「血液脳関門」の版間の差分

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== 薬物の輸送システム  ==
== 薬物の輸送システム  ==


 図3(d)に、BBBにおける薬物の輸送システムをまとめた<ref name="ref1" /><ref name="ref3" />。脂質二重膜で構成される細胞膜は、脂溶性の物質はBBBを透過しやすいとされる。しかし、脳毛細血管内皮細胞の血液側膜に局在するP-糖タンパクやBCRPは広範な基質認識性を示す。これらの基質となる物質は、内皮細胞内に侵入した際に速やかに細胞外へ排出輸送されるため、循環血液から脳への移行性が著しく制限される。中枢作用薬の開発段階においてP-糖タンパクやBCRPの基質となるか否かは脳移行性を予測する重要な指標となる。さらに、内因性代謝物質の排出輸送にも関与するOAT3やMRP4は、比較的水溶性の高いアニオン性薬物の脳内移行性を制限している。これらのトランスポーターを介した内因性物質と薬物間の相互作用が起こると、内因性物質の脳内挙動が変化し、副作用に繋がる可能性がある。脳移行性の優れた中枢作用薬の開発に当たっては、排出輸送に関与するトランスポーターの高親和性基質にならないことが望まれている。一方、供給輸送に関与するBBBのトランスポーターを利用して、内因性物質類似の薬物を脳に輸送させる試みもなされている。例えば、パーキンソン病治療薬であるL-ドーパはL-チロシンに構造が類似しており、LAT1を介して脳内に輸送される。これまで知られている脳内移行性の高い薬物の多くは有機カチオン性物質であり、BBBには未同定の有機カチオントランスポーターの存在が示唆されている<ref name="ref3" />。  
 図3(d)に、BBBにおける薬物の輸送システムをまとめた<ref name="ref1" /> <ref name="ref3" />。脂質二重膜で構成される細胞膜は、脂溶性の物質はBBBを透過しやすいとされる。しかし、脳毛細血管内皮細胞の血液側膜に局在するP-糖タンパクやBCRPは広範な基質認識性を示す。これらの基質となる物質は、内皮細胞内に侵入した際に速やかに細胞外へ排出輸送されるため、循環血液から脳への移行性が著しく制限される。中枢作用薬の開発段階においてP-糖タンパクやBCRPの基質となるか否かは脳移行性を予測する重要な指標となる。さらに、内因性代謝物質の排出輸送にも関与するOAT3やMRP4は、比較的水溶性の高いアニオン性薬物の脳内移行性を制限している。これらのトランスポーターを介した内因性物質と薬物間の相互作用が起こると、内因性物質の脳内挙動が変化し、副作用に繋がる可能性がある。脳移行性の優れた中枢作用薬の開発に当たっては、排出輸送に関与するトランスポーターの高親和性基質にならないことが望まれている。一方、供給輸送に関与するBBBのトランスポーターを利用して、内因性物質類似の薬物を脳に輸送させる試みもなされている。例えば、パーキンソン病治療薬であるL-ドーパはL-チロシンに構造が類似しており、LAT1を介して脳内に輸送される。これまで知られている脳内移行性の高い薬物の多くは有機カチオン性物質であり、BBBには未同定の有機カチオントランスポーターの存在が示唆されている<ref name="ref3" />。


== 実験手法  ==
== 実験手法  ==