「脂肪酸結合タンパク質7型」の版間の差分

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==分子構造とリガンド結合能==
==分子構造とリガンド結合能==
 タンパク質の構造は、131個の[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]から構成され、[[wikipedia:ja:分子量|分子量]]は約15kDである。10個の逆平行&beta;構造が2枚の直交する&beta;シートを形成し、2つの短い&alpha;へリックスを持つ<ref name=ref2 />)。ヒトのFABP7はFABP分子ファミリーの中で構造的に最も近い心臓型FABP(FABP3)と[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]配列で約92%、アミノ酸配列で約65%の相同性を持つ。FABP7は、脂肪酸のなかでもDHAやEPAなどのn-3系脂肪酸と親和性が高い。なおFABP3はn-6系[[wikipedia:ja:脂肪酸|脂肪酸]]、表皮型FABP(FABP5)は飽和脂肪酸に親和性が高いとされる<ref name=ref3 />)
 タンパク質の構造は、131個の[[wikipedia:ja:アミノ酸|アミノ酸]]から構成され、[[wikipedia:ja:分子量|分子量]]は約15kDである。10個の逆平行&beta;構造が2枚の直交する&beta;シートを形成し、2つの短い&alpha;へリックスを持つ<ref name=ref2 />)。ヒトのFABP7はFABP分子ファミリーの中で構造的に最も近い心臓型FABP(FABP3)と[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]配列で約92%、アミノ酸配列で約65%の相同性を持つ。FABP7は、脂肪酸のなかでもDHAやEPAなどのn-3系脂肪酸と親和性が高い。なおFABP3はn-6系[[wikipedia:ja:脂肪酸|脂肪酸]]、表皮型FABP(FABP5)は飽和脂肪酸に親和性が高いとされる<ref name=ref3 />。


==発現の制御と機能==
==発現の制御と機能==
 FABP7遺伝子はヒトで6番染色体短腕22-23、マウスでは10番染色体に存在している (NCBI website, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=FABP7)。 発達期の脳のFABP7を制御する転写因子としてNotchシグナル経路、Reelin-[[DAB1]]、[[PAX]]6、NF-1、[[POU]]ドメインタンパク質が知られている。マウスではNotchシグナル経路、ラットではPAX6が特に重要な役割を果たすと考えられている <ref name=ref3 /><ref name=ref4><pubmed> 16237179 </pubmed></ref>。
 FABP7遺伝子はヒトで6番染色体短腕22-23、マウスでは10番染色体に存在している (NCBI website, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/?term=FABP7)。 発達期の脳のFABP7を制御する転写因子としてNotchシグナル経路、Reelin-[[DAB1]]、[[PAX]]6、NF-1、[[POU]]ドメインタンパク質が知られている。マウスではNotchシグナル経路、ラットではPAX6が特に重要な役割を果たすと考えられている <ref name=ref3 /><ref name=ref4><pubmed> 16237179 </pubmed></ref>。
 FABPは核と細胞質の双方に発現しており、proliferator-activated receptor ([[wikipedia:ja:PPAR|PPAR]])を活性化することによって遺伝子を制御していると考えられている。肝臓型FABP1がPPAR&alpha;とPPAR&gamma;、脂肪細胞型FABP4と表皮型FABP5がPPAR&gamma;およびPPAR&beta;に結合することが明らかにされている一方、FABP7の[[wikipedia:ja:核内受容体|核内受容体]]との結合や転写調節の詳細は明らかではない<ref name=ref3 />)。いくつかの悪性腫瘍における発現解析結果から、PPAR&gamma;やretinoid X receptor&beta; (RXR&beta;)との関連が示唆されている <ref name=ref5><pubmed> 20834042 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 22322885 </pubmed></ref>。
 FABPは核と細胞質の双方に発現しており、proliferator-activated receptor ([[wikipedia:ja:PPAR|PPAR]])を活性化することによって遺伝子を制御していると考えられている。肝臓型FABP1がPPAR&alpha;とPPAR&gamma;、脂肪細胞型FABP4と表皮型FABP5がPPAR&gamma;およびPPAR&beta;に結合することが明らかにされている一方、FABP7の[[wikipedia:ja:核内受容体|核内受容体]]との結合や転写調節の詳細は明らかではない<ref name=ref3 />。いくつかの悪性腫瘍における発現解析結果から、PPAR&gamma;やretinoid X receptor&beta; (RXR&beta;)との関連が示唆されている <ref name=ref5><pubmed> 20834042 </pubmed></ref><ref name=ref6><pubmed> 22322885 </pubmed></ref>。


