「縫線核」の版間の差分

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英語名:raphe nuclei 羅:nuclei raphe 独:Raphe-Kerne 仏:noyaux du raphé
英語名:raphe nuclei 羅:nuclei raphe 独:Raphe-Kerne 仏:noyaux du raphé


{{box|text= 縫線核は中脳から脳幹の内側部に分布する細胞集団で、複数の核よりなる縫線核「群」である。免疫組織学的手法によりセロトニン細胞の分布とほぼ重なり、DahlströmとFuxeによって9つの神経核B1-B9の集合体として記載された。ただし、セロトニン細胞は縫線核外の近傍領域にも存在し、逆に、縫線核にはセロトニン以外の伝達物質を含む神経細胞も存在する。異なる縫線核は、菱脳節 (rhombomere)の異なる領域から発生し、マウスでは吻側のrhombomere1 (r1)からB4、6、7が、その後さらに尾側のr2からB5、8、9が、r5-8からB1、2、3が発生する。縫線核は脳のほぼ全域へ投射するが、縫線核内の起始部位によって投射先が異なる。入力元は主に辺縁系に属する前頭葉皮質や皮質下領域である。縫線核ニューロンの発火は睡眠覚醒リズム・歩行・呼吸などのパターン的な運動のみならず、注意・報酬などの情動や認知機能にも関与する。}}
{{box|text= 縫線核は中脳から脳幹の内側部に分布する細胞集団で、9つの神経核B1-B9よりなる。免疫組織学的手法によりセロトニン細胞の分布とほぼ重なる。ただし、セロトニン細胞は縫線核外の近傍領域にも存在し、逆に、縫線核にはセロトニン以外の伝達物質を含む神経細胞も存在する。異なる縫線核は、菱脳節の異なる領域から発生し、マウスでは吻側のrhombomere1 (r1)からB4、6、7が、その後さらに尾側のr2からB5、8、9が、r5-8からB1、2、3が発生する。縫線核は脳のほぼ全域へ投射するが、縫線核内の起始部位によって投射先が異なる。入力元は主に辺縁系に属する前頭葉皮質や皮質下領域である。睡眠覚醒リズム・歩行・呼吸などのパターン的な運動のみならず、注意・報酬などの情動や認知機能にも関与する。}}


[[image:KaeNakamura-Fig.png|thumb|400px|'''図.霊長類の縫線核'''<br>DRN: [[背側縫線核]] ([[dorsal raphe nucleus]]); MRN: [[内側縫線核]] ([[median raphe nucleus]]); NRM: [[大縫線核]] ([[nucleus raphe magnus]]); NRP: [[淡蒼縫線核]] ([[nucleus raphe pallidus]]); NRO: [[不確縫線核]] ([[nucleus raphe obscures]])<br>
[[image:KaeNakamura-Fig.png|thumb|400px|'''図.霊長類の縫線核'''<br>DRN: [[背側縫線核]] ([[dorsal raphe nucleus]]); MRN: [[内側縫線核]] ([[median raphe nucleus]]); NRM: [[大縫線核]] ([[nucleus raphe magnus]]); NRP: [[淡蒼縫線核]] ([[nucleus raphe pallidus]]); NRO: [[不確縫線核]] ([[nucleus raphe obscures]])<br>
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==== 吻側核群 ====
==== 吻側核群 ====
 中脳に分布し、そのうち最大の核B7とその尾側につながるやや小さいB6は合わせて[[背側縫線核]](dorsal raphe nucleus, DRN)と呼ばれる。背側縫線核は[[中心灰白質]]の腹側、吻側は[[動眼神経核]]レベルから[[第4脳室]]尾側端まで分布する。背側縫線核はさらにinterfascicular、ventromedial、ventrolateral (いわゆるlateral wings)、caudal components、rostral componentsに分けられ、それぞれからの入出力も異なる<ref name=ref1><pubmed>1783685</pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed>9466453</pubmed></ref>。特に外側のwingsと呼ばれる部位は、[[wj:ヒト|ヒト]]や[[wj:サル|サル]]では[[滑車神経]]周辺によく発達している。
 中脳に分布し、そのうち最大の核B7とその尾側につながるやや小さいB6は合わせて[[背側縫線核]](dorsal raphe nucleus, DRN)と呼ばれる。背側縫線核は[[中心灰白質]]の腹側、吻側は[[動眼神経核]]レベルから[[第4脳室]]尾側端まで分布する。背側縫線核はさらに[[縫線核#吻側核群|束間部]] (interfascicular)、[[縫線核#吻側核群|腹内側部]] (ventromedial)、[[縫線核#吻側核群|腹外側部]] (ventrolateral、いわゆる[[縫線核#吻側核群|外側部]]; lateral wings)、[[縫線核#吻側核群|尾側部]] (caudal components)、[[縫線核#吻側核群|吻側部]] (rostral components)に分けられ、それぞれからの入出力も異なる<ref name=ref1><pubmed>1783685</pubmed></ref><ref name=ref2><pubmed>9466453</pubmed></ref>。特に外側部と呼ばれる部位は、[[wj:ヒト|ヒト]]や[[wj:サル|サル]]では[[滑車神経]]周辺によく発達している。


