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 細胞は誘電体である脂質二重膜(細胞膜)によって外界と内部を電気的に遮断している。膜により隔たれた組成の異なる溶液の間に発生する電位差を膜電位と言う。
 細胞は誘電体である脂質二重膜(細胞膜)によって外界と内部を電気的に遮断している。膜により隔たれた組成の異なる溶液の間に発生する電位差を膜電位と言う。
 ほ乳類の神経細胞の細胞膜にはNa+とK+を交換するポンプ(Na+/K+ ATPase)が存在し、細胞内はK+が多くNa+が少なく、細胞外はNa+が多くK+が少ない、という細胞膜を隔てたイオン濃度勾配が存在する。イオン選択性を有するイオンチャネルの働きにより細胞膜はK+の透過性が高く、そのため細胞内電位が細胞外電位に対して-60~-80mV低い(ref.静止膜電位)。化学的シナプス伝達や電気刺激などの種々の物理的刺激により、細胞膜のイオン透過性が変化し膜電位は変動する。主に電位依存性Na+チャネルの働きにより、一過性にゼロを超える(オーバーシュート)自己再生的な膜電位の変動が見られる(ref. 活動電位)。
 ほ乳類の神経細胞の細胞膜にはNa+とK+を交換するポンプ(Na+/K+ ATPase)が存在し、細胞内はK+が多くNa+が少なく、細胞外はNa+が多くK+が少ない、という細胞膜を隔てたイオン濃度勾配が存在する。イオン選択性を有するイオンチャネルの働きにより細胞膜はK+の透過性が高く、そのため細胞内電位が細胞外電位に対して-60~-80mV低い(ref.[[静止膜電位]])。化学的シナプス伝達や電気刺激などの種々の物理的刺激により、細胞膜のイオン透過性が変化し膜電位は変動する。主に電位依存性Na+チャネルの働きにより、一過性にゼロを超える(オーバーシュート)自己再生的な膜電位の変動が見られる(ref. [[活動電位]])。
 このように神経細胞における膜電位はスパイク発火時に時々刻々と変化しており、その膜電位変化を感知するのが膜電位センサーである。電位依存性イオンチャネルの場合、膜電位変化を電位センサードメインが感知して、分子内でイオン透過ゲートを開く力に変換される、その結果、イオン透過量が膜電位に依存して変化する。
 このように神経細胞における膜電位はスパイク発火時に時々刻々と変化しており、その膜電位変化を感知するのが膜電位センサーである。電位依存性イオンチャネルの場合、膜電位変化を電位センサードメインが感知して、分子内でイオン透過ゲートを開く力に変換される、その結果、イオン透過量が膜電位に依存して変化する。


=== 膜電位センサー研究の歴史  ===
=== 膜電位センサー研究の歴史  ===


 18世紀中頃イタリアの医師ガルヴァーニが、カエルの筋肉がカミナリの雷光により収縮することを発見してから、生命現象と電気的活動の関係を探る研究が今日に至るまで盛んに行われている。膜電位センサーの概念は1952年のイカの巨大軸索を使ったHodgkin-Huxleyの研究において初めて導入され、膜電位に依存して起こる神経の電気的興奮において膜電位センサーの存在が想定された。1974年にArmstrong & Bezanillaによりイカの巨大軸索から電位依存性チャネルのゲート開口に伴う電荷の移動(ゲート電流)が初めて観測され、膜電位に依存する分子の挙動が反応速度論的に証明された。1980年代に、種々の電位依存性チャネルがクローニングされ、保存されたアミノ酸配列として電荷を帯びた残基を有する膜貫通領域を中心とした電位センサードメインによる膜電位感知機構が想定された。クローニング以降、分子生物学的手法を組み合わせた電気生理学的機能解析が発展し、電位依存性イオンチャネルの電位センサードメインの作動機構に対して種々のモデルが提唱されている。2005年に電位依存性ホスファターゼ(VSP)の発見により電位センサードメインを有する蛋白質がイオンチャネル以外にも存在し電位センサーが酵素活性の調節に対しても機能していることが明らかになった。2003年に古細菌、2005年にはほ乳類の電位依存性チャネルの結晶構造が解かれ、電位センサードメインの機能解析が原子レベルで解析される形となった。
 18世紀中頃イタリアの医師ガルヴァーニが、カエルの筋肉がカミナリの雷光により収縮することを発見してから、生命現象と電気的活動の関係を探る研究が今日に至るまで盛んに行われている。膜電位センサーの概念は1952年のイカの巨大軸索を使ったHodgkin-Huxleyの研究において初めて導入され、膜電位に依存して起こる神経の電気的興奮において膜電位センサーの存在が想定された<ref><pubmed> 21743477 </pubmed></ref>。1974年にArmstrong & Bezanillaによりイカの巨大軸索から電位依存性チャネルのゲート開口に伴う電荷の移動(ゲート電流)が初めて観測され、膜電位に依存する分子の挙動が反応速度論的に証明された。1980年代に、種々の電位依存性チャネルがクローニングされ、保存されたアミノ酸配列として電荷を帯びた残基を有する膜貫通領域を中心とした電位センサードメインによる膜電位感知機構が想定された。クローニング以降、分子生物学的手法を組み合わせた電気生理学的機能解析が発展し、電位依存性イオンチャネルの電位センサードメインの作動機構に対して種々のモデルが提唱されている。2005年に電位依存性ホスファターゼ(VSP)の発見により電位センサードメインを有する蛋白質がイオンチャネル以外にも存在し電位センサーが酵素活性の調節に対しても機能していることが明らかになった。2003年に古細菌、2005年にはほ乳類の電位依存性チャネルの結晶構造が解かれ、電位センサードメインの機能解析が原子レベルで解析される形となった。
 また、電位センサーの概念が成熟した現在では、電位依存性チャネルの様な電位センサードメインを有さない膜蛋白質からも電位依存的な活性やゲート電流の観測が報告されている。
 また、電位センサーの概念が成熟した現在では、電位依存性チャネルの様な電位センサードメインを有さない膜蛋白質からも電位依存的な活性やゲート電流の観測が報告されている。


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