「自閉スペクトラム症」の版間の差分

ナビゲーションに移動 検索に移動
編集の要約なし
 
(3人の利用者による、間の9版が非表示)
1行目: 1行目:
<div align="right">   
<div align="right">   
<font size="+1">本田秀夫</font><br>
<font size="+1">本田 秀夫</font><br>
''山梨県立こころの発達総合支援センター''<br>
''信州大学医学部付属病院子どものこころ診療部''<br>
DOI XXXX/XXXX 原稿受付日:2013年3月15日 原稿完成日:2013年4月5日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月15日 原稿完成日:2013年4月5日 修正日:2015年6月16日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/tadafumikato 加藤 忠史](独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター)<br>
</div>
</div>


英語名:autism 独:Autismus 仏:autisme
英語名:autism spectrum disorder


{{box|text=
{{box|text=
 社会的相互交渉の質的異常、コミュニケーションの質的異常、および興味の限局と[[反復的行動]]のパターンを特徴とする[[発達障害]]群。[[DSM-IV]](1994)では、最も典型的な「[[自閉性障害]]」、言語発達の良好な「[[アスペルガー障害]]」、女児にみられる「[[レット障害]]」、特徴的な経過の「[[小児期崩壊性障害]]」、および「特定不能の[[広汎性発達障害]]([[非定型自閉症]]を含む)」の下位分類が設定されている。発生率は、自閉性障害が0.3~0.5%、広汎性発達障害全体で1%。性比は男:女=2~3:1で男性に多い。[[知的障害]]を伴う自閉性障害では、[[てんかん]]の合併が多い。その原因には遺伝要因のしめる割合が大きいと考えられている。多くの[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]領域との[[wikipedia:ja:連鎖|連鎖]]が報告されており、5%程度の症例では[[wikipedia:ja:染色体異常|染色体異常]]が見られ、最も多いのは15q11-13の重複である。孤発例の10%程度にde novo[[コピー数変異]]が、15%程度にde novo[[wikipedia:ja:点変異|点変異]]が見られる。脳形態では[[小脳]][[虫部]]の体積低下や、発達早期から見られる脳全体の過形成が比較的よく一致した所見である。治療では、「療育/治療教育」「[[特別支援教育]]」などによる教育的アプローチが最も確実とされる。近年では早期発見技術が向上し、早期介入による転帰の改善が期待されている。基本症状が改善する薬物療法は今のところないが、併発しやすい[[パニック]]、[[興奮]]、[[不眠]]などに対する薬物療法が補助的に行われる。
 社会的相互交渉の質的異常、コミュニケーションの質的異常、および興味の限局と[[反復的行動]]のパターンを特徴とする[[発達障害]]群。[[DSM-IV]](1994)では、最も典型的な「[[自閉性障害]]」、言語発達の良好な「[[アスペルガー障害]]」、女児にみられる「[[レット障害]]」、特徴的な経過の「[[小児期崩壊性障害]]」、および「特定不能の[[広汎性発達障害]]([[非定型自閉症]]を含む)」の下位分類が設定されていた。発生率は、自閉性障害が0.3~0.5%、広汎性発達障害全体で1%。性比は男:女=2~3:1で男性に多い。[[知的障害]]を伴う自閉性障害では、[[てんかん]]の合併が多い。その原因には遺伝要因のしめる割合が大きいと考えられている。多くの[[wikipedia:ja:染色体|染色体]]領域との[[wikipedia:ja:連鎖|連鎖]]が報告されており、5%程度の症例では[[wikipedia:ja:染色体異常|染色体異常]]が見られ、最も多いのは15q11-13の重複である。孤発例の10%程度にde novo[[コピー数変異]]が、15%程度にde novo[[wikipedia:ja:点変異|点変異]]が見られる。脳形態では[[小脳]][[虫部]]の体積低下や、発達早期から見られる脳全体の過形成が比較的よく一致した所見である。治療では、「療育/治療教育」「[[特別支援教育]]」などによる教育的アプローチが最も確実とされる。近年では早期発見技術が向上し、早期介入による転帰の改善が期待されている。基本症状が改善する薬物療法は今のところないが、併発しやすい[[パニック]]、[[興奮]]、[[不眠]]などに対する薬物療法が補助的に行われる。
}}
}}


== 自閉症障害とは ==
== 自閉スペクトラム症とは ==


 社会的相互交渉の質的異常、コミュニケーションの質的異常、および興味の限局と反復的行動のパターンを特徴とする発達障害群。DSM-IV(1994)では、最も典型的な「自閉性障害」、言語発達の良好な「アスペルガー障害」、女児にみられる「レット障害」、特徴的な経過の「小児期崩壊性障害」、および「特定不能の広汎性発達障害(非定型自閉症を含む)」の下位分類が設定されている。必ずしも広汎な領域に発達の異常がみられるとは限らないことから、「広汎性」の呼称は適切ではないとの批判がある。また、現行の下位分類設定はその妥当性に十分な根拠がないとの指摘がある。これらの理由により、最近ではこの障害群を総称して「[[自閉症スペクトラム障害]]」と呼ぶ研究者が増えている。
 社会的相互交渉の質的異常、コミュニケーションの質的異常、および興味の限局と反復的行動のパターンを特徴とする発達障害群。DSM-IV(1994)では、最も典型的な「自閉性障害」、言語発達の良好な「アスペルガー障害」、女児にみられる「レット障害」、特徴的な経過の「小児期崩壊性障害」、および「特定不能の広汎性発達障害(非定型自閉症を含む)」の下位分類が設定されていた。必ずしも広汎な領域に発達の異常がみられるとは限らないことから、「広汎性」の呼称は適切ではないとの批判があった。また、この下位分類設定はその妥当性に十分な根拠がないとの指摘があった。これらの理由により、最近ではこの障害群を総称して「[[自閉症スペクトラム障害]]」と呼ぶ研究者が増えており、2013年に発表され、2014年に日本語訳が出版されたDSM-5では、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」とされている。


