「興奮性シナプス」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/hippocampus-sak 酒井 誠一郎]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/hippocampus-sak 酒井 誠一郎]</font><br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
''独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kurokan 八尾 寛]</font><br>
<font size="+1">[https://researchmap.jp/7000022535 八尾 寛]</font><br>
''東北大学 生命科学研究科''<br>
''東北大学名誉教授''<br>
DOI [[XXXX]]/XXXX 原稿受付日:2013年7月16日 原稿完成日:2013年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年7月16日 原稿完成日:2013年10月3日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
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==興奮性シナプスとは==
==興奮性シナプスとは==
{| class="wikitable" style="float:right"
 興奮性シナプスとは、シナプス後細胞の活動電位発生を促進させるシナプスのことである。興奮性のシナプス伝達によってシナプス後細胞が脱分極し、膜電位が[[閾値]]を超えると活動電位が発生する。 [[抑制性シナプス]]は、逆にシナプス後細胞の発火を抑える作用をする。興奮性シナプスを形成する[[シナプス前]]細胞を興奮性ューロン、抑制性シナプスを形成するシナプス前細胞を[[抑制性ニューロン]]と呼ぶ。
|+ 表1.''主な興奮性伝達物質と興奮性ニューロンの分布''
 
 シナプスは、[[ギャップ結合]]を介して電気シグナルを直接伝える[[電気シナプス]]と[[神経伝達物質]]を介して伝達を行う[[化学シナプス]]に分類される。いずれもシナプス前細胞の興奮をシナプス後細胞へと伝達するが、興奮性シナプスといった場合には興奮性の化学シナプスのことを指すことが多い。
 
 興奮性の化学シナプスでは、[[シナプス前終末]]から放出された神経伝達物質がシナプス後膜上の[[受容体]]に結合することでシナプス後細胞が脱分極する。神経細胞から放出され、作用する物質としての神経伝達物質の種類は100種類以上にも及ぶが、哺乳類の中枢神経系では[[グルタミン酸]]が、末梢神経系では[[アセチルコリン]]と[[ノルアドレナリン]]が主な興奮性神経伝達物質として用いられている(表1)。同じ神経伝達物質でも、シナプス後膜上の受容体の種類が違えばその作用も異なる。例えばアセチルコリンは、[[ニコチン受容体]]に結合するとシナプス後細胞を興奮させるが、[[ムスカリン受容体]]はサブタイプによって興奮作用を示すものと抑制作用を示すものがある<ref><pubmed> 6113545 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9647869 </pubmed></ref>。
{| class="wikitable"
|+ 表. 主な興奮性伝達物質と興奮性ニューロンの分布
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| colspan="2" | '''末梢神経系'''
| colspan="2" | '''末梢神経系'''
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 興奮性シナプスとは、シナプス後細胞の活動電位発生を促進させるシナプスのことである。興奮性のシナプス伝達によってシナプス後細胞が脱分極し、膜電位が[[閾値]]を超えると活動電位が発生する。 [[抑制性シナプス]]は、逆にシナプス後細胞の発火を抑える作用をする。興奮性シナプスを形成する[[シナプス前]]細胞を興奮性ューロン、抑制性シナプスを形成するシナプス前細胞を[[抑制性ニューロン]]と呼ぶ。
 シナプスは、[[ギャップ結合]]を介して電気シグナルを直接伝える[[電気シナプス]]と[[神経伝達物質]]を介して伝達を行う[[化学シナプス]]に分類される。いずれもシナプス前細胞の興奮をシナプス後細胞へと伝達するが、興奮性シナプスといった場合には興奮性の化学シナプスのことを指すことが多い。
 興奮性の化学シナプスでは、[[シナプス前終末]]から放出された神経伝達物質がシナプス後膜上の[[受容体]]に結合することでシナプス後細胞が脱分極する。神経細胞から放出され、作用する物質としての神経伝達物質の種類は100種類以上にも及ぶが、哺乳類の中枢神経系では[[グルタミン酸]]が、末梢神経系では[[アセチルコリン]]と[[ノルアドレナリン]]が主な興奮性神経伝達物質として用いられている(表1)。同じ神経伝達物質でも、シナプス後膜上の受容体の種類が違えばその作用も異なる。例えばアセチルコリンは、[[ニコチン受容体]]に結合するとシナプス後細胞を興奮させるが、[[ムスカリン受容体]]はサブタイプによって興奮作用を示すものと抑制作用を示すものがある<ref><pubmed> 6113545 </pubmed></ref> <ref><pubmed> 9647869 </pubmed></ref>。


