「脊髄下行路」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
 
(2人の利用者による、間の2版が非表示)
2行目: 2行目:
<font size="+1">[http://researchmap.jp/tkitom 武井 智彦]、[http://researchmap.jp/kazuhikoseki 関 和彦]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/tkitom 武井 智彦]、[http://researchmap.jp/kazuhikoseki 関 和彦]</font><br>
'' 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター''<br>
'' 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年12月25日 原稿完成日:2014年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年12月25日 原稿完成日:2021年12月27日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/hitoshiokamoto 岡本 仁](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所、[http://researchmap.jp/keijitanaka 田中 啓治](国立研究開発法人理化学研究所 脳神経科学研究センター)<br>
</div>
</div>


英語名:descending pathways 独:absteigende Bahnen 仏:circuit descendant
英語名:descending pathways 独:absteigende Bahnen 仏:circuit descendant


{{box|text= 脊髄下行路とは大脳や脳幹から起始して脊髄へと下行する神経経路の総称である。直接もしくは間接的に脊髄運動ニューロンへと終止し四肢や体幹の運動制御に関わる。起始する神経核(皮質)や下行する脊髄内部位によって分類され、それぞれ異なる運動機能を担う。下行する脊髄部位によって[[外側経路]]と[[腹内側経路]]に大別することができる。側索を下行する経路(外側経路)は脊髄前角および中間層の外側部へと投射し、主に四肢の制御に関わるとされ、一方、前索を下行する経路([[腹内側経路]])は脊髄前角および中間層の腹内側部へと投射し、体幹や姿勢の制御に関わる。}}
{{box|text= 脊髄下行路とは[[大脳]]や[[脳幹]]から起始して[[脊髄]]へと下行する神経経路の総称である。直接もしくは間接的に脊髄[[運動ニューロン]]へと終止し四肢や体幹の[[運動制御]]に関わる。起始する[[神経核]](皮質)や下行する脊髄内部位によって分類され、それぞれ異なる運動機能を担う。下行する脊髄部位によって[[外側経路]]と[[腹内側経路]]に大別することができる。[[側索]]を下行する経路(外側経路)は脊髄[[前角]]および[[中間層]]の外側部へと投射し、主に四肢の制御に関わるとされ、一方、前索を下行する経路([[腹内側経路]])は脊髄前角および中間層の腹内側部へと投射し、体幹や姿勢の制御に関わる。}}


== 脊髄下行路とは ==
== 脊髄下行路とは ==
19行目: 19行目:
 一方、前索を下行する経路([[腹内側経路]])は脊髄前角および中間層の腹内側部へと投射し、体幹や姿勢の制御に関わる(例、[[腹側皮質脊髄路]]、[[網様体脊髄路]]、[[前庭脊髄路]]、[[視蓋脊髄路]])。
 一方、前索を下行する経路([[腹内側経路]])は脊髄前角および中間層の腹内側部へと投射し、体幹や姿勢の制御に関わる(例、[[腹側皮質脊髄路]]、[[網様体脊髄路]]、[[前庭脊髄路]]、[[視蓋脊髄路]])。


