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 [[セロトニン神経系]](Serotonergic system)は、主に[[脳幹]]の[[縫線核]](raphe nucleus)を起始として[[前頭葉]]をはじめ脳のさまざまな領域に投射しており,その失調が、抑うつ気分などの気分変調や衝動性・攻撃性といった情動不安定性を含めた自殺関連行動の背景と考えられている。
 [[セロトニン神経系]](Serotonergic system)は、主に[[脳幹]]の[[縫線核]](raphe nucleus)を起始として[[前頭葉]]をはじめ脳のさまざまな領域に投射しており,その失調が、抑うつ気分などの気分変調や衝動性・攻撃性といった情動不安定性を含めた自殺関連行動の背景と考えられている。


 自殺者死後脳における[[脳脊髄液]]の変化として、[[セロトニン神経]]系の機能低下についての報告が数多くみうけられる。自殺者死後脳の前頭前野においては、[[シナプス前部]]の[[セロトニントランスポーター]](以下5HTT)の減少<ref name=ref16><pubmed>9013420</pubmed></ref>や、[[シナプス]]後部の[[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|セロトニン1A]]([[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT1A]])および[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|2A]]([[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT2A]])[[受容体]]の増加<ref name=ref17>'''Mann JJ and Arango V.'''<br>in Suicide: An Unnecessary Death. <br>(ed. Wasserman, D.) 29–34, ''Martin Dunitz Ltd'', London, 2001.</ref>が報告されているが、これらは前頭葉におけるセロトニン神経伝達の低下を示唆する所見とされる。これらの変化は前頭葉のなかでもとりわけ、[[行動抑制]]に関わる脳領域である[[腹側前頭前野]](ventral prefrontal cortex)での報告が多い<ref name=ref18><pubmed>8542298</pubmed></ref>。さらに、自殺者死後脳の脳幹において、セロトニンおよびその代謝産物である[[5-ヒドロキシインドール酢酸]] (5-hydroxyindole acetic acid, 5-HIAA)の低下が報告されている<ref name=ref19><pubmed>2692642</pubmed></ref>。セロトニン合成酵素である[[トリプトファン水酸化酵素]]2(tryptophan hydroxylase isoform 2; TPH2)は中枢神経系で特異的に発現しているTPHのアイソフォームであるが、うつ病自殺者の死後脳において、TPH2のタンパク及び[[mRNA]]レベルが縫線核で上昇していたとの報告もある<ref name=ref20><pubmed>16192985</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>18180753</pubmed></ref>。この変化は、自殺でのセロトニン神経系の機能低下に対する代償的変化である可能性が考えられる。
 自殺者死後脳における[[脳脊髄液]]の変化として、[[セロトニン神経]]系の機能低下についての報告が数多くみうけられる。自殺者死後脳の前頭前野においては、[[シナプス前部]]の[[セロトニントランスポーター]](以下5HTT)の減少<ref name=ref16><pubmed>9013420</pubmed></ref>や、[[シナプス]]後部の[[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|セロトニン1A]]([[セロトニン#5-HT1.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT1A]])および[[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|2A]]([[セロトニン#5-HT2.E5.8F.97.E5.AE.B9.E4.BD.93|5HT2A]])[[受容体]]の増加<ref name=ref17>'''Mann JJ and Arango V.'''<br>in Suicide: An Unnecessary Death. <br>(ed. Wasserman, D.) 29–34, ''Martin Dunitz Ltd'', London, 2001.</ref>が報告されているが、これらは前頭葉におけるセロトニン神経伝達の低下を示唆する所見とされる。これらの変化は前頭葉のなかでもとりわけ、腹外側前頭前野(ventrolateral prefrontal cortex)(前述の前頭前野眼窩部を一部含む)での報告が多い<ref name=ref18><pubmed>8542298</pubmed></ref>。さらに、自殺者死後脳の脳幹において、セロトニンおよびその代謝産物である[[5-ヒドロキシインドール酢酸]] (5-hydroxyindole acetic acid, 5-HIAA)の低下が報告されている<ref name=ref19><pubmed>2692642</pubmed></ref>。セロトニン合成酵素である[[トリプトファン水酸化酵素]]2(tryptophan hydroxylase isoform 2; TPH2)は中枢神経系で特異的に発現しているTPHのアイソフォームであるが、うつ病自殺者の死後脳において、TPH2のタンパク及び[[mRNA]]レベルが縫線核で上昇していたとの報告もある<ref name=ref20><pubmed>16192985</pubmed></ref> <ref name=ref21><pubmed>18180753</pubmed></ref>。この変化は、自殺でのセロトニン神経系の機能低下に対する代償的変化である可能性が考えられる。


 死後脳以外でも、自殺におけるセロトニン神経系の機能低下を示す所見は数多く報告されている。致死的な自殺企図歴をもつうつ病患者に限らず、統合失調症やパーソナリティ障害における自殺企図者においても[[脳脊髄液]]中の5-HIAAの低下が認められ、また衝動性の高いものほどその低下が目立つことが明らかにされている<ref name=ref22><pubmed>9616798</pubmed></ref>。これらのことにより、脳脊髄液中の5-HIAAの低下は、特定の精神疾患の枠を超えた自殺と関連する生物学的指標と考えられている。
 死後脳以外でも、自殺におけるセロトニン神経系の機能低下を示す所見は数多く報告されている。致死的な自殺企図歴をもつうつ病患者に限らず、統合失調症やパーソナリティ障害における自殺企図者においても[[脳脊髄液]]中の5-HIAAの低下が認められ、また衝動性の高いものほどその低下が目立つことが明らかにされている<ref name=ref22><pubmed>9616798</pubmed></ref>。これらのことにより、脳脊髄液中の5-HIAAの低下は、特定の精神疾患の枠を超えた自殺と関連する生物学的指標と考えられている。