジョン=オキーフ|O’Keefe]]らは[[Localeシステム]]と[[Taxonシステム]]という2つの記憶システムを提案した。Localeシステムは環境の中で自分の位置を特定する、いわゆる認知地図を利用した空間行動を支えるシステムであり、Taxonシステムは特定の手掛りに対する接近行動と回避行動の強化によって駆動されるシステムである。
 海馬認知地図仮説の中で、[[wj:ジョン・オキーフ|O’Keefe]]らは[[Localeシステム]]と[[Taxonシステム]]という2つの記憶システムを提案した。Localeシステムは環境の中で自分の位置を特定する、いわゆる認知地図を利用した空間行動を支えるシステムであり、Taxonシステムは特定の手掛りに対する接近行動と回避行動の強化によって駆動されるシステムである。


 O'Keefe & Conway<ref>'''O'Keefe, J., & Conway, D.H.'''<br>On the trail of the hippocampal engram.<br>''Oxford University Press''Oxford, UK: 1980</ref>.は、これらのシステムと海馬の関係について検討した。この実験では、Localeシステムを要する課題として(1)十字型迷路の周辺に分散された複数の手掛りから報酬位置を特定する課題と、Taxonシステムを要する課題として(2)複数手掛りが報酬走路近くにまとめて配置された課題が設けられ、各システムに及ぼす海馬損傷が検討された。海馬損傷により(1)の課題の成績が著しく悪化したが、(2)の課題の成績は手術前よりもむしろ改善された。これにより、Localeシステムに基づく行動は海馬依存的であるが、Taxonシステムに基づく行動は海馬非依存的であることが明らかになった。
 O'Keefe & Conway<ref>'''O'Keefe, J., & Conway, D.H.'''<br>On the trail of the hippocampal engram.<br>''Oxford University Press''Oxford, UK: 1980</ref>.は、これらのシステムと海馬の関係について検討した。この実験では、Localeシステムを要する課題として(1)十字型迷路の周辺に分散された複数の手掛りから報酬位置を特定する課題と、Taxonシステムを要する課題として(2)複数手掛りが報酬走路近くにまとめて配置された課題が設けられ、各システムに及ぼす海馬損傷が検討された。海馬損傷により(1)の課題の成績が著しく悪化したが、(2)の課題の成績は手術前よりもむしろ改善された。これにより、Localeシステムに基づく行動は海馬依存的であるが、Taxonシステムに基づく行動は海馬非依存的であることが明らかになった。


 同様の結論が[[Morris水迷路]]を用いたMorris, Garrud, Rawlins & O'Keefe<ref><pubmed>7088155</pubmed></ref>においても報告されている。プール内の一か所の水面下に隠れたプラットホームの位置をプール周囲の複数の刺激の位置との関係で記憶させる場所課題の学習には海馬損傷の効果があった。しかし、目印刺激のある見える逃避台への接近行動を測定する[[手掛り課題]]の学習には海馬損傷の効果がなかった。この効果の分離は、O'Keefe & Conway による海馬依存的なLocaleシステムと海馬非依存的Taxonシステムの分離に対応するものと考えられる。
 同様の結論が[[Morris水迷路]]を用いたMorris, Garrud, Rawlins & O'Keefe<ref><pubmed>7088155</pubmed></ref>においても報告されている。プール内の一か所の水面下に隠れたプラットホームの位置をプール周囲の複数の刺激の位置との関係で記憶させる場所課題の学習には海馬損傷の効果があった。しかし、目印刺激のある見える逃避台への接近行動を測定する[[手掛り課題]]の学習には海馬損傷の効果がなかった。この効果の分離は、O'Keefe & Conway による海馬依存的なLocaleシステムと海馬非依存的Taxonシステムの分離に対応するものと考えられる。


=== 場所細胞、頭部方向細胞、格子細胞の発見  ===
=== 場所細胞、頭部方向細胞、格子細胞の発見  ===