==神経系での局在と機能==
==神経系での局在と機能==
 胎児期の[[大脳皮質]]発達過程において[[神経細胞]]の移動の90%は[[放射状グリア細胞]]によって誘導されると考えられている。哺乳類の脳の発達期にFABP7は放射状グリア細胞に特異的に発現し、[[グリア細胞]]の突起の伸長や神経細胞の移動に関与している。FABP7の放射状グリアでの発現は神経細胞の移動によって誘導され、この誘導はNotchシグナル経路を介して行われている<ref name=ref3 />。哺乳類のFABP7は神経細胞の新生が活発な胎生期の[[脳室]]および[[脳室下帯]]の[[神経上皮]]や成熟期[[海馬]][[歯状回]]顆粒細胞層の[[神経幹細胞]]に局在している。最近の研究では、FABP7が神経幹細胞の未分化性の維持に深く関わることが示されている<ref name=ref4 /><ref name=ref7><pubmed> 20057506 </pubmed></ref>。
 胎児期の[[大脳皮質]]発達過程において[[神経細胞]]の移動の90%は[[放射状グリア細胞]]によって誘導されると考えられている。哺乳類の脳の発達期にFABP7は放射状グリア細胞に特異的に発現し、[[グリア細胞]]の突起の伸長や神経細胞の移動に関与している。FABP7の放射状グリアでの発現は神経細胞の移動によって誘導され、この誘導はNotchシグナル経路を介して行われている<ref name=ref3 />。哺乳類のFABP7は神経細胞の新生が活発な胎生期の[[脳室]]および[[脳室下帯]]の[[神経上皮]]や成熟期[[海馬]][[歯状回]]顆粒細胞層の[[神経幹細胞]]に局在している。最近の研究では、FABP7が神経幹細胞の未分化性の維持に深く関わることが示されている<ref name=ref4 /><ref name=ref7><pubmed> 20057506 </pubmed></ref>。
これらの神経幹細胞の他に[[アストロサイト]]や[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]](OPC)での局在が報告されている<ref name=ref 1/> ><ref name=ref8><pubmed> 21938553 </pubmed></ref>。
これらの神経幹細胞の他に[[アストロサイト]]や[[オリゴデンドロサイト前駆細胞]](OPC)での局在が報告されている<ref name=ref 1/><ref name=ref8><pubmed> 21938553 </pubmed></ref>。
 FABP7は様々な神経精神疾患、特に[[統合失調症]]の病態との関連が示唆されている。統合失調症患者群において、FABP7の2番目のエクソンに存在する[[一塩基多型]](SNP)で有意な相関が認められ、FABP7mRNAレベルが統合失調症患者の死後脳で非患者と比較して有意に上昇していることも明らかにされている。FABP7欠損マウスでは統合失調症の[[エンドフェノタイプ]]のひとつとされる[[プレパルスインヒビション]](PPI)が障害されている。PPIの機能障害は他の神経[[精神疾患]]([[アルツハイマー病]]、[[自閉症障害]]、[[双極性障害]]など)にも見られることから、これらの疾患にもFABP7が関与していると考えられている <ref name=ref3 /><ref name=ref9><pubmed> 18001149 </pubmed></ref>。
 FABP7は様々な神経精神疾患、特に[[統合失調症]]の病態との関連が示唆されている。統合失調症患者群において、FABP7の2番目のエクソンに存在する[[一塩基多型]](SNP)で有意な相関が認められ、FABP7mRNAレベルが統合失調症患者の死後脳で非患者と比較して有意に上昇していることも明らかにされている。FABP7欠損マウスでは統合失調症の[[エンドフェノタイプ]]のひとつとされる[[プレパルスインヒビション]](PPI)が障害されている。PPIの機能障害は他の神経[[精神疾患]]([[アルツハイマー病]]、[[自閉症障害]]、[[双極性障害]]など)にも見られることから、これらの疾患にもFABP7が関与していると考えられている <ref name=ref3 /><ref name=ref9><pubmed> 18001149 </pubmed></ref>。
(Watanabe, Maekawa)。また、FABP7は[[ダウン症]]患者の脳に過剰に発現している<ref name=ref3 />。
(Watanabe, Maekawa)。また、FABP7は[[ダウン症]]患者の脳に過剰に発現している<ref name=ref3 />。
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