「細胞死」の版間の差分

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===ネクロプトーシス===
===ネクロプトーシス===
 ネクロプトーシス(Necroptosis)は、最もよく研究されている制御されたネクローシスである<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。ある種の細胞ではTNFα刺激による外因性アポトーシス経路が阻害された場合にはネクローシス様の細胞死が代償的に生じるが、2005年にJunying Yuanらのグループがその阻害剤を同定し、Necrostatin (Nec)-1と命名した<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。さらに Nec-1の標的因子のひとつとしてreceptor interacting protein kinase-1(RIPK1)と呼ばれるセリン[[スレオニン]]キナーゼを同定したのを端緒に、その分子機構の解明に飛躍的な進歩がもたらされた<ref name=ref7 > <ref name=ref8 />。ネクロプトーシスの実行には、RIPK1と相同性を有するRIPK3と呼ばれるキナーゼとその基質であるmixed lineage kinase like (MLKL)が必須であるとされる<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。ネクロプトーシスに関与すると考えられてきたRIPK1は、ネクロプトーシスを促進する場合と抑制する場合があることが、最近の組織特異的なRIPK1遺伝子欠損[[マウス]]の解析から明らかになった。ネクロプトーシス実行時には、RIPK1, RIPK3, MLKLを含むNecrosomeと呼ばれるタンパク質複合体が形成される。多量体化しリン酸化により活性化したRIPK3はMLKLをリン酸化し、リン酸化MLKLは細胞膜上で膜孔を形成または細胞膜への[[イオンチャネル]]の配向を介して細胞膜の破裂を引き起こすというモデルが提唱されている<ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref>。 ネクロプトーシス実行はさまざまな経路を介して生じるが、アポトーシスの制御と密接な関連を持つ。外因性アポトーシス経路活性化刺激が入った際に、カスパーゼ8とFADDが存在すればアポトーシスが実行される。活性化されたカスパーゼ8はRIPK1, RIPK3, CYLDなどのネクロプトーシス誘導に関与する分子を切断、不活性化することでネクロプトーシス誘導をブロックしていると考えられる。逆にカスパーゼ8活性が化合物やウイルス由来の阻害タンパク質あるいは遺伝的欠損により失われた場合、ネクロプトーシスが実行される。同様に、自然[[免疫]]経路であるToll-like receptor (TLR)4やTLR3によってもRIPK3-MLKL依存的なネクロプトーシスが生じる場合があり、パイロトーシスとのクロストークも示唆される。このように、ネクロプトーシス実行は細胞種・状況依存度が高いといえる<ref name=ref10 />。
 ネクロプトーシス(Necroptosis)は、最もよく研究されている制御されたネクローシスである<ref name=ref7><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref8><pubmed></pubmed></ref>。ある種の細胞ではTNFα刺激による外因性アポトーシス経路が阻害された場合にはネクローシス様の細胞死が代償的に生じるが、2005年にJunying Yuanらのグループがその阻害剤を同定し、Necrostatin (Nec)-1と命名した<ref name=ref9><pubmed></pubmed></ref>。さらに Nec-1の標的因子のひとつとしてreceptor interacting protein kinase-1(RIPK1)と呼ばれるセリン[[スレオニン]]キナーゼを同定したのを端緒に、その分子機構の解明に飛躍的な進歩がもたらされた<ref name=ref7 /> <ref name=ref8 />。ネクロプトーシスの実行には、RIPK1と相同性を有するRIPK3と呼ばれるキナーゼとその基質であるmixed lineage kinase like (MLKL)が必須であるとされる<ref name=ref10><pubmed></pubmed></ref>。ネクロプトーシスに関与すると考えられてきたRIPK1は、ネクロプトーシスを促進する場合と抑制する場合があることが、最近の組織特異的なRIPK1遺伝子欠損[[マウス]]の解析から明らかになった。ネクロプトーシス実行時には、RIPK1, RIPK3, MLKLを含むNecrosomeと呼ばれるタンパク質複合体が形成される。多量体化しリン酸化により活性化したRIPK3はMLKLをリン酸化し、リン酸化MLKLは細胞膜上で膜孔を形成または細胞膜への[[イオンチャネル]]の配向を介して細胞膜の破裂を引き起こすというモデルが提唱されている<ref name=ref27><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref28><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref29><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref30><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref31><pubmed></pubmed></ref>。 ネクロプトーシス実行はさまざまな経路を介して生じるが、アポトーシスの制御と密接な関連を持つ。外因性アポトーシス経路活性化刺激が入った際に、カスパーゼ8とFADDが存在すればアポトーシスが実行される。活性化されたカスパーゼ8はRIPK1, RIPK3, CYLDなどのネクロプトーシス誘導に関与する分子を切断、不活性化することでネクロプトーシス誘導をブロックしていると考えられる。逆にカスパーゼ8活性が化合物やウイルス由来の阻害タンパク質あるいは遺伝的欠損により失われた場合、ネクロプトーシスが実行される。同様に、自然[[免疫]]経路であるToll-like receptor (TLR)4やTLR3によってもRIPK3-MLKL依存的なネクロプトーシスが生じる場合があり、パイロトーシスとのクロストークも示唆される。このように、ネクロプトーシス実行は細胞種・状況依存度が高いといえる<ref name=ref10 />。


