15,998
回編集
細 (→症状) |
細編集の要約なし |
||
(3人の利用者による、間の6版が非表示) | |||
1行目: | 1行目: | ||
<div align="right"> | <div align="right"> | ||
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0165172 細見 直永]、[http://researchmap.jp/read0088926 松本 昌泰]</font><br> | <font size="+1">[http://researchmap.jp/read0165172 細見 直永]、[http://researchmap.jp/read0088926 松本 昌泰]</font><br> | ||
'' | ''広島大学大学院 脳神経内科学''<br> | ||
DOI:<selfdoi /> | DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月24日 原稿完成日:2016年3月4日<br> | ||
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真] | 担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br> | ||
</div> | </div> | ||
72行目: | 72行目: | ||
|} | |} | ||
== | ==診断== | ||
===病歴聴取=== | ===病歴聴取=== | ||
====発症時間==== | ====発症時間==== | ||
脳梗塞の超急性期治療には、発症後の経過時間によりその適応が規定されるものがある。その典型例は急性期[[rt-PA静注血栓溶解療法]]であり、その適応は発症後4.5時間以内と規定され、これを遵守することが治療成績に大きく影響する。したがって、発症時間を確認することが重要であるが、[[睡眠]]中発症や独居老人などでは発症時間を確認することが困難であり、このため最終健常確認時間を発症時間とみなす。つまり発見時間が発症時間ではないことに十分注意した上で現病歴を聴取することが重要である。 | |||
====基礎疾患==== | ====基礎疾患==== | ||
83行目: | 83行目: | ||
*[[CT]]:脳梗塞急性期の来院時には脳出血との鑑別目的にて撮像される。脳梗塞超急性期に明らかな低吸収域として病巣が検出されることは少なく、明らかな低吸収域が検出されるまでには12時間以上かかることも多い。また、脳梗塞の超急性期に認められる微細なCT上の変化(早期虚血性変化(early CT sign))として、[[皮髄境界]]の消失、[[レンズ核]]の不明瞭化、脳溝の消失などが知られている。早期虚血性変化の診断には熟達が必要であるが、[http://melt.umin.ac.jp/MELT_WEB_SWFObj_Final/ "Early CT signs判読トレーニング"]サイトにてe-learningで画像診断訓練を行うことができる。CT画像の所見に基づき早期虚血性変化が認められる領域を評価し、減点法により虚血領域を評価するAlbert Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)も脳梗塞サイズを半定量評価するのに有効である。 | *[[CT]]:脳梗塞急性期の来院時には脳出血との鑑別目的にて撮像される。脳梗塞超急性期に明らかな低吸収域として病巣が検出されることは少なく、明らかな低吸収域が検出されるまでには12時間以上かかることも多い。また、脳梗塞の超急性期に認められる微細なCT上の変化(早期虚血性変化(early CT sign))として、[[皮髄境界]]の消失、[[レンズ核]]の不明瞭化、脳溝の消失などが知られている。早期虚血性変化の診断には熟達が必要であるが、[http://melt.umin.ac.jp/MELT_WEB_SWFObj_Final/ "Early CT signs判読トレーニング"]サイトにてe-learningで画像診断訓練を行うことができる。CT画像の所見に基づき早期虚血性変化が認められる領域を評価し、減点法により虚血領域を評価するAlbert Stroke Program Early CT Score(ASPECTS)も脳梗塞サイズを半定量評価するのに有効である。 | ||
