「視差エネルギーモデル」の版間の差分

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== 単純型細胞の受容野構造と両眼視差選択性  ==
== 単純型細胞の受容野構造と両眼視差選択性  ==


[[Image:BinocularSimple.png|251px|'''図2 単純型細胞の受容野構造'''<br/>]]  
[[Image:BinocularSimple.png|400 px|'''図2 単純型細胞の受容野構造'''<br/>]]  


単純型細胞の受容野では、明るい刺激に応答するON領域と暗い刺激に応答するOFF領域が分離しており、その空間構造はガボールフィルターで近似できる。多くの細胞が両眼性であり、その応答は、両眼からの信号をそれぞれ左右の受容野で重みづけして線形加算したのち、半端整流したものとして記述される(図2)。<br> このような受容野をもつ単純型細胞の両眼視差選択性は、大きく分けて2つの機構で生じることが知られている。1つは、同じ空間構造の受容野の位置が左右の眼でずれることで、細胞がそのずれと等しい両眼視差を最適とする機構であり、「位置モデル」とよばれている。たとえば、左右の受容野に位置のずれがない図3Aの細胞は、刺激の両眼視差がゼロのとき最も強く応答するのにたいし、左右の受容野の位置がずれた図3Bの細胞は、刺激の左右像が受容野のずれとマッチした両眼視差をもつとき、最も強く応答する。2つ目の機構は、受容野の中心位置は同じであるが、受容野の(ガボール)位相が左右で異なる(図3C)ことで、細胞が両眼視差に選択性をもつ機構で、この機構は「位相モデル」とよばれている。<br> 単純型細胞の多くは両眼視差に依存した応答を示す。ただし、単純型細胞の両眼視差依存性は、刺激の左右投影像の単眼上での位置や、刺激のコントラストにも大きく依存するという問題がある。たとえば、図3Dのように、明るいスポット光の左眼像の位置を、受容野の中心よりもやや左に固定する場合、左右に同じ受容野をもつ細胞が最もよく反応する視差は、ゼロ視差ではなく交差視差となる。このような問題のため、通常、単純型細胞が第一次視覚野の両眼視差検出器として取り扱われることはない。<br>  
単純型細胞の受容野では、明るい刺激に応答するON領域と暗い刺激に応答するOFF領域が分離しており、その空間構造はガボールフィルターで近似できる。多くの細胞が両眼性であり、その応答は、両眼からの信号をそれぞれ左右の受容野で重みづけして線形加算したのち、半端整流したものとして記述される(図2)。<br> このような受容野をもつ単純型細胞の両眼視差選択性は、大きく分けて2つの機構で生じることが知られている。1つは、同じ空間構造の受容野の位置が左右の眼でずれることで、細胞がそのずれと等しい両眼視差を最適とする機構であり、「位置モデル」とよばれている。たとえば、左右の受容野に位置のずれがない図3Aの細胞は、刺激の両眼視差がゼロのとき最も強く応答するのにたいし、左右の受容野の位置がずれた図3Bの細胞は、刺激の左右像が受容野のずれとマッチした両眼視差をもつとき、最も強く応答する。2つ目の機構は、受容野の中心位置は同じであるが、受容野の(ガボール)位相が左右で異なる(図3C)ことで、細胞が両眼視差に選択性をもつ機構で、この機構は「位相モデル」とよばれている。<br> 単純型細胞の多くは両眼視差に依存した応答を示す。ただし、単純型細胞の両眼視差依存性は、刺激の左右投影像の単眼上での位置や、刺激のコントラストにも大きく依存するという問題がある。たとえば、図3Dのように、明るいスポット光の左眼像の位置を、受容野の中心よりもやや左に固定する場合、左右に同じ受容野をもつ細胞が最もよく反応する視差は、ゼロ視差ではなく交差視差となる。このような問題のため、通常、単純型細胞が第一次視覚野の両眼視差検出器として取り扱われることはない。<br>  
[[Image:PositionPhase.png|400 px|'''図3 単純型細胞受容野と両眼視差選択性'''<br/>]]


== 視差エネルギーモデル  ==
== 視差エネルギーモデル  ==


単純型細胞の両眼視差選択性は、視覚刺激の(単眼)位置やコントラストに依存するのにたいし、複雑型細胞の両眼視差選択性はそれらに依存せず一定である。このような複雑型細胞の両眼視差選択性を作り出す受容野内部機構として提唱されたモデルが、視差エネルギーモデルであり、図4のように表される。このモデルにおいて、複雑型細胞(Cの記号で表す)は、両眼性単純型細胞をモデル化した4つのサブブユニット(S1, S2, S3, S4)が出す信号を線形加算し、外部に出力する。4つのサブユニットのガボールフィルターの位相は、右眼、左眼のそれぞれにおいて90度ずつ異なっている。また各サブニットにおいて、左右ガボールフィルターの両眼間の位相差は同一である。この両眼位相差を(4つのサブユニットで同一に保ちながら)変化させることで、モデルの両眼視差選択性を変化させることができる。<br> 刺激の左右の像が、複雑型細胞の最適な両眼視差をもつ場合(図3の場合はゼロ視差)、受容野内部のどの場所に刺激がくる場合でも、4つのサブユニットのいずれかが強く応答する。図3の場合、明るい刺激が受容野内部の中心付近に呈示される場合にはS1が、左部分に呈示される場合にはS2が、右部分に呈示される場合にはS4がそれぞれゼロ視差に強く応答する。また、背景より暗い刺激が受容野の中心付近、右部分、左部分に呈示される場合には、S4、S3、S2がそれぞれゼロ視差に強く応答する。このため、複雑型細胞は、受容野内部の刺激の位置やコントラストに影響されずに、同じ両眼視差選択性を示すようになり、両眼視差の検出器としては理想的な振る舞いをする。<br><br>&nbsp;
単純型細胞の両眼視差選択性は、視覚刺激の(単眼)位置やコントラストに依存するのにたいし、複雑型細胞の両眼視差選択性はそれらに依存せず一定である。このような複雑型細胞の両眼視差選択性を作り出す受容野内部機構として提唱されたモデルが、視差エネルギーモデルであり、図4のように表される。このモデルにおいて、複雑型細胞(Cの記号で表す)は、両眼性単純型細胞をモデル化した4つのサブブユニット(S1, S2, S3, S4)が出す信号を線形加算し、外部に出力する。4つのサブユニットのガボールフィルターの位相は、右眼、左眼のそれぞれにおいて90度ずつ異なっている。また各サブニットにおいて、左右ガボールフィルターの両眼間の位相差は同一である。この両眼位相差を(4つのサブユニットで同一に保ちながら)変化させることで、モデルの両眼視差選択性を変化させることができる。<br> 刺激の左右の像が、複雑型細胞の最適な両眼視差をもつ場合(図3の場合はゼロ視差)、受容野内部のどの場所に刺激がくる場合でも、4つのサブユニットのいずれかが強く応答する。図3の場合、明るい刺激が受容野内部の中心付近に呈示される場合にはS1が、左部分に呈示される場合にはS2が、右部分に呈示される場合にはS4がそれぞれゼロ視差に強く応答する。また、背景より暗い刺激が受容野の中心付近、右部分、左部分に呈示される場合には、S4、S3、S2がそれぞれゼロ視差に強く応答する。このため、複雑型細胞は、受容野内部の刺激の位置やコントラストに影響されずに、同じ両眼視差選択性を示すようになり、両眼視差の検出器としては理想的な振る舞いをする。<br>
 
[[Image:DisparityEnergyModel.png|500 px|'''図4 視差エネルギーモデル'''<br/>]]
 
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