===パイロトーシス===
===パイロトーシス===
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 多種多様な細胞死が見つかる一方、その命名は各研究者が独自に行なってきたため、細胞死の名称や定義が混乱している。これを受けて、オートファジー細胞死の例で見られるように、細胞死の定義と命名に関して整理を行なうべきとの提言が細胞死研究者のコミュニティから出されている<ref name=ref3 /> <ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref>。今後の分子機構の解明次第で、パイロトーシスやフェロプトーシスなどの新しい細胞死に関しては、名称や定義が変化する可能性もあり、注意が必要である。
 多種多様な細胞死が見つかる一方、その命名は各研究者が独自に行なってきたため、細胞死の名称や定義が混乱している。これを受けて、オートファジー細胞死の例で見られるように、細胞死の定義と命名に関して整理を行なうべきとの提言が細胞死研究者のコミュニティから出されている<ref name=ref3 /> <ref name=ref22><pubmed></pubmed></ref>。今後の分子機構の解明次第で、パイロトーシスやフェロプトーシスなどの新しい細胞死に関しては、名称や定義が変化する可能性もあり、注意が必要である。


 英語での発音についても、-ptosisの冒頭のpを発音するか否かは見解がわかれる。ApoptosisとPyroptosisについては、それぞれ命名者であるKerrらとCoocksonらが提唱した際に-ptosisのpは無声であるとしている1;Fink, 2005 #1359。これに従い、本稿では日本語でのカタカナ表記もアポトーシスとパイロトーシスとする。しかし実際の会話では、Apoptosisのpを-ptosisの由来のギリシャ語発音(πτῶσις)にならい発音する外国人が非常に多い。そこで本項では、発音の仕方が明確に記述されていないNecroptosis,Ferroptosisについては、pを発音するカタカナ表記である「ネクロプトーシス」「フェロプトーシス」を採用している<ref>http://dimb.w3.kanazawa-u.ac.jp/essay/カタカナ標記.htm カタカナ標記について(金沢大学須田貴司教授による解説)</ref>。
 英語での発音についても、-ptosisの冒頭のpを発音するか否かは見解がわかれる。ApoptosisとPyroptosisについては、それぞれ命名者であるKerrらとCoocksonらが提唱した際に-ptosisのpは無声であるとしている1;Fink, 2005 #1359。これに従い、本稿では日本語でのカタカナ表記もアポトーシスとパイロトーシスとする。しかし実際の会話では、Apoptosisのpを-ptosisの由来のギリシャ語発音(πτῶσις)にならい発音する外国人が非常に多い。そこで本項では、発音の仕方が明確に記述されていないNecroptosis,Ferroptosisについては、pを発音するカタカナ表記である「ネクロプトーシス」「フェロプトーシス」を採用している<ref>[http://dimb.w3.kanazawa-u.ac.jp/essay/カタカナ標記.htm カタカナ標記について(金沢大学須田貴司教授による解説)]</ref>。


==神経系における細胞死の役割==
==神経系における細胞死の役割==