 B8とB5は[[内側縫線核]](median raphe)または[[上中心核]](nucleus centralis superior)と呼ばれ、吻側は[[上小脳脚]]交叉レベル、尾側は[[顔面神経丘]]の吻側レベルまで分布する。
 B8とB5は[[内側縫線核]](median raphe)または[[上中心核]](nucleus centralis superior)と呼ばれ、吻側は[[上小脳脚]]交叉レベル、尾側は[[顔面神経丘]]の吻側レベルまで分布する。
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|[[内側縫線核]](median raphe)または[[上中心核]](nucleus centralis superior)||B5, B8
|[[内側縫線核]](median raphe)または[[上中心核]](nucleus centralis superior)||B5, B8
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| [[背側縫線核]] (dorsal raphe nucleus) || B6, B7
| [[背側縫線核]] (dorsal raphe nucleus) <br>
* [[縫線核#吻側核群|束間部]] (interfascicular)
* [[縫線核#吻側核群|腹内側部]] (ventromedial)
* [[縫線核#吻側核群|腹外側部]] (ventrolateral、いわゆる[[縫線核#吻側核群|外側部]]; lateral wings)
* [[縫線核#吻側核群|尾側部]] (caudal components)
* [[縫線核#吻側核群|吻側部]] (rostral components)<br>
|| B6, B7
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 縫線核細胞の前頭への投射線維の形態学的特徴や投射先はその起源核によって異なる<ref name=ref4><pubmed>16157378</pubmed></ref>。背側縫線核からの投射線維は小さな結節状構造バリコシティー (varicosity)を持つ細い軸索が広汎に微細に分岐し、小型の多形性のシナプスボタンを有し、[[大脳基底核]]や[[前頭皮質]]、外側[[中隔核]]、[[扁桃体]]、腹側[[海馬]]に投射する。内側縫線核からの投射線維は比較的太く結節状構造は有さず、分岐は短く細く、大きい球形のシナプスボタンを有し、背側海馬や内側中隔核、視床下部に投射する。この形態学的差異は[[アンフェタミン]]誘導体である神経毒 [[パラクロロアンフェタミン]] ([[parachloroamphetamine]], [[PCA]]) や[[3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン]] ([[3,4-methylenedioxymethamphetamine]], [[MDMA]], 通称‘ecstasy’)に対する脆弱性とも関連がある可能性があり、投与後、内側縫線核からの投射線維は保存されている一方、背側縫線核からの投射線維は障害される<ref name=ref5><pubmed>3323265</pubmed></ref>。神経毒への感受性の差は、投射先の[[セロトニントランスポーター]] ([[SERT]])の分布の差とも関連があり、背側縫線核から微細な投射を受ける[[側坐核]]のほとんどの部位はセロトニントランスポーター濃度が高く、内側縫線核から球状のシナプス投射を受ける尾側の[[側坐核]]shellではセロトニントランスポーター濃度が非常に低い。
 縫線核細胞の前頭への投射線維の形態学的特徴や投射先はその起源核によって異なる<ref name=ref4><pubmed>16157378</pubmed></ref>。背側縫線核からの投射線維は小さな結節状構造バリコシティー (varicosity)を持つ細い軸索が広汎に微細に分岐し、小型の多形性のシナプスボタンを有し、[[大脳基底核]]や[[前頭皮質]]、外側[[中隔核]]、[[扁桃体]]、腹側[[海馬]]に投射する。内側縫線核からの投射線維は比較的太く結節状構造は有さず、分岐は短く細く、大きい球形のシナプスボタンを有し、背側海馬や内側中隔核、視床下部に投射する。この形態学的差異は[[アンフェタミン]]誘導体である神経毒 [[パラクロロアンフェタミン]] ([[parachloroamphetamine]], [[PCA]]) や[[3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン]] ([[3,4-methylenedioxymethamphetamine]], [[MDMA]], 通称‘ecstasy’)に対する脆弱性とも関連がある可能性があり、投与後、内側縫線核からの投射線維は保存されている一方、背側縫線核からの投射線維は障害される<ref name=ref5><pubmed>3323265</pubmed></ref>。神経毒への感受性の差は、投射先の[[セロトニントランスポーター]] ([[SERT]])の分布の差とも関連があり、背側縫線核から微細な投射を受ける[[側坐核]]のほとんどの部位はセロトニントランスポーター濃度が高く、内側縫線核から球状のシナプス投射を受ける尾側の[[側坐核]]shellではセロトニントランスポーター濃度が非常に低い。


 一つの縫線核ニューロンからは複数の領域に枝分かれして投射するいわゆる側枝投射 (collateral projection)が報告されている。例えば、[[線条体]]と[[黒質]]、[[中隔野]]と[[嗅内野]]、[[前頭葉]]と側坐核、扁桃体中心核と視床下部[[室傍核]]、[[外側膝状体]]と[[上丘]]などがあるがその機能的意義は不明である。
 一つの縫線核ニューロンからは複数の領域に枝分かれして投射するいわゆる側枝投射 (collateral projection)が報告されている。例えば、[[線条体]]と[[黒質]]、[[中隔野]]と[[嗅内野]]、[[前頭葉]]と側坐核、扁桃体中心核と[[視床下部室傍核]]、[[外側膝状体]]と[[上丘]]などがあるがその機能的意義は不明である。


==== 背側縫線核からの投射 ====
==== 背側縫線核からの投射 ====
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====摂食====
====摂食====
 淡蒼縫線核, 不確縫線核細胞は[[摂食|摂食行動]]そのものに反応し、中でも[[wj:咀嚼|咀嚼]]や[[wj:嚥下|嚥下]]に関与するもの、持続的に発火するので[[wj:消化管|消化管]]の運動に関与している可能性があるものがある。
 淡蒼縫線核, 不確縫線核細胞は[[摂食|摂食行動]]そのものに反応し、中でも[[咀嚼]]や[[嚥下]]に関与するもの、持続的に発火するので[[wj:消化管|消化管]]の運動に関与している可能性があるものがある。


===吻側部===
===吻側部===

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