==症状==
==症状==
115行目: 115行目:
== 成因  ==
== 成因  ==


 広汎性発達障害の[[wikipedia:ja:一卵性双生児|一卵性双生児]]における一致率は60~90%と、[[wikipedia:ja:二卵性双生児|二卵性双生児]](0~24%)に比して高く、その原因には遺伝要因のしめる割合が大きいと考えられている<ref><pubmed> 22688012 </pubmed></ref>。以前は、高い能力を持っているにもかかわらず自らの中に引きこもっていると考えられ、その要因として不適切な養育などが関連すると考えられた時期もあったが、ゲノム研究、脳研究の進歩により、現在ではこうした考えは否定されている。
 広汎性発達障害の[[wikipedia:ja:一卵性双生児|一卵性双生児]]における一致率は60~90%と、[[wikipedia:ja:二卵性双生児|二卵性双生児]](0~24%)に比して高く、その原因には遺伝要因のしめる割合が大きいと考えられている<ref name=ref22688012 ><pubmed> 22688012 </pubmed></ref>。以前は、高い能力を持っているにもかかわらず自らの中に引きこもっていると考えられ、その要因として不適切な養育などが関連すると考えられた時期もあったが、ゲノム研究、脳研究の進歩により、現在ではこうした考えは否定されている。


 連鎖解析では、多くの染色体領域との連鎖が報告されている<ref><pubmed> 22688012 </pubmed></ref>。
 連鎖解析では、多くの染色体領域との連鎖が報告されている<ref name=ref22688012 />。


===染色体異常===
===染色体異常===
130行目: 130行目:


===他疾患との併発===
===他疾患との併発===
 その他、[[結節性硬化症]]、[[脆弱X症候群]]、[[wikipedia:ja:周産期障害|周産期障害]]、[[wikipedia:ja:代謝疾患|代謝疾患]]、染色体異常、[[wikipedia:ja:先天性風疹症候群|先天性風疹症候群]]などでも自閉症様症状が見られる場合がある<ref><pubmed> 22688012 </pubmed></ref>。5-46%が[[てんかん]]を合併し、約60%にはてんかん性[[脳波]]異常がみられる<ref><pubmed> 20510557 </pubmed></ref>。最近のde novo点変異の研究でも、[[ナトリウムチャネル#&alpha;サブユニット|SCN1A]]<ref><pubmed> 22495309 </pubmed></ref>、[[ナトリウムチャネル#&alpha;サブユニット|SCN2A]]<ref><pubmed> 22495306 </pubmed></ref>など、てんかんとの関連が指摘されていた遺伝子の変異が見いだされているなど、共通の病態の存在が示唆される。
 その他、[[結節性硬化症]]、[[脆弱X症候群]]、[[wikipedia:ja:周産期障害|周産期障害]]、[[wikipedia:ja:代謝疾患|代謝疾患]]、染色体異常、[[wikipedia:ja:先天性風疹症候群|先天性風疹症候群]]などでも自閉症様症状が見られる場合がある<ref name=ref22688012 />。5-46%が[[てんかん]]を合併し、約60%にはてんかん性[[脳波]]異常がみられる<ref><pubmed> 20510557 </pubmed></ref>。最近のde novo点変異の研究でも、[[ナトリウムチャネル#&alpha;サブユニット|SCN1A]]<ref><pubmed> 22495309 </pubmed></ref>、[[ナトリウムチャネル#&alpha;サブユニット|SCN2A]]<ref><pubmed> 22495306 </pubmed></ref>など、てんかんとの関連が指摘されていた遺伝子の変異が見いだされているなど、共通の病態の存在が示唆される。


===脳形態異常===
===脳形態異常===
 脳形態については多くの報告があるが、[[小脳]][[虫部]]の体積低下や、発達早期から見られる脳全体の過形成が比較的よく一致した所見である<ref><pubmed> 21130750 </pubmed></ref>。
 脳形態については多くの報告があるが、[[小脳]][[虫部]]の体積低下や、発達早期から見られる脳全体の過形成が比較的よく一致した所見である<ref><pubmed> 21130750 </pubmed></ref>。
その特異な対人相互性の障害から、社会性に関わる脳機能との関連に関心が持たれ、[[機能的脳画像研究]]が盛んに行われている。中でも、心の理論、すなわち他者の考えを推論する能力に関する課題施行時に、賦活部位が健常者と異なることなどが注目されている<ref><pubmed> 15212111 </pubmed></ref>。
その特異な対人相互性の障害から、社会性に関わる脳機能との関連に関心が持たれ、[[機能的脳画像研究]]が盛んに行われている。中でも、[[心の理論]]、すなわち他者の考えを推論する能力に関する課題施行時に、賦活部位が健常者と異なることなどが注目されている<ref><pubmed> 15212111 </pubmed></ref>。


== 治療・介入  ==
== 治療・介入  ==
150行目: 150行目:


==関連項目==
==関連項目==
*[[自閉性障害]]
*[[自閉性障害]] autistic disorder
*[[アスペルガー障害]]
*[[アスペルガー障害]]
*[[レット障害]]
*[[レット障害]]
*[[小児期崩壊性障害]]
*[[小児期崩壊性障害]]
*[[広汎性発達障害]]
*[[広汎性発達障害]] pervasive developmental disorder
*[[自閉症スペクトラム障害]] autism spectrum disorder
*[[自閉症]] autism


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==
<references/>
<references/>

案内メニュー