「視床下部」の版間の差分

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''名古屋大学 環境医学研究所 ストレス受容・応答研究部門''<br>
''名古屋大学 環境医学研究所 ストレス受容・応答研究部門''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月25日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年5月25日 原稿完成日:2015年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/noritakaichinohe 一戸 紀孝](国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)<br>
担当編集委員:[https://researchmap.jp/masahikowatanabeo 渡辺 雅彦] (北海道大学大学院医学研究院 解剖学分野 解剖発生学教室)<br>
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 視床下部の底部、[[視交叉]]のすぐ上に位置する一対の神経核。視交叉上核は[[体内時計]]の中枢としてよく知られている<ref><pubmed> 20148688 </pubmed></ref>。視交叉上核を破壊された動物では、規則正しい睡眠・覚醒リズムが消失してしまう。視交叉上核の細胞は、体内から取り出され外界からの刺激がない状態で培養されても、自律的に概日リズムを刻み続けることができる<ref><pubmed> 7718233 </pubmed></ref>。同時に、視交叉上核は明暗の情報を目から受け取ることで体内時計を外界と同調させている。この場合、通常の視覚に関わる視細胞ではなく、[[光感受性物質]]である[[メラノプシン]]を発現する一部の[[網膜神経節細胞]]が視交叉上核へと情報を伝えている<ref><pubmed> 11834834 </pubmed></ref>。視交叉上核はこの受け取った情報を他の情報と統合して処理したのち、[[松果体]]へ伝えている<ref><pubmed> 16337005 </pubmed></ref>。松果体ではこの情報に応答して睡眠を調節するホルモンである[[メラトニン]]を分泌する。メラトニン分泌は光で抑制されるため、昼行性動物では夜間に高く昼間に低い。  
 視床下部の底部、[[視交叉]]のすぐ上に位置する一対の神経核。視交叉上核は[[体内時計]]の中枢としてよく知られている<ref><pubmed> 20148688 </pubmed></ref>。視交叉上核を破壊された動物では、規則正しい睡眠・覚醒リズムが消失してしまう。視交叉上核の細胞は、体内から取り出され外界からの刺激がない状態で培養されても、自律的に概日リズムを刻み続けることができる<ref><pubmed> 7718233 </pubmed></ref>。同時に、視交叉上核は明暗の情報を目から受け取ることで体内時計を外界と同調させている。この場合、通常の視覚に関わる視細胞ではなく、[[光感受性物質]]である[[メラノプシン]]を発現する一部の[[網膜神経節細胞]]が視交叉上核へと情報を伝えている<ref><pubmed> 11834834 </pubmed></ref>。視交叉上核はこの受け取った情報を他の情報と統合して処理したのち、[[松果体]]へ伝えている<ref><pubmed> 16337005 </pubmed></ref>。松果体ではこの情報に応答して睡眠を調節するホルモンである[[メラトニン]]を分泌する。メラトニン分泌は光で抑制されるため、昼行性動物では夜間に高く昼間に低い。  


''詳細は「視交叉上核」のページを参照。''
 ''詳細は[[視交叉上核]]のページを参照。''


=== 視索上核===  
=== 視索上核===  
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 乳頭体の外殻に位置する結節乳頭体核は[[ヒスタミン]]神経系の起始核であり、[[覚醒中枢]]の一つと考えられている。ここからヒスタミン作動性ニューロンは脳内のほぼ全域にわたる幅広い領域に投射しており、ヒスタミン作動性ニューロンが活性化すると覚醒レベルが高まる<ref><pubmed> 12700104 </pubmed></ref>。風邪薬として用いられる第一世代のヒスタミンH1受容体阻害薬の服用が眠気をもたらすのは、このヒスタミンによる覚醒系が抑制されるからである。  
 乳頭体の外殻に位置する結節乳頭体核は[[ヒスタミン]]神経系の起始核であり、[[覚醒中枢]]の一つと考えられている。ここからヒスタミン作動性ニューロンは脳内のほぼ全域にわたる幅広い領域に投射しており、ヒスタミン作動性ニューロンが活性化すると覚醒レベルが高まる<ref><pubmed> 12700104 </pubmed></ref>。風邪薬として用いられる第一世代のヒスタミンH1受容体阻害薬の服用が眠気をもたらすのは、このヒスタミンによる覚醒系が抑制されるからである。  


