「脳波」の版間の差分

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== 脳波を用いた研究 ==
== 脳波を用いた研究 ==
=== 事象関連電位 ===
=== 事象関連電位 ===
ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を背景脳波と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。たとえば何か注意を払っていた視覚情報を近くした際には、その視覚提示の約300ミリ秒後に陽性の振幅変動が生じるP300というERPがある(hoge)。このように事象に関連して生じる一過性の電位変化を事象関連電位(Event-related potential: ERP)と呼ぶ。このERPは数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、この誘発電位は背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波からERPを抽出するためには、複数回施行を繰り返し行い計測した脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持ったERP成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。<br>
ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を背景脳波と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。たとえば何か注意を払っていた視覚情報を近くした際には、その視覚提示の約300ミリ秒後に陽性の振幅変動が生じる(hoge)。このように事象に関連して生じる一過性の電位変化を事象関連電位(Event-related potential: ERP)と呼ぶ。このERPは数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、この誘発電位は背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波からERPを抽出するためには、複数回施行を繰り返し行い計測した脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持ったERP成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。<br>


=== 脳波リズム ===
=== 脳波リズム ===

2018年10月1日 (月) 16:50時点における版

英語名:Electroencephalography 英語略名:EEG 独語名:Elektroenzephalografie

脳波とは、ヒトの主に大脳皮質の錐体細胞のシナプス後電位の集合電位を頭皮上から観察しているものである。動物についても脳波とよぶことがある。身体に害を与えない非侵襲性の手法であることから、ヒト脳イメージング研究によく用いられる。非侵襲性イメージング手法の中でも、神経活動に伴う緩徐な血流動態を計測する核磁気共鳴画像法(fMRI)に比べて高い時間分解能をもち、ミリ秒オーダーの神経細胞集団の活動を計測できる。その一方で空間分解能は低く、計測信号から活動領域を推定することは高度な解析技術を要する。


歴史的背景

脳波は1929年にドイツの精神科医ハンス・ベルガーによってヒトで初めて報告された。 1930年代にオーストリアの精神科医であるHans Bergerによって脳波とその10Hz前後での振動現象であるアルファ波が発見されたが、脳波や脳磁図などで脳の神経活動を測定すると、さまざまな周波数での振動成分が観察される。詳細に周波数解析を行ってみるとアルファ波(8-12Hz)以外にもデルタ波(1-3Hz)、シータ波(4-7Hz)、ベータ波(13Hz-24Hz)、ガンマ波(25Hz~)と呼ばれるいくつかの周波数帯域での振動活動が観察される。 ニューロンに閾値以上の定常な興奮性の入力を与えると周期的な発火が起きるが、ニューロン同士が複雑に相互作用をするニューロン集団でも条件によっては周期的で同期している集団活動がおき、脳波にみられる振動成分は大脳皮質のニューロン集団がその周波数帯域で局所的に同期して周期的な活動をしていることを示唆する。

 近年、さまざまな認知課題を被験者が行っている時の脳波時系列データを周波数解析することによって、脳活動の振動成分と認知機能との相関について、数多くの多くの研究がなされている1)2)。たとえば、ヒト脳波のシータ帯域に関しては記憶に関連して3)、ガンマ帯域では物体の表現、特徴統合、注意や記憶に関係して振動同期現象が報告されている4)5)。また局所的な脳波の振動のみではなく、後頭部と前頭部の脳波の振動同期のようなより大域的な振動同期と認知機能との関連も報告されている6)7)。


発生機序

ある神経細胞の活動電位が軸索を通ってシナプスに達すると、神経伝達物質を介して他の神経細胞へと情報が伝達される。この結果シナプス後細胞のシナプス後膜に発生する電位をシナプス後電位という。これにより細胞内に電流が生じ、双極子となる。大脳皮質のニューロン集団がその周波数帯域で局所的に同期して周期的な活動すると、多数の同一双極子が並ぶことになり、空間的に加重した電場が細胞外にできる。脳波は、この電場電位の変化を頭皮上で観測したものである。実際には、細胞外電流が神経路以外の髄液や頭蓋骨を伝わる体積伝導(volume conduction)を経て頭皮上で計測される。髄液は高い電導性をもち、電流は広範囲に広がってしまう(シャント効果)ため、空間情報は劣化する。また、頭蓋骨の低電導性によって大きく信号は減衰されるため、高いS/N比を得るためには計測装置の磁場や漏れ電流などによる外乱ノイズを可能な限り無くすことが望ましい。


