「精神疾患」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0194204 北村 秀明]、[http://researchmap.jp/read0018784 染矢 俊幸]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0194204 北村 秀明]、[http://researchmap.jp/read0018784 染矢 俊幸]</font><br>
''新潟大学 大学院医歯学総合研究科 生体機能調節医学専攻''<br>
''新潟大学 大学院医歯学総合研究科 生体機能調節医学専攻''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年3月17日 原稿完成日:2013年5月6日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月17日 原稿完成日:2013年5月6日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
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英語名:mental illness, mental disorder 独語:Geistesstörung 仏語:trouble du mental
英:mental illness, mental disorder 独:Geistesstörung 仏:trouble du mental


{{box|text=
{{box|text= 精神疾患とは、平均や価値の基準から偏った精神状態のために、著しい苦痛や機能障害をもたらし得る多様な[[wj:症状群|症状群]]を包括する上位概念である。病院などで診断される精神疾患という意味で、精神疾患は人に固有の問題であるが、それはたとえば青年期に発症する代表的な精神疾患である[[統合失調症]]を、主に[[幻覚]]や[[妄想]]といった主観的体験にもとづいて診断するので、人と同じ言語を持たない動物を統合失調症と診断することは原理上できないからである。一方、精神疾患にも分類される[[ナルコレプシー]]という睡眠障害は、突然の[[睡眠発作]]や筋肉の脱力を起こすが、ある遺伝子の変異を持つ[[wj:イヌ|イヌ]]において、それと瓜二つの症状が観察されるように、精神疾患の背景にある中枢神経系の分子メカニズム・基本病態については、動物にも共通する変異が将来発見されるかもしれない。}}
 精神疾患とは、平均や価値の基準から偏った精神状態のために、著しい苦痛や機能障害をもたらし得る多様な[[wikipedia:ja:症状群|症状群]]を包括する上位概念である。病院などで診断される精神疾患という意味で、精神疾患は人に固有の問題であるが、それはたとえば青年期に発症する代表的な精神疾患である[[統合失調症]]を、主に[[幻覚]]や[[妄想]]といった主観的体験にもとづいて診断するので、人と同じ言語を持たない動物を統合失調症と診断することは原理上できないからである。一方、精神疾患にも分類される[[ナルコレプシー]]という睡眠障害は、突然の[[睡眠発作]]や筋肉の脱力を起こすが、ある遺伝子の変異を持つ[[wikipedia:ja:イヌ|イヌ]]において、それと瓜二つの症状が観察されるように、精神疾患の背景にある中枢神経系の分子メカニズム・基本病態については、動物にも共通する変異が将来発見されるかもしれない。
}}


== 診断・分類の妥当性・信頼性==
== 診断・分類の妥当性・信頼性==
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==現在用いられている診断カテゴリーと疾患単位 ==
==現在用いられている診断カテゴリーと疾患単位 ==
 現在は[[ICD‐10]] [[精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン]]([[wikipedia:ja:世界保健機関|世界保健機関]])<ref name=ref2><b>世界保健機関</b><br>ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン<br><i>医学書院(東京)</i>:2005</ref>、あるいは[[DSM‐IV‐TR]] [[精神疾患の診断・統計マニュアル]]([[米国精神医学会]])<ref name=ref3><b>米国精神医学会</b><br>DSM‐IV‐TR 精神疾患の診断・統計マニュアル<br><i>医学書院(東京)</i>:2003</ref>が主に用いられている。それぞれ100を優に越える診断カテゴリーが用意されている。
 現在は[[ICD‐10]] [[精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン]]([[wj:世界保健機関|世界保健機関]])<ref name=ref2><b>世界保健機関</b><br>ICD‐10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン<br><i>医学書院(東京)</i>:2005</ref>、あるいは[[DSM-IV-TR]] [[精神疾患の診断・統計マニュアル]]([[米国精神医学会]])<ref name=ref3><b>米国精神医学会</b><br>DSM-IV-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル<br><i>医学書院(東京)</i>:2003</ref>が主に用いられている。それぞれ100を優に越える診断カテゴリーが用意されている。


 ここで共通して用いられる「障害」という用語は、disorderの日本語訳である<ref><b>Michael G Gelder, Nancy C Andreasen, Juan J Jr. Lopez-Ibor, John R Geddes</b><br>New Oxford Textbook of Psychiatry<br><i>Oxford University Press (New York)</i>:2012</ref>。DSM 体系ではdisorderを、確かな原因や病態が不明で、主要な症状やその歴史、時に検査所見などで包括される症状群的な特徴を有するカテゴリーとして、疾患単位とは区別している。たとえばDSM‐IV‐TRには、臨床症状と経過に重点をおいた「大うつ病性障害」の診断のための基準が明記されているが、「大うつ病性障害」に、一定の原因と症状、一貫した経過と治療への反応性を強く期待することは、現時点では難しい。まして、この診断を受けた人に共通する少数の疾患遺伝子や、特異的な脳の構造的機能的異常や環境要因を保証するものではない。近くICD‐10は第11版に、DSM‐IV‐TRは第5版に改訂される。最新の研究成果を取り入れて、信頼性と妥当性の乏しい診断カテゴリーが淘汰され、新しいものにとって代わることは、たいへん望ましいことである。
 ここで共通して用いられる「障害」という用語は、disorderの日本語訳である<ref><b>Michael G Gelder, Nancy C Andreasen, Juan J Jr. Lopez-Ibor, John R Geddes</b><br>New Oxford Textbook of Psychiatry<br><i>Oxford University Press (New York)</i>:2012</ref>。DSM 体系ではdisorderを、確かな原因や病態が不明で、主要な症状やその歴史、時に検査所見などで包括される症状群的な特徴を有するカテゴリーとして、疾患単位とは区別している。たとえばDSM-IV-TRには、臨床症状と経過に重点をおいた「大うつ病性障害」の診断のための基準が明記されているが、「大うつ病性障害」に、一定の原因と症状、一貫した経過と治療への反応性を強く期待することは、現時点では難しい。まして、この診断を受けた人に共通する少数の疾患遺伝子や、特異的な脳の構造的機能的異常や環境要因を保証するものではない。近くICD‐10は第11版に、DSM-IV-TRは第5版に改訂される。最新の研究成果を取り入れて、信頼性と妥当性の乏しい診断カテゴリーが淘汰され、新しいものにとって代わることは、たいへん望ましいことである。


===ICD-10===
===ICD-10===
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|F16 [[幻覚薬]]使用による精神及び行動の障害||
|F16 [[幻覚薬]]使用による精神及び行動の障害||
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|F17 [[wikipedia:ja:タバコ|タバコ]]使用(喫煙)による精神及び行動の障害||
|F17 [[wj:タバコ|タバコ]]使用(喫煙)による精神及び行動の障害||
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|F18 [[wikipedia:ja:溶媒|揮発性溶剤]]使用による精神及び行動の障害||
|F18 [[wj:溶媒|揮発性溶剤]]使用による精神及び行動の障害||
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|F19 多剤使用及びその他の精神作用物質使用による精神及び行動の障害||
|F19 多剤使用及びその他の精神作用物質使用による精神及び行動の障害||

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