*[[MRI]]:脳梗塞超急性期には[[T1強調画像|T1]]・[[T2強調画像]]などのMRIシーケンスでは病巣の検出が困難である。しかしながら、[[拡散強調画像]]により、早期から病巣を高信号域として確認することが可能である。[[MRA]]により頭蓋内の狭窄・閉塞血管を把握することは治療方針決定のためにも必要である。 | *[[MRI]]:脳梗塞超急性期には[[T1強調画像|T1]]・[[T2強調画像]]などのMRIシーケンスでは病巣の検出が困難である。しかしながら、[[拡散強調画像]]により、早期から病巣を高信号域として確認することが可能である。[[MRA]]により頭蓋内の狭窄・閉塞血管を把握することは治療方針決定のためにも必要である。 | ||
*[[wj:頸動脈|頸動脈]][[wj:超音波検査|エコー]]:頭蓋外血管とくに[[wikipedia:ja:頸動脈|頸動脈]]分岐部の[[wikipedia:ja:動脈硬化|動脈硬化]]病変や[[wikipedia:ja:内頸動脈|内頸動脈]]や[[椎骨動脈]]などの動脈解離が脳梗塞の原因となりえる。頸動脈エコーは頸部血管の状態の把握が簡便であり非侵襲検査であることから必須の検査である。 | |||
*[[wikipedia:ja:心電図| | *[[wikipedia:ja:心電図|心電図]]:[[心原性脳塞栓症]]の原因となる心筋梗塞・心筋症などの検出のために必要な検査である。また動脈硬化性脳梗塞である[[アテローム血栓性脳梗塞]]や[[ラクナ梗塞]]には[[wikipedia:ja:冠動脈|冠動脈]]疾患が合併する可能性があり、この評価としても必要である。 | ||
* | *心エコー(経胸壁及び経食道):心原性脳塞栓症の原因となる心疾患を検出する。心腔内に血栓が検出されることもあるが、心原性脳塞栓症の原因心疾患の同定には血栓自体の検出は必須ではない。また心腔内のモヤモヤエコーが高度であれば、塞栓症リスクが高度となることが知られている。 | ||
これらの検査の結果をふまえて、脳梗塞の病型分類を行い、各病型に応じた急性期治療と再発予防治療を行う必要がある。 | これらの検査の結果をふまえて、脳梗塞の病型分類を行い、各病型に応じた急性期治療と再発予防治療を行う必要がある。 | ||
100行目: | 100行目: | ||
[[image:脳梗塞1.png|thumb|350px|'''図1.CHADS2 スコア'''<br>心房細動の脳卒中発症率をリスク数により層別。 | [[image:脳梗塞1.png|thumb|350px|'''図1.CHADS2 スコア'''<br>心房細動の脳卒中発症率をリスク数により層別。 | ||
最大6点で、0点は抗血栓薬不要、1点はワルファリン治療を考慮、2点以上はワルファリン治療を推奨。(文献<ref name=ref1><pubmed>11401607</pubmed></ref>より作図)]] | 最大6点で、0点は抗血栓薬不要、1点はワルファリン治療を考慮、2点以上はワルファリン治療を推奨。(文献<ref name=ref1><pubmed>11401607</pubmed></ref>より作図)]] | ||
脳梗塞は、①心原性脳塞栓症、②アテローム血栓性脳梗塞、③ラクナ梗塞、④その他の4病型に分けられる。 | 脳梗塞は、①心原性脳塞栓症、②アテローム血栓性脳梗塞、③ラクナ梗塞、④その他の4病型に分けられる。 | ||
130行目: | 127行目: | ||
====一過性脳虚血発作==== | ====一過性脳虚血発作==== | ||
[[image:脳梗塞2.png|thumb|350px|'''図2.ABCD2 スコア'''<br>一過性脳虚血発作の脳卒中発症率をリスク数にて層別。 | |||
最大7点で4点以上が緊急入院の適応。(文献<ref name=ref4><pubmed>17258668</pubmed></ref>より引用)]] | |||