記録方法

導出法

脳波は、頭部に接地された二つの電極間の電位差を増幅器で増幅することによって記録される。脳波を記録する電極を探査電極とよび、これに対して基準となる電極を基準(リファレンス)電極と呼ぶ。脳波の導出方法は、共通の基準電極を用いて探査電極との電位差を記録する共通基準導出と、隣り合う電極を順番につないで電位差を記録する双極導出に大別される.一般的には,共通基準導出が用いられている。共通基準導出では、理論的には基準電極を脳電位の影響をうけない場所に装着するべきである。頭部以外に電極を置く場合は心電位が、首やあごなどの筋肉があるところでは筋電位が混入してしまう。そのため、基準電極は耳朶や鼻尖に着けることが多い。しかしながら耳朶や鼻尖であっても僅かながらに測定信号が漏れこんでしまう活性化が生じる。よって、脳波の測定原理から探査電極と基準電極の両方に共通して含まれる電位は記録されないことから、基準電極に近い探査電極では電位が小さく見積もられる。この問題はどこに基準電極を置いても生じてしまう。なお、近年主に用いられているデジタル脳波計では、電源によって駆動する機関部と生体信号が入力される被験者側が電気的に分離されており、接地(グラウンド)電極は増幅器のための基準点として設置される。接地電極は頭皮上のどこにおいてもよいが,前頭部に置くことが多い。これは、基準電極が不良なときに基準電極の代わりに接地電極の電位が投射して入れ替わる現象から、アーティファクトを検出しやすくするためである。


電極配置

頭皮上から脳波を計測する際に電極を置く位置は、国際脳波・臨床神経生理学会連合から推奨されている国際10-20法(International 10-20 system)に則り配置することが一般的である。国際10-20法では、眉間と外後頭隆起を結ぶ線と両側の耳介前点を結ぶ線の長さを基準としてその10%と20%の長さを組み合わせて電極位置を決める(図hoge左)。これにより、当該の大きさに関係なくほぼ一定部位に電極が配置でき、各電極間の距離をほぼ等しくできる。記録電極数の増加に対応するため、国際10-20法の各電極間の中点に電極を配置したものが拡張10-20法である(図hoge右)。近年では、脳波の電流減密度推定をより精度よくするため、2~4 cm間隔で128~256個の電極を配置した高密度脳波計測も行われるようになってきている。

再基準化

基準電極の位置に依存する脳波の空間分布の偏りについては、再基準化によって対処することが可能である。再基準化の方法に、平均基準化と連結基準化が挙げられる。平均基準化では、全電極の平均電位を基準とすることで、特定の基準部位を用いることによる影響をなくす。一方、連結基準化では複数の電極部位を連結して基準にする。よく用いられるのは左右の耳朶の電極を連結させた両耳朶連結基準であり、左右半球での偏りをなくす。このとき、左右耳朶に接地した電極インピーダンス(頭皮との接触抵抗)が左右で異なっていると、基準電極同士を直接連結させてしまうと基準が脳中央部からインピーダンスの低い側に移動してしまう。対策として、オフラインで再基準化を行う方法がある。たとえば左耳朶を基準として脳波を記録する際には、逆の右耳朶の電極からも信号を記録し、解析時に右耳朶で記録された電位の1/2をすべての脳波から減算する。これにより、左右の耳朶の平均電位を再基準とすることができる。

