「精神病性障害」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
7行目: 7行目:


{{box|text=
{{box|text=
 精神病性障害 (psychotic disorder) とは、現在の用法では精神病 (psychosis) とほぼ同義である。米国精神医学会(APA)による『精神障害の診断と統計の手引き』 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) の第3版(DSM-III)<ref name=ref2>American Psychiatric Association: <br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd ed. <br>Washington DC, APA, 1980. </ref>以降、また世界保健機関(WHO)による『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』の第10版(ICD-10)<ref name=ref10>World Health Organization : <br>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders; <br>Clinical descriptions and diagnostic guidelines. WHO, Geneva, 1992<br>(融道男,中根允文、小見山実ら訳<br>ICD-10精神および行動の障害—臨床記述と診断ガイドライン、新訂版. 医学書院、東京、2005.)</ref>では、「精神病」という用語は「精神病性障害 (psychotic disorder) 」と言う言葉に置換されている。「精神病性 (psychotic) 」と言う形容詞は記述用語として用いられ、精神病症状 (psychotic symptom) とされる特定の症状が出現する病態に対して使用される。精神病性障害は、その成因によって、身体疾患によるもの、精神作用物質の使用によるもの、身体的基盤が明らかでないものに大別される。なお、精神病性障害以外の一部の障害も、精神病症状を伴いうる。
 精神病性障害 (psychotic disorder) とは、現在の用法では精神病 (psychosis) とほぼ同義である。米国精神医学会(APA)による『精神障害の診断と統計の手引き』 (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) の第3版(DSM-III)<ref name=ref2>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd ed. <br>Washington DC, APA, 1980. </ref>以降、また世界保健機関(WHO)による『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』の第10版(ICD-10)<ref name=ref10>'''World Health Organization'''<br>The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders; <br>Clinical descriptions and diagnostic guidelines. WHO, Geneva, 1992<br>(融道男,中根允文、小見山実ら訳<br>ICD-10精神および行動の障害—臨床記述と診断ガイドライン、新訂版. 医学書院、東京、2005.)</ref>では、「精神病」という用語は「精神病性障害 (psychotic disorder) 」と言う言葉に置換されている。「精神病性 (psychotic) 」と言う形容詞は記述用語として用いられ、精神病症状 (psychotic symptom) とされる特定の症状が出現する病態に対して使用される。精神病性障害は、その成因によって、身体疾患によるもの、精神作用物質の使用によるもの、身体的基盤が明らかでないものに大別される。なお、精神病性障害以外の一部の障害も、精神病症状を伴いうる。
}}
}}


14行目: 14行目:
<ref name=ref7>'''針間博彦'''<br>今日の操作的診断基準における妄想.妄想の臨床<br>''新興医学出版社''、東京、p45-56,2013.</ref>
<ref name=ref7>'''針間博彦'''<br>今日の操作的診断基準における妄想.妄想の臨床<br>''新興医学出版社''、東京、p45-56,2013.</ref>


 「精神病psychosis」という語は、DSM-II<ref name=ref1>American Psychiatric Association: <br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 2nd ed. <br>Washington DC Association, APA, 1968.</ref>では「生活の通常の要求を満たす能力に著しい支障を来すほど精神機能が障害されている」と広く定義されていたのに対し、[[DSM-III]]<ref name=ref2 />と-III-R<ref name=ref3>American Psychiatric Association<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd Ed, Revised. <br>Washington DC, APA, 1987</ref>ではこの語は用いられず、「精神病性psyhchotic」という語が「現実検討の著しい障害」というより狭い意味で用いられ、精神病症状psychotic symptomとして妄想、幻覚、滅裂な会話、解体した行動が挙げられた。[[DSM-IV-TR]]<ref name=ref4>American Psychiatric Association<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th Ed, Text Revision<br>Washington DC, APA, 2000.</ref>においても、「精神病性」は妄想、幻覚、解体した会話、解体した行動および緊張病性行動を示す記述用語として用いられた。[[DSM-5]]<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. <br>Washington DC, APA, 2013. </ref>では、精神病性障害は妄想、幻覚、解体した会話のいずれかが必要とされる。[[ICD-10]]<ref name=ref10 />の中でも、精神病性は「精神力動的機序に関する推測を含まない、便利な記述用語」として用いられ、「幻覚、妄想、および著しい興奮と過活動、著しい精神運動制止、緊張病性行動などいくつかの重度の行動異常」の存在を示す。
 「精神病psychosis」という語は、DSM-II<ref name=ref1>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 2nd ed. <br>Washington DC Association, APA, 1968.</ref>では「生活の通常の要求を満たす能力に著しい支障を来すほど精神機能が障害されている」と広く定義されていたのに対し、[[DSM-III]]<ref name=ref2 />と-III-R<ref name=ref3>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 3rd Ed, Revised. <br>Washington DC, APA, 1987</ref>ではこの語は用いられず、「精神病性psyhchotic」という語が「現実検討の著しい障害」というより狭い意味で用いられ、精神病症状psychotic symptomとして妄想、幻覚、滅裂な会話、解体した行動が挙げられた。[[DSM-IV-TR]]<ref name=ref4>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 4th Ed, Text Revision<br>Washington DC, APA, 2000.</ref>においても、「精神病性」は妄想、幻覚、解体した会話、解体した行動および緊張病性行動を示す記述用語として用いられた。[[DSM-5]]<ref name=ref5>'''American Psychiatric Association'''<br>Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed. <br>Washington DC, APA, 2013. </ref>では、精神病性障害は妄想、幻覚、解体した会話のいずれかが必要とされる。[[ICD-10]]<ref name=ref10 />の中でも、精神病性は「精神力動的機序に関する推測を含まない、便利な記述用語」として用いられ、「幻覚、妄想、および著しい興奮と過活動、著しい精神運動制止、緊張病性行動などいくつかの重度の行動異常」の存在を示す。


 DSM-5では、[[せん妄]]と精神病症状を伴う気分障害などを除けば(後述)、精神病症状を認める障害は成因によらず「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」に含められる。ICD-10では、精神病症状を呈する障害は成因によってF0~F3のいずれのカテゴリーに分類される。すなわち、F0群のうち認知症、せん妄、器質性精神病性障害、F1群のうち精神作用物質使用による急性中毒、せん妄を伴う離脱状態、精神病性障害、残遺性及び遅発性精神病性障害、F2群のうち統合失調症、妄想性障害、急性一過性精神病性障害、感応精神病、統合失調感情障害、F3群のうち精神病症状を伴う気分障害(うつ病、躁病あるいは混合性エピソード)である。
 DSM-5では、[[せん妄]]と精神病症状を伴う気分障害などを除けば(後述)、精神病症状を認める障害は成因によらず「統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群」に含められる。ICD-10では、精神病症状を呈する障害は成因によってF0~F3のいずれのカテゴリーに分類される。すなわち、F0群のうち認知症、せん妄、器質性精神病性障害、F1群のうち精神作用物質使用による急性中毒、せん妄を伴う離脱状態、精神病性障害、残遺性及び遅発性精神病性障害、F2群のうち統合失調症、妄想性障害、急性一過性精神病性障害、感応精神病、統合失調感情障害、F3群のうち精神病症状を伴う気分障害(うつ病、躁病あるいは混合性エピソード)である。