「脳室下帯」の版間の差分

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===傷害への反応===
===傷害への反応===
 脳にニューロンが大規模に脱落するような侵襲が加わると、脳室下帯におけるニューロン産生が亢進する。この反応は、[[ハンチントン病]]や[[パーキンソン病]]などの[[神経変性疾患]]モデルや外傷モデルでも生じるが、特に[[脳梗塞]]モデル動物で最も詳細に研究されている<ref name=ref50><pubmed>12161747</pubmed></ref> <ref name=ref51><pubmed>12447935</pubmed></ref> <ref name=ref52><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref53><pubmed></pubmed></ref>。
 脳にニューロンが大規模に脱落するような侵襲が加わると、脳室下帯におけるニューロン産生が亢進する。この反応は、[[ハンチントン病]]や[[パーキンソン病]]などの[[神経変性疾患]]モデルや外傷モデルでも生じるが、特に[[脳梗塞]]モデル動物で最も詳細に研究されている<ref name=ref50><pubmed>12161747</pubmed></ref> <ref name=ref51><pubmed>12447935</pubmed></ref> <ref name=ref52><pubmed>16210404</pubmed></ref> <ref name=ref53><pubmed>11296300</pubmed></ref>。


 げっ歯類の[[中大脳動脈]]を閉塞して作製する脳梗塞モデルでは、線条体の外側と隣接する大脳皮質のニューロンが脱落し、梗塞巣が形成される。傷害から1週間ほど経つと脳室下帯におけるニューロン産生が増加する。神経幹細胞の数や活性化状態の細胞の割合が増加し<ref name=ref54><pubmed></pubmed></ref>、一過性増殖細胞・神経芽細胞の産生が促進される(図2B、図3)。
 げっ歯類の[[中大脳動脈]]を閉塞して作製する脳梗塞モデルでは、線条体の外側と隣接する大脳皮質のニューロンが脱落し、梗塞巣が形成される。傷害から1週間ほど経つと脳室下帯におけるニューロン産生が増加する。神経幹細胞の数や活性化状態の細胞の割合が増加し<ref name=ref54><pubmed>15087713</pubmed></ref>、一過性増殖細胞・神経芽細胞の産生が促進される(図2B、図3)。


 ニューロン産生の増加には、虚血による[[低酸素誘導因子-1α]] ([[hypoxia-inducible factor-1α]], [[HIF-1α]])の活性化や[[wj:炎症|炎症]]によって誘導されるFGF2、[[上皮成長因子]] ([[epidermal growth factor]], [[EGF]])、[[グリア細胞由来神経栄養因子]] ([[glial cell-derived neurotrophic factor]], [[GDNF]])、BDNF、VEGF、[[毛様体神経栄養因子]] ([[Ciliary Neurotrophic Factor|ciliary neurotrophic factor]], [[CNTF]])、IGF-1など様々な栄養因子・増殖因子やサイトカインなどが関連している。また、Wnt・Notch1・Shhなど生理的条件下で神経幹細胞・一過性増殖細胞の機能制御に深く関わっている分子も、傷害後に発現が上昇し、脳室下帯におけるニューロン産生に促進的に働く<ref name=ref55><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref56><pubmed></pubmed></ref>。
 ニューロン産生の増加には、虚血による[[低酸素誘導因子-1α]] ([[hypoxia-inducible factor-1α]], [[HIF-1α]])の活性化や[[wj:炎症|炎症]]によって誘導されるFGF2、[[上皮成長因子]] ([[epidermal growth factor]], [[EGF]])、[[グリア細胞由来神経栄養因子]] ([[glial cell-derived neurotrophic factor]], [[GDNF]])、BDNF、VEGF、[[毛様体神経栄養因子]] ([[Ciliary Neurotrophic Factor|ciliary neurotrophic factor]], [[CNTF]])、IGF-1など様々な栄養因子・増殖因子やサイトカインなどが関連している。また、Wnt・Notch1・Shhなど生理的条件下で神経幹細胞・一過性増殖細胞の機能制御に深く関わっている分子も、傷害後に発現が上昇し、脳室下帯におけるニューロン産生に促進的に働く<ref name=ref55><pubmed>19762700</pubmed></ref> <ref name=ref56><pubmed>19536070</pubmed></ref>。


