「脂質ラフト」の版間の差分

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=== 顕微鏡による可視化 ===
=== 顕微鏡による可視化 ===
[[Image:Raft1.PNG|thumb|350px|'''図3 脂質ラフトの形成と安定化'''<br>非刺激状態の細胞のラフトは小さくかつ短寿命であり、何らかの刺激を受けることによって安定化すると考えられる。]]  
[[Image:Raft1.PNG|thumb|350px|'''図3 脂質ラフトの形成と安定化'''<br>非刺激状態の細胞のラフトは小さくかつ短寿命であり、何らかの刺激を受けることによって安定化すると考えられる。]]  
[[Image:Raft3.PNG|thumb|350px|'''図4 疎水性領域の長さに基づく脂質―タンパク質間相互作用'''<br>ある種の膜貫通タンパク質はl<sub>o</sub>とl<sub>d</sub>の界面付近に分布することで膜の厚さのミスマッチを軽減する可能性がある。]]  
[[Image:Raft3.PNG|thumb|350px|'''図4 疎水性領域の長さに基づく脂質―タンパク質間相互作用'''<br>ある種の膜貫通タンパク質は膜貫通領域の長さゆえにl<sub>o</sub>とl<sub>d</sub>に局在し或いは膜領域の境界付近に分布することで膜の厚さのミスマッチを軽減する可能性がある。]]  


 人工膜のl<sub>o</sub>相はミクロンスケールのドメインとして観察されるのに対し、細胞膜では通常このような大きなラフトは観察されない。これはラフトの大きさが通常の[[wikipedia:ja:光学顕微鏡|光学顕微鏡]]の分解能の限界よりも小さいためと考えられる。しかし高分解能の可視化技術を用いることにより、直径10~200 nmの脂質ドメインが観察される。たとえば、[[超解像度光学顕微鏡]]のひとつ[[stimulated emission depletion (STED) microscopy]]を用いた解析では、スフィンゴ脂質やGPIアンカー型受容体が20 nmサイズの領域にごく短時間(&lt;10-20 ms)局在することが明らかになった<ref><pubmed>19098897</pubmed></ref>。また、楠見らは[[1粒子追跡法]](single particle tracking)によりGPIアンカー型受容体の動態を解析し、リガンドや抗体によって多量体化した場合に、[[受容体]]が50 nmサイズの領域に一過性(約0.5 s)にトラップされる現象を見出した。トラップが起きるためには細胞質側の[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Lyn]]など[[エフェクター分子]]の活性化が必要であった<ref><pubmed>17517964</pubmed></ref>。こうした多くの報告を総合することで、非刺激状態の細胞のラフトは当初想定されていたよりも小さくかつ短寿命であり、何らかの刺激を受けることによって安定化されると考えられている(図3)。またラフトの形成には脂質の相分離のみならず、[[アクチン]]などのタンパク質と脂質の相互作用の関与が強く示唆されている。
 人工膜のl<sub>o</sub>相はミクロンスケールのドメインとして観察されるのに対し、細胞膜では通常このような大きなラフトは観察されない。これはラフトの大きさが通常の[[wikipedia:ja:光学顕微鏡|光学顕微鏡]]の分解能の限界よりも小さいためと考えられる。しかし高分解能の可視化技術を用いることにより、直径10~200 nmの脂質ドメインが観察される。たとえば、[[超解像度光学顕微鏡]]のひとつ[[stimulated emission depletion (STED) microscopy]]を用いた解析では、スフィンゴ脂質やGPIアンカー型受容体が20 nmサイズの領域にごく短時間(&lt;10-20 ms)局在することが明らかになった<ref><pubmed>19098897</pubmed></ref>。また、楠見らは[[1粒子追跡法]](single particle tracking)によりGPIアンカー型受容体の動態を解析し、リガンドや抗体によって多量体化した場合に、[[受容体]]が50 nmサイズの領域に一過性(約0.5 s)にトラップされる現象を見出した。トラップが起きるためには細胞質側の[[チロシンリン酸化#.E9.9D.9E.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93.E5.9E.8B.E3.83.81.E3.83.AD.E3.82.B7.E3.83.B3.E3.82.AD.E3.83.8A.E3.83.BC.E3.82.BC|Lyn]]など[[エフェクター分子]]の活性化が必要であった<ref><pubmed>17517964</pubmed></ref>。こうした多くの報告を総合することで、非刺激状態の細胞のラフトは当初想定されていたよりも小さくかつ短寿命であり、何らかの刺激を受けることによって安定化されると考えられている(図3)。またラフトの形成には脂質の相分離のみならず、[[アクチン]]などのタンパク質と脂質の相互作用の関与が強く示唆されている。
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