==構造==
==構造==
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==シナプス伝達過程==
==シナプス伝達過程==
[[ファイル:PPF&LTP.jpg|thumb|250 px|'''図2.シナプス可塑性の例'''<br>(a)[[海馬]]苔状線維(MF)-CA3シナプスで記録したPPF。短い時間間隔で連続刺激を行うと、1回目の応答(fEPSP)と比較して2回目の応答が増加している。<br>(b)MF-CA3シナプスのLTP。100 Hz・100回の高頻度電気刺激を行うと、その後30分以上にわたってシナプス伝達が増強される。]]
 シナプス前細胞で発生した活動電位は[[軸索]]を伝播し、シナプス前終末に到達する。シナプス前終末では、活動電位による脱分極で[[電位依存性カルシウムチャネル]]が開き、[[カルシウムイオン]]が細胞内に流入する。カルシウムイオンが引き金となってアクティブゾーンに係留されていたシナプス小胞が[[細胞膜]]に融合し、シナプス小胞に内包されていた神経伝達物質がシナプス間隙に開口放出される。
 シナプス前細胞で発生した活動電位は[[軸索]]を伝播し、シナプス前終末に到達する。シナプス前終末では、活動電位による脱分極で[[電位依存性カルシウムチャネル]]が開き、[[カルシウムイオン]]が細胞内に流入する。カルシウムイオンが引き金となってアクティブゾーンに係留されていたシナプス小胞が[[細胞膜]]に融合し、シナプス小胞に内包されていた神経伝達物質がシナプス間隙に開口放出される。


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 代謝活性型受容体では、カリウムコンダクタンスの低下による[[遅いシナプス後電位]]と細胞膜の電気抵抗の増加が観察される。
 代謝活性型受容体では、カリウムコンダクタンスの低下による[[遅いシナプス後電位]]と細胞膜の電気抵抗の増加が観察される。
==シナプス可塑性==
 興奮性シナプス、特に脳内のシナプスは、活動依存的に[[短期可塑性]]および[[長期可塑性]]を示し、動的な神経ネットワークを構築している。
===短期可塑性===
 代表的なものとして、paired pulse facilitation(PPF)およびpaired pulse depression(PPD)が挙げられる。これはシナプス前細胞を連続して刺激した際に、1回目のシナプス伝達と比較して2回目のシナプス伝達が促通(facilitation)または抑圧(depression)される現象である。短期可塑性のメカニズムには、シナプス前終末へのカルシウム流入と開口放出確率の変化、およびシナプス小胞プールの大きさが関与しているとされている<ref><pubmed> 11826273 </pubmed></ref>。
=== 長期可塑性 ===
 高頻度刺激で誘発される[[長期増強]](long-term potentiation; LTP)および低頻度刺激で誘発される[[長期抑圧]](long-term depression; LTD)があり、数十分以上の時間わたってシナプス伝達強度が変化する<ref><pubmed> 15450156 </pubmed></ref>。また、シナプス前細胞-後細胞の発火タイミング依存的にLTPもしくはLTDが生じる[[スパイクタイミング依存性シナプス可塑性]](spike timing dependent plasticity; STDP)と呼ばれる現象が様々なシナプスで報告されている<ref><pubmed> 1681645 </pubmed></ref>。
 長期可塑性ではタンパク質[[リン酸化]]・[[脱リン酸化]]や[[wj:転写|転写]]・[[wj:翻訳 (生物学)|翻訳]]等の機構により長期的にシナプス伝達が変化するが、[[開口放出]]が変化する場合や伝達物質受容体が変化する場合など、可塑性の発現機構はシナプスの種類や刺激パターンによって多様である<ref><pubmed> 16261180 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17292975 </pubmed></ref>。長期可塑性に伴って樹状突起の[[スパイン]]形態が変化が生じることも報告されており<ref><pubmed> 20138375 </pubmed></ref>、シナプスの機能と形態が共に変化することで神経ネットワークの構築と改変が行われている。


==関連項目==
==関連項目==

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