一過性脳虚血発作(transient ischemic attack: TIA)は、片麻痺や失語などの明らかな脳の局所神経症状(巣症状)が出現し、24時間以内に完全に消失するものと定義されているが、通常は数分から数十分以内に症状が完全消失し、長くても1時間以内に改善する場合が大半である。原因としては頸動脈分岐部のアテローム動脈硬化病変に形成された壁在血栓が剥離して、微小塞栓として脳動脈を一過性に閉塞し発症する病態が多い(微小塞栓機序)。ただし、高度の狭窄や閉塞による潜在的な脳血流不全状態があるときに、脱水や血圧低下などにより、一過性に血流不全状態が強くなり症状を発現する病態(血行力学的機序)や心房細動などの心原性による病態もある。いずれの病態においても、TIAは来るべき脳梗塞の前触れ、危険信号であり、速やかに対処すべき非常に重要な病態である。 | 一過性脳虚血発作(transient ischemic attack: TIA)は、片麻痺や失語などの明らかな脳の局所神経症状(巣症状)が出現し、24時間以内に完全に消失するものと定義されているが、通常は数分から数十分以内に症状が完全消失し、長くても1時間以内に改善する場合が大半である。原因としては頸動脈分岐部のアテローム動脈硬化病変に形成された壁在血栓が剥離して、微小塞栓として脳動脈を一過性に閉塞し発症する病態が多い(微小塞栓機序)。ただし、高度の狭窄や閉塞による潜在的な脳血流不全状態があるときに、脱水や血圧低下などにより、一過性に血流不全状態が強くなり症状を発現する病態(血行力学的機序)や心房細動などの心原性による病態もある。いずれの病態においても、TIAは来るべき脳梗塞の前触れ、危険信号であり、速やかに対処すべき非常に重要な病態である。 | ||
138行目: | 138行目: | ||
発症4.5時間以内に治療開始できる場合に考慮する(グレードA)。本邦では海外での使用量よりも少ない[[アルテプラーゼ]](0.6mg/kg)で適応が通っており、その1/10量を1〜2分かけて投与した後、残りを1時間かけて投与する。ただし、頭蓋内出血既往・血糖値異常(50mg/dl未満または400mg/dl以上)・血小板数低値(10万/mm3以下)・PT-INR>1.7・CTで広汎な早期虚血性変化を認めた場合などが主な禁忌項目であり、年齢75歳以上・NIHSSスコア23以上・JCS100以上など慎重投与項目も2つ以上が認められた場合には転帰が不良であることが報告されており注意を要する。 | 発症4.5時間以内に治療開始できる場合に考慮する(グレードA)。本邦では海外での使用量よりも少ない[[アルテプラーゼ]](0.6mg/kg)で適応が通っており、その1/10量を1〜2分かけて投与した後、残りを1時間かけて投与する。ただし、頭蓋内出血既往・血糖値異常(50mg/dl未満または400mg/dl以上)・血小板数低値(10万/mm3以下)・PT-INR>1.7・CTで広汎な早期虚血性変化を認めた場合などが主な禁忌項目であり、年齢75歳以上・NIHSSスコア23以上・JCS100以上など慎重投与項目も2つ以上が認められた場合には転帰が不良であることが報告されており注意を要する。 | ||
=== | ===脳血管内治療による血栓除去術=== | ||
発症早期の内頸動脈または[[中大脳動脈]]閉塞による急性期脳梗塞に対して、rt-PA静注血栓溶解療法を含む内科的治療に加えて血栓回収療法を施行することが、患者の転機を改善し、死亡率を低下することが示された。これを検討した試験であるMR-CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT-PRIME、REVASCATの結果を踏まえると、内頸動脈、中大脳動脈(M1-M2)閉塞、ASPECTS:7-9、穿刺開始時に4時間半以内の症例を対象に、[[ステントリトリーバー]] | [[機械的血栓除去術]] | ||
発症早期の内頸動脈または[[中大脳動脈]]閉塞による急性期脳梗塞に対して、rt-PA静注血栓溶解療法を含む内科的治療に加えて血栓回収療法を施行することが、患者の転機を改善し、死亡率を低下することが示された。これを検討した試験であるMR-CLEAN、ESCAPE、EXTEND-IA、SWIFT-PRIME、REVASCATの結果を踏まえると、内頸動脈、中大脳動脈(M1-M2)閉塞、ASPECTS:7-9、穿刺開始時に4時間半以内の症例を対象に、[[ステントリトリーバー]]を中心とする機械的血栓除去術を、rt-PA静注血栓溶解療法を含む従来の内科治療に加えて行い、しかも穿刺後1時間半(発症後6時間)以内にTICI2以上の再開通を60%以上の高率で確保する必要がある。rt-PA静注血栓溶解療法の開始時期1分でも早いほど効果が高いことが示されているが、機械的血栓除去術も発症後から再開通までの時間は早ければ早いほど転機改善例が増加し死亡例が減少する。 | |||
===抗血栓療法=== | ===抗血栓療法=== |