「精神科遺伝学」の版間の差分

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== 目的  ==
== 目的  ==


精神疾患は程度の差はあるが遺伝要因が部分的に発症に影響を与えており、治療に対する反応性や副作用、予後などにも遺伝要因は関わっていると推測されている。関係する遺伝子の同定は病態解明とそれに続く合理的な治療法の開発に必要な基礎データとなり、個別化医療につながる。分子レベルからの根拠に基づく予防法、治療法の開発を目的とする。
精神疾患は比較的高い遺伝率を示すものが多く、程度の差はあるが遺伝要因が部分的に発症に影響を与えている。治療に対する反応性や副作用、予後などにも遺伝要因は関わっていると推測されている。関係する遺伝子の同定は病態解明とそれに続く合理的な治療法の開発に必要な基礎データとなり、個別化医療につながる。分子レベルからの根拠に基づく予防法、治療法の開発を目的とする。


== 遺伝学的に見た精神疾患の特徴  ==
== 遺伝学的に見た精神疾患の特徴  ==
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== 精神科遺伝学の主な所見  ==
== 精神科遺伝学の主な所見  ==


遺伝学的研究は連鎖解析が基本であるが、統合失調症とうつ病の大家系を用いた解析ではDISC1を除いて根拠のある原因遺伝子は同定されていない。そのDISC1に関しても、1家系のみでの所見であり、遺伝学的証拠としては十分ではない<ref><pubmed> 10814723 </pubmed></ref> 。
遺伝学的研究は連鎖解析が基本であるが、統合失調症とうつ病の大家系を用いた解析ではDISC1を除いて根拠のある原因遺伝子は同定されていない。そのDISC1に関しても、1家系のみでの所見であり、遺伝学的証拠としては十分ではない<ref><pubmed> 10814723 </pubmed></ref> 。  


候補遺伝子解析では1,000以上の遺伝子内やその近傍のゲノム多様性と精神疾患の関連解析が実施されている。疾患との関連の他に内部表現型、治療反応性、副作用リスクとの関連解析もすすめられているが、日常臨床を変えるほどの所見には至っていない。  
候補遺伝子解析では1,000以上の遺伝子内やその近傍のゲノム多様性と精神疾患の関連解析が実施されている。疾患との関連の他に内部表現型、治療反応性、副作用リスクとの関連解析もすすめられているが、日常臨床を変えるほどの所見には至っていない。  
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ゲノムワイド関連解析は比較的頻度の高い主にSNPを使ったゲノムワイド関連解析が実施されている。 米国のNational Human Genome Research InstituteのGWASに関するデータベース[https://www.genome.gov/26525384#searchForm]によれば、2013年1月現在、統合失調症、気分障害に関するGWASの論文が24にのぼっている。このなかで、一般的に有意な関連とされているP値を示しているSNP数は8論文である。一方、依存症に関しては1編の論文のみであり、有意なSNPは検出されていない。自閉症に関しては6編の論文があり、2編が有意で、有意な関連を示しているのはAlzheimer病では31編の論文があり、6編の論文である。ただ、有意であってもいずれもオッズ比は小さく、比較的頻度の高い多型で大きな関連を示しているものはアルツハイマー病のApoE以外はない。  
ゲノムワイド関連解析は比較的頻度の高い主にSNPを使ったゲノムワイド関連解析が実施されている。 米国のNational Human Genome Research InstituteのGWASに関するデータベース[https://www.genome.gov/26525384#searchForm]によれば、2013年1月現在、統合失調症、気分障害に関するGWASの論文が24にのぼっている。このなかで、一般的に有意な関連とされているP値を示しているSNP数は8論文である。一方、依存症に関しては1編の論文のみであり、有意なSNPは検出されていない。自閉症に関しては6編の論文があり、2編が有意で、有意な関連を示しているのはAlzheimer病では31編の論文があり、6編の論文である。ただ、有意であってもいずれもオッズ比は小さく、比較的頻度の高い多型で大きな関連を示しているものはアルツハイマー病のApoE以外はない。  


稀な変異、とくにde novoの変異では精神疾患の病因に大きく寄与している可能性のものが発見されつつある。その代表はCNVであり、11領域のCNVがとくに複数の精神疾患のリスクに関わっいることが知られている<ref><pubmed> 22424231 </pubmed></ref> 。
稀な変異、とくにde novoの変異では精神疾患の病因に大きく寄与している可能性のものが発見されつつある。その代表はCNVであり、11領域のCNVがとくに複数の精神疾患のリスクに関わっいることが知られている<ref><pubmed> 22424231 </pubmed></ref>
 
精神疾患に対する効果量の大きい多型がほとんどないことから、遺伝疫学的解析により推定された比較的高い遺伝率を疑問視する見解もあるが、分子遺伝学的所見は以前推定されていた遺伝率を確認しつつある&lt;ref&gt;&lt;pubmed&gt; 23628988&nbsp;&lt;/pubmed&gt;&lt;/ref&gt;


== 精神科臨床に与えた影響  ==
== 精神科臨床に与えた影響  ==
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日常臨床では以前より遺伝負因は精神診断に参考にされてきたものの、分子遺伝学的研究成果はこれまでのところ診断に大きな影響を与えていない。薬理ゲノム学の所見は今後日常臨床に利用されていく可能性がある。  
日常臨床では以前より遺伝負因は精神診断に参考にされてきたものの、分子遺伝学的研究成果はこれまでのところ診断に大きな影響を与えていない。薬理ゲノム学の所見は今後日常臨床に利用されていく可能性がある。  


ヒトゲノムプロジェクトが期待された成果の一つに多因子疾患の画期的な治療法、予防法の開発がある。しかし、がんを除けば、現時点ではまだ期待通りになっておらず、精神疾患の研究も例外ではない。NIHの支出した精神科関係の研究費の中で分子遺伝学的研究に費やされた研究費は数%程度で多くはないものの、現時点では研究成果が日常臨床に影響をあたえるような影響を与えていないことから、費用対効果について批判的に見る目もある<ref><pubmed> 21625325 </pubmed></ref>。
ヒトゲノムプロジェクトが期待された成果の一つに多因子疾患の画期的な治療法、予防法の開発がある。しかし、がんを除けば、現時点ではまだ期待通りになっておらず、精神疾患の研究も例外ではない。NIHの支出した精神科関係の研究費の中で分子遺伝学的研究に費やされた研究費は数%程度で多くはないものの、現時点では研究成果が日常臨床に影響をあたえるような影響を与えていないことから、費用対効果について批判的に見る目もある<ref><pubmed> 21625325 </pubmed></ref>。  
 
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== 参考文献  ==


== 参考文献 ==
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