 虚血刺激やHIF-1αは血管新生を強力に誘導し、直接ダメージを受けない脳室下帯でも血管新生により血管が増加するという報告もある<ref name=ref57><pubmed></pubmed></ref>。血管新生促進因子とニューロン産生促進因子は重複しているものが多く、同じ分子を介して増殖が促進されているのかも知れない。また、血管が増加することで血管内皮細胞や血流からの増殖促進シグナルが増加して、二次的に神経幹細胞・前駆細胞の増殖が促進されている可能性もある。
 虚血刺激やHIF-1αは血管新生を強力に誘導し、直接ダメージを受けない脳室下帯でも血管新生により血管が増加するという報告もある<ref name=ref57><pubmed>25437857</pubmed></ref>。血管新生促進因子とニューロン産生促進因子は重複しているものが多く、同じ分子を介して増殖が促進されているのかも知れない。また、血管が増加することで血管内皮細胞や血流からの増殖促進シグナルが増加して、二次的に神経幹細胞・前駆細胞の増殖が促進されている可能性もある。


 産生された神経芽細胞の一部は、ケモカインなど誘引性に働く因子によって傷害部へ向かって脳室下帯から線条体へ移動していく<ref name=ref58><pubmed></pubmed></ref> <ref name=ref59><pubmed></pubmed></ref>。脳室下帯におけるニューロンの産生亢進・神経芽細胞の傷害部への移動は、数週間をピークとするが、その後も数ヶ月以上に亘って持続する<ref name=ref52 /> <ref name=ref57 />。線条体に移動した神経芽細胞の大部分は成熟前に死滅するが、ごく一部は傷害部やその周囲に生着し、回路に編入される<ref name=ref60><pubmed></pubmed></ref>。傷害部に生着するニューロンが、線条体の投射性ニューロンに分化するのか<ref name=ref50 />、本来の運命通りに嗅球の介在ニューロンのサブタイプとなるのかは<ref name=ref61><pubmed></pubmed></ref>、議論の最中である。傷害部に新生するニューロンは非常に少数で、脱落したニューロンの機能を補うには不十分であるが、これを様々な介入によって促進し、再生医学的な治療アプローチに発展させるため、研究が世界中で行われている。
 産生された神経芽細胞の一部は、ケモカインなど誘引性に働く因子によって傷害部へ向かって脳室下帯から線条体へ移動していく<ref name=ref58><pubmed>15959456</pubmed></ref> <ref name=ref59><pubmed>17191078</pubmed></ref>。脳室下帯におけるニューロンの産生亢進・神経芽細胞の傷害部への移動は、数週間をピークとするが、その後も数ヶ月以上に亘って持続する<ref name=ref52 /> <ref name=ref57 />。線条体に移動した神経芽細胞の大部分は成熟前に死滅するが、ごく一部は傷害部やその周囲に生着し、回路に編入される<ref name=ref60><pubmed>16775151</pubmed></ref>。傷害部に生着するニューロンが、線条体の投射性ニューロンに分化するのか<ref name=ref50 />、本来の運命通りに嗅球の介在ニューロンのサブタイプとなるのかは<ref name=ref61><pubmed></pubmed></ref>、議論の最中である。傷害部に新生するニューロンは非常に少数で、脱落したニューロンの機能を補うには不十分であるが、これを様々な介入によって促進し、再生医学的な治療アプローチに発展させるため、研究が世界中で行われている。


===脳室下帯におけるオリゴデンドロサイトの産生===
===脳室下帯におけるオリゴデンドロサイトの産生===