「色覚」の版間の差分

305 バイト追加 、 2018年11月9日 (金)
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(図3:3錐体応答から反対色応答へ。三角形は上からL-, M-, S-錐体、円形は上から輝度、赤−緑、青−黄の反対色チャネルを表す。三角形と円の間の実線は興奮性の結合、破線は抑制性の結合を表している。)
(図3:3錐体応答から反対色応答へ。三角形は上からL-, M-, S-錐体、円形は上から輝度、赤−緑、青−黄の反対色チャネルを表す。三角形と円の間の実線は興奮性の結合、破線は抑制性の結合を表している。)


3原色の加法混色による条件等色の成立は、錐体が3種類しかないことおよび錐体応答が単一変数の原理(またはユニバリアンスの原理、Principle of univariance; Rushton, 1971)<ref><pubmed></pubmed></ref>に従うことに起因する。各錐体の応答は以下の式によって表現される。
3原色の加法混色による条件等色の成立は、錐体が3種類しかないことおよび錐体応答が単一変数の原理(またはユニバリアンスの原理、Principle of univariance; Rushton, 1971)<ref><pubmed> 5310226 </pubmed></ref>に従うことに起因する。各錐体の応答は以下の式によって表現される。
  (式1)
  (式1)
ここで、E{L,M,S}は長波長・中波長・短波長に感度ピークを持つ3錐体(L-, M-, S-錐体)の活動量、I(λ)は錐体に入射する光、S{L,M,S}(λ)は3錐体の各々の分光感度を示している。この視物質が光を吸収し錐体応答が生じる過程において波長の情報は失われる。そのため、スペクトルが異なる光でも錐体応答が同じであれば、人間には同じ色に知覚される(条件等色、メタメリズム, metamerism)。
ここで、E{L,M,S}は長波長・中波長・短波長に感度ピークを持つ3錐体(L-, M-, S-錐体)の活動量、I(λ)は錐体に入射する光、S{L,M,S}(λ)は3錐体の各々の分光感度を示している。この視物質が光を吸収し錐体応答が生じる過程において波長の情報は失われる。そのため、スペクトルが異なる光でも錐体応答が同じであれば、人間には同じ色に知覚される(条件等色、メタメリズム, metamerism)。
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緑に見える光に対してはM錐体の応答が大きくなると同時にL錐体の応答が小さく(M錐体応答>L錐体応答)なり、赤く見える光に対してはその逆(M錐体応答<L錐体応答)が生じる。従って、L錐体とM錐体の差分を取り、無彩色をゼロと表現するとL錐体応答-M錐体応答(略してL-Mと表記:図4横軸)が正の時には赤、負の時には緑を表すことができる。青と黄の成分については、S錐体の応答とLおよびM錐体の和が拮抗して(同様にS-(L+M)と表記:図4縦軸)色の情報が得られる。網膜や外側膝状体における反対色細胞(Derrington, Krauskopf, Lennie, 1984)<ref name=Derrington1984></ref>の応答はこのように色情報を表現していると考えられている。実際の神経信号では負の量を表現できないため、正と負に対応した2つのチャネルが個別に存在する。
緑に見える光に対してはM錐体の応答が大きくなると同時にL錐体の応答が小さく(M錐体応答>L錐体応答)なり、赤く見える光に対してはその逆(M錐体応答<L錐体応答)が生じる。従って、L錐体とM錐体の差分を取り、無彩色をゼロと表現するとL錐体応答-M錐体応答(略してL-Mと表記:図4横軸)が正の時には赤、負の時には緑を表すことができる。青と黄の成分については、S錐体の応答とLおよびM錐体の和が拮抗して(同様にS-(L+M)と表記:図4縦軸)色の情報が得られる。網膜や外側膝状体における反対色細胞(Derrington, Krauskopf, Lennie, 1984)<ref name=Derrington1984></ref>の応答はこのように色情報を表現していると考えられている。実際の神経信号では負の量を表現できないため、正と負に対応した2つのチャネルが個別に存在する。
このような錐体応答の差を軸として定義した色の座標系としてMacLeod- Boynton空間(MacLeod & Boynton, 1979)<ref><pubmed></pubmed></ref>やDKL空間(Derrington et al。, 1984)<ref name=Derrington1984></ref>などが存在する。両者を総合して「MB-DKL空間」と呼ばれることもある。工業的に用いられるCIE色度座標系のうち一部は、これらの錐体応答空間と同じ性質を持つものがある。
このような錐体応答の差を軸として定義した色の座標系としてMacLeod- Boynton空間(MacLeod & Boynton, 1979)<ref><pubmed> 490231 </pubmed></ref>やDKL空間(Derrington et al。, 1984)<ref name=Derrington1984></ref>などが存在する。両者を総合して「MB-DKL空間」と呼ばれることもある。工業的に用いられるCIE色度座標系のうち一部は、これらの錐体応答空間と同じ性質を持つものがある。


一方、脳内での色情報表現は多様性を増している様子が機能的MRI(functional MRI) を用いた人の研究で明らかにされつつある。少なくとも第一次視覚野では錐体応答空間の2軸の間の色に選択性を持つ脳活動が報告されている(Parkes et al, 2009; Goddard et al。, 2010; Kuriki et al。, 2011; Kuriki et al。, 2015)<ref><pubmed></pubmed></ref><ref><pubmed></pubmed></ref><ref><pubmed></pubmed></ref><ref><pubmed></pubmed></ref>。 さらに高次の視覚野では次項で説明する色カテゴリーに対応した脳活動が見られるという研究報告もある(Brouwer & Heeger, 2013)<ref><pubmed></pubmed></ref>。
一方、脳内での色情報表現は多様性を増している様子が機能的MRI(functional MRI) を用いた人の研究で明らかにされつつある。少なくとも第一次視覚野では錐体応答空間の2軸の間の色に選択性を持つ脳活動が報告されている(Parkes et al, 2009; Goddard et al。, 2010; Kuriki et al。, 2011; Kuriki et al。, 2015)<ref><pubmed> 19271871 </pubmed></ref><ref><pubmed> 20616126 </pubmed></ref><ref>'''Kuriki, I., Nakamura, S., Sun, P., Ueno, K., Matsumiya, K., Tanaka, K., Shionori, S. & Cheng, K.''' Decoding color responses in human visual cortex. IEICE transactions on fundamentals of electronics, communications and computer sciences, 94(2), 473-479. (2011). </ref><ref><pubmed> 26423093 </pubmed></ref>。 さらに高次の視覚野では次項で説明する色カテゴリーに対応した脳活動が見られるという研究報告もある(Brouwer & Heeger, 2013)<ref><pubmed> 24068814 </pubmed></ref>。


== 色名と色カテゴリー ==
== 色名と色カテゴリー ==