「脳死」の版間の差分

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== 脳死をめぐる概念の成立 ==
== 脳死をめぐる概念の成立 ==
 1959年、フランスから初めて脳死に相当する臨床報告が行われた。1968年、米国ハーバード大学医学部特別委員会は、死の新しい基準としての“不可逆的昏睡”を報告した(いわゆるハーバード基準)。現在の脳死の概念に相当する初の報告である。この提唱の契機は、従来であれば救命できなかったが、救命治療の進歩に伴い呼吸機能は人工呼吸器により維持され循環機能も保たれるようになったものの、脳機能は失われた患者が出現、増加してきたことである。これらの患者の治療打ち切りを正当化すること、当時始まった臓器移植のドナーとなり得る患者を的確に定義することを主な目的として設定された<ref name=JAMA1968><pubmed>5694976</pubmed></ref> [1]。この報告はその根拠を明示することなく、不可逆的昏睡(脳死)を人の死の新基準とするものであったとの指摘がある<ref name=古俣めぐみ2017>古俣めぐみ. 日本における「脳死=人の死」規定とその根拠-二つの社会的合意からの分析. 東京大学教養学部哲学・科学史部会 哲学・科学史論叢. 2017 19:73-95</ref>[2]。1971年、世界初の脳死立法がフィンランドで成立した。
 1959年、フランスから初めて脳死に相当する臨床報告が行われた。1968年、米国ハーバード大学医学部特別委員会は、死の新しい基準としての“不可逆的昏睡”を報告した(いわゆるハーバード基準)。現在の脳死の概念に相当する初の報告である。この提唱の契機は、従来であれば救命できなかったが、救命治療の進歩に伴い呼吸機能は人工呼吸器により維持され循環機能も保たれるようになったものの、脳機能は失われた患者が出現、増加してきたことである。これらの患者の治療打ち切りを正当化すること、当時始まった臓器移植のドナーとなり得る患者を的確に定義することを主な目的として設定された<ref name=JAMA1968><pubmed>5694976</pubmed></ref> [1]。この報告はその根拠を明示することなく、不可逆的昏睡(脳死)を人の死の新基準とするものであったとの指摘がある<ref name=古俣めぐみ2017>'''古俣めぐみ (2017).'''<br>日本における「脳死=人の死」規定とその根拠-二つの社会的合意からの分析. 東京大学教養学部哲学・科学史部会 哲学・科学史論叢. 2017 19:73-95</ref>[2]。1971年、世界初の脳死立法がフィンランドで成立した。


 1979年には、英国で脳幹死による脳死診断基準が公表され、1981年、米国大統領委員会<ref name=President1981 />が死の判定に関する統一法「死の判定ガイドライン」を公布した。ここで、1)呼吸と循環機能が不可逆的に停止した、2)あるいは脳幹を含む脳全体のすべての機能が不可逆的に停止した人は死んでいる、という脳死(全脳死)の定義が示された<ref name=President1981>'''President's Commission for the Study of Ethical Problems in Medicine and Biomedical and Behavioral Research (2018).'''<br>Defining death. Washington DC: Government Printing Office; </ref> [3]。ここでは、死の判定は一般に認められている医学的基準に従って行われねばならないとして、その基準は別に示されており<ref name=JAMA1981><pubmed>7289009</pubmed></ref>[4]、判定法そのものが法律で定められているわけではない。
 1979年には、英国で脳幹死による脳死診断基準が公表され、1981年、米国大統領委員会<ref name=President1981 />が死の判定に関する統一法「死の判定ガイドライン」を公布した。ここで、1)呼吸と循環機能が不可逆的に停止した、2)あるいは脳幹を含む脳全体のすべての機能が不可逆的に停止した人は死んでいる、という脳死(全脳死)の定義が示された<ref name=President1981>'''President's Commission for the Study of Ethical Problems in Medicine and Biomedical and Behavioral Research (2018).'''<br>Defining death. Washington DC: Government Printing Office; </ref> [3]。ここでは、死の判定は一般に認められている医学的基準に従って行われねばならないとして、その基準は別に示されており<ref name=JAMA1981><pubmed>7289009</pubmed></ref>[4]、判定法そのものが法律で定められているわけではない。