入力インピーダンス

脳波計測では、脳を生体電源として抵抗をかませた回路をつくり、オームの法則から抵抗の前後における電位差を測る。しかし実際には生体内部で合計数十kΩにもなる抵抗が生じる。これは変動する可能性があり、測定はできない。これによって回路内に用意した抵抗にかかる電圧が生体電源電圧と等しくならず、正しい計測ができない。この生体内のインピーダンスを無視するために、回路に組み込んだ抵抗、つまり脳波計の入力端子間における入力インピーダンスを高くする必要がある(10MΩ以上)。生体側のインピーダンスよりも入力インピーダンスが十分に高ければ、抵抗の両端で生じる電位差を脳で生じた電圧とほぼ等しいとみなすことができる。
 

 生体信号の記録には、Ag/AgCl電極の電気特性が最も良いといわれている。Ag/AgCl電極では、数秒間にわたる緩やかな電位変化を記録することができる。ただし、脳波計の入力インピーダンスが十分に高ければ、電極の種類によらず歪のない計測ができるといわれている。電極を頭皮に接地する際には、頭皮との間に導電性のゲルを埋めて電気的に接触させる。この電極と頭皮における接触抵抗は、S/N比の高い脳波計測をするうえで非常に重要になってくる。接触抵抗が高いと信号が減衰してしまうため、頭皮の角質を落とすといった前処理で下げる必要がある。接触抵抗は電極間に交流電流を流した際の電極間インピーダンスとして計測が可能であり、これが一般的に言われる電極インピーダンスである。電極インピーダンスは5kΩ以下にすることが望ましいとされ、電極インピーダンスはできるだけ一様に下げることが望ましい。電極インピーダンスの値が揃っていれば差動増幅器(脳波計)の特性によって同相信号が除去されるため、電源ラインから混入する交流障害(ハム)の影響を少なくすることができる。
 

 入力インピーダンスは脳波計の性能次第であるが、接触インピーダンスは計測者の前処理によって下げる必要がある。ボルテージフォロワのような回路が仕込まれている電極では、電極ごとの接触インピーダンスに応じて入力インピーダンスを上げることができる。この電極を能動電極(アクティブ電極)とよび、対照的に回路が組み込まれていな電極をパッシブ電極と呼ぶ。


脳波を用いた研究

事象関連電位

ヒトは特に何をしていなくても脳は常に自発的に活動しており、このときみられる脳波を背景脳波と呼ぶ。一方、光や音といった刺激が入力されたときや自発的な運動準備・実行を行う際には、それに伴い脳波も変動する。たとえば何か注意を払っていた視覚情報を近くした際には、その視覚提示の約300ミリ秒後に陽性の振幅変動が生じる(hoge)。このように事象に関連して生じる一過性の電位変化を事象関連電位(Event-related potential: ERP)と呼ぶ。このERPは数マイクロボルトと非常に小さい変動であり、この誘発電位は背景脳波に埋もれてしまう。背景脳波からERPを抽出するためには、複数回施行を繰り返し行い計測した脳波を特定の事象の開始時点を揃えて加算平均する必要がある。これにより、事象に対して一定の時間関係を持ったERP成分だけが残り、背景ノイズは互いに相殺し合うことになる。

脳波リズム

脳波はその振幅情報だけでなく、その律動的なリズムも認知機能に関与することが示唆されている。たとえば、運動に関連してμ波リズム(α波とほぼ同一周波数帯域)のパワー値が減衰するmu-suppression (Pfurtscheller et al., 1977)という現象がある。このように事象に関連してある周波数帯域のパワー値が減衰する現象を事象関連脱同期(event-related desynchronization: ERD)と呼び,逆にパワー値が増強する現象を事象関連同期(event-related synchronization: ERS)と呼ぶ。
近年では、周波数成分の位相情報に注目したネットワーク解析が行われるようになってきた。Hogeら()は,二値化された顔の画像を実験参加者に提示したところ,その画像が顔であると近くしたときに脳波の位相が大域的に同期することを発見した。このように、離れた領域間での脳波リズムの位相同期が情報統合に重要な役割を果たすと考えられている(Varela et al., 2000)。



関連項目


参考文献