「色の恒常性」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/morita_morita 守田 知代]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/morita_morita 守田 知代]</font><br>
''大阪大学工学研究科''<br>
''大阪大学工学研究科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月20日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年1月20日 原稿完成日:2016年1月22日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0048432 定藤 規弘](自然科学研究機構生理学研究所 大脳皮質機能研究系)<br>
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 照明光など物体に届く光は物体固有の[[wikipedia:ja:分光反射率|分光反射率]]で反射され、その反射光が私たちの[[網膜]]に届く。つまり、網膜に届く光のスペクトル(波長成分)は、照明光のスペクトルの変化に伴って変化している。しかし、私たち人間は照明条件の変化に影響されずに、同じ物体を同じ色として知覚することができる。
 照明光など物体に届く光は物体固有の[[wikipedia:ja:分光反射率|分光反射率]]で反射され、その反射光が私たちの[[網膜]]に届く。つまり、網膜に届く光のスペクトル(波長成分)は、照明光のスペクトルの変化に伴って変化している。しかし、私たち人間は照明条件の変化に影響されずに、同じ物体を同じ色として知覚することができる。


 このような色の恒常性は、人間のみならず[[サル]]などの動物<ref><pubmed>15268857</pubmed></ref>や昆虫<ref><pubmed>11060214</pubmed></ref>にも存在することが確認されている。色の恒常性がどのようなメカニズムによって実現されているのかについてこれまで多くの研究がおこなわれてきた。諸説あるが、[[注意]]を向けている物体から反射される光のスペクトルのみならず、その周辺の領域から反射される光のスペクトルを合わせて分析することによって、その時点での照明条件を推定し、その推定値を用いて対象となる物体からの反射光の値を補正していると考えられている。
 このような色の恒常性は、人間のみならず[[サル]]などの動物<ref name=ref1><pubmed> 15268857 </pubmed></ref>や昆虫<ref><pubmed>11060214</pubmed></ref>にも存在することが確認されている。色の恒常性がどのようなメカニズムによって実現されているのかについてこれまで多くの研究がおこなわれてきた。諸説あるが、[[注意]]を向けている物体から反射される光のスペクトルのみならず、その周辺の領域から反射される光のスペクトルを合わせて分析することによって、その時点での照明条件を推定し、その推定値を用いて対象となる物体からの反射光の値を補正していると考えられている。


==レティネックス理論==
==レティネックス理論==
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==発達過程==
==発達過程==
 2004年、色の恒常性を含めた色を知覚する機能は、生後の視覚経験によって獲得されることが明らかとなった<ref><pubmed>15268857</pubmed></ref>。この実験では、生まれて間もないサルを1年間、単色光だけで照明された環境で飼育した。その後、カード課題を用いてこれらのサルの色覚を検査したところ、白色光のもとではある特定の色のカード(例えば赤色)を選択できるが、照明光のスペクトルを変化させると、その色のカードを選択できなくなるなど、色の恒常性が失われることが示された。また、その後通常の環境に戻した場合でも、容易には色の恒常性が回復することはなかった。このことは、色の知覚においても[[臨界期]]が存在することを示唆するものである。
 2004年、色の恒常性を含めた色を知覚する機能は、生後の視覚経験によって獲得されることが明らかとなった<ref name=ref1/>。この実験では、生まれて間もないサルを1年間、単色光だけで照明された環境で飼育した。その後、カード課題を用いてこれらのサルの色覚を検査したところ、白色光のもとではある特定の色のカード(例えば赤色)を選択できるが、照明光のスペクトルを変化させると、その色のカードを選択できなくなるなど、色の恒常性が失われることが示された。また、その後通常の環境に戻した場合でも、容易には色の恒常性が回復することはなかった。このことは、色の知覚においても[[臨界期]]が存在することを示唆するものである。


==関連項目==
==関連項目==