(編集コメント:それぞれの経路に図があればと思います)
== 皮質脊髄路 ==
== 皮質脊髄路 ==
 皮質脊髄路 (corticospinal tract)は主に[[大脳皮質]]の[[一次運動野]]([[ブロードマン4野]])や[[運動前野]]([[ブロードマン6野]])、および一部は[[体性感覚]]領域([[ブロードマン3野|ブロードマン3]]、[[ブロードマン1野|1]]、[[ブロードマン2野|2野]])から起始する。皮質脊髄路は[[内包]]を通り[[延髄錐体]]へと至る<ref name=ref1>'''Asanuma, H.'''<br>The pyramidal tract<br>in Handbook of physiology, Sec I, The nervous system, Vol II, Motor control, Part I, V.B. Brooks, Editor 1981.</ref>。そのため皮質脊髄路は[[錐体路]](pyramidal tract)とも呼ばれる。
 皮質脊髄路 (corticospinal tract)は主に[[大脳皮質]]の[[一次運動野]]([[ブロードマン4野]])や[[運動前野]]([[ブロードマン6野]])、および一部は[[体性感覚]]領域([[ブロードマン3野|ブロードマン3]]、[[ブロードマン1野|1]]、[[ブロードマン2野|2野]])から起始する。皮質脊髄路は[[内包]]を通り[[延髄錐体]]へと至る<ref name=ref1>'''Asanuma, H.'''<br>The pyramidal tract<br>in Handbook of physiology, Sec I, The nervous system, Vol II, Motor control, Part I, V.B. Brooks, Editor 1981.</ref>。そのため皮質脊髄路は[[錐体路]](pyramidal tract)とも呼ばれる。
25行目: 24行目:
 延髄錐体で約75%の線維が交叉を行い([[錐体交叉]])、反対側脊髄の[[側索]]背側部を下行して脊髄[[灰白質]]へと至る([[外側皮質脊髄路]])。外側皮質脊髄路は、脊髄灰白質において前角の外側部にある[[運動核]]および中間層の[[脊髄介在ニューロン]]へと投射し、主に四肢の遠位部の運動制御に関わる。
 延髄錐体で約75%の線維が交叉を行い([[錐体交叉]])、反対側脊髄の[[側索]]背側部を下行して脊髄[[灰白質]]へと至る([[外側皮質脊髄路]])。外側皮質脊髄路は、脊髄灰白質において前角の外側部にある[[運動核]]および中間層の[[脊髄介在ニューロン]]へと投射し、主に四肢の遠位部の運動制御に関わる。
===腹側皮質脊髄路===
===腹側皮質脊髄路===
 一方、延髄で交叉を行わない線維は同側脊髄の前索を下行する([[腹側皮質脊髄路]])。腹側皮質脊髄路は、前角の腹内側部および隣接中間層へ両側性に投射し、体幹の運動制御に関わる。[[霊長類]]においては、皮質脊髄路の一部(20%以下)が直接運動ニューロンを神経支配する事が知られており([[corticomotoneuronal cell|corticomotoneuronal(CM) cell]])、巧緻な運動制御などに関わると考えられている。CM細胞は上肢領域で存在する一方、下肢領域では存在しない。
 一方、延髄で交叉を行わない線維は同側脊髄の前索を下行する([[腹側皮質脊髄路]])。腹側皮質脊髄路は、前角の腹内側部および隣接中間層へ両側性に投射し、体幹の運動制御に関わる。
 
 [[霊長類]]においては、皮質脊髄路の一部(20%以下)が直接運動ニューロンを神経支配する事が知られており([[corticomotoneuronal cell|corticomotoneuronal(CM) cell]])、巧緻な運動制御などに関わると考えられている。CM細胞は上肢領域で存在する一方、下肢領域では存在しない。


== 赤核脊髄路 ==
== 赤核脊髄路 ==
39行目: 40行目:


== 前庭脊髄路 ==
== 前庭脊髄路 ==
 前庭脊髄路 (vestibulospinal tract)は橋および延髄ある[[前庭神経核]]から起こり、起始核および脊髄内の下行部位によって[[外側前庭脊髄路]](lateral vestibulospinal tract、LVST)と[[内側前庭脊髄路]](medial vestibulospinal tract、MVST)に分けられる<ref name=ref6 />。
 前庭脊髄路 (vestibulospinal tract)は橋および延髄にある[[前庭神経核]]から起こり、起始核および脊髄内の下行部位によって[[外側前庭脊髄路]](lateral vestibulospinal tract、LVST)と[[内側前庭脊髄路]](medial vestibulospinal tract、MVST)に分けられる<ref name=ref6 />。
===外側前庭脊髄路===
===外側前庭脊髄路===
 外側前庭脊髄路は外側核から起始し、同側性に脊髄全長へ下行する。脊髄灰白質では主にⅦおよびⅧ層の内側に投射するが、一部運動ニューロンへシナプス結合を持つ。主に頚部および四肢の伸筋群活動を促進し、四肢の屈筋群の活動を抑制する。
 外側前庭脊髄路は外側核から起始し、同側性に脊髄全長へ下行する。脊髄灰白質では主にⅦおよびⅧ層の内側に投射するが、一部運動ニューロンへシナプス結合を持つ。主に頚部および四肢の伸筋群活動を促進し、四肢の屈筋群の活動を抑制する。