=== 背内側核  ===
=== 背内側核  ===
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 視床下部が睡眠・覚醒を司っていることは古くから知られており、[[嗜眠性脳炎]]の研究などから視床下部の前方部には睡眠中枢が、後方部には覚醒中枢が存在することが提起された。視床下部前方部に存在する[[腹外側視索前野]](Ventrolateral preoptic nucleus: VLPO)における[[GABA]]作動性ニューロンが睡眠中枢として中心的な役割を果たしており、腹外側視索前野の神経細胞は睡眠時に活動を増加させることで睡眠の開始と維持を行っている<ref><pubmed> 12401341 </pubmed></ref>。一方、視床下部後方部に存在する結節乳頭体核(Tuberomammillary nucleus: TMN)はヒスタミン作動性ニューロンの起始核であり、覚醒中枢の一つと考えられている。ヒスタミン作動性ニューロンはここから脳内のほとんどの領域に軸索を投射しており、ヒスタミン作動性ニューロンの活動が高まると覚醒レベルが上昇する。腹外側視索前野と結節乳頭体核は互いに[[軸索]]を投射してその活動を抑制し合っており、結節乳頭体核から腹外側視索前野への抑制が優位になると覚醒が、腹外側視索前野から結節乳頭体核への抑制が優位になると睡眠が開始されることで迅速な睡眠・覚醒の相転移が行われている(フリップ・フロップ説)<ref><pubmed> 16251950 </pubmed></ref>。視床下部のオレキシンニューロンは、結節乳頭体核などの覚醒中枢に密に投射し、これを活性化させることで覚醒を維持するのに寄与していると考えられている。睡眠には視床下部以外にも脳幹のモノアミン作動性ニューロンなど関与する脳領域は多い。
 視床下部が睡眠・覚醒を司っていることは古くから知られており、[[嗜眠性脳炎]]の研究などから視床下部の前方部には睡眠中枢が、後方部には覚醒中枢が存在することが提起された。視床下部前方部に存在する[[腹外側視索前野]](Ventrolateral preoptic nucleus: VLPO)における[[GABA]]作動性ニューロンが睡眠中枢として中心的な役割を果たしており、腹外側視索前野の神経細胞は睡眠時に活動を増加させることで睡眠の開始と維持を行っている<ref><pubmed> 12401341 </pubmed></ref>。一方、視床下部後方部に存在する結節乳頭体核(Tuberomammillary nucleus: TMN)はヒスタミン作動性ニューロンの起始核であり、覚醒中枢の一つと考えられている。ヒスタミン作動性ニューロンはここから脳内のほとんどの領域に軸索を投射しており、ヒスタミン作動性ニューロンの活動が高まると覚醒レベルが上昇する。腹外側視索前野と結節乳頭体核は互いに[[軸索]]を投射してその活動を抑制し合っており、結節乳頭体核から腹外側視索前野への抑制が優位になると覚醒が、腹外側視索前野から結節乳頭体核への抑制が優位になると睡眠が開始されることで迅速な睡眠・覚醒の相転移が行われている(フリップ・フロップ説)<ref><pubmed> 16251950 </pubmed></ref>。視床下部のオレキシンニューロンは、結節乳頭体核などの覚醒中枢に密に投射し、これを活性化させることで覚醒を維持するのに寄与していると考えられている。睡眠には視床下部以外にも脳幹のモノアミン作動性ニューロンなど関与する脳領域は多い。


 ''関連する情報は、[[睡眠制御の神経回路]]のページを参照のこと。''
 ''関連する情報は、[[睡眠]]のページを参照のこと。''


== 最近の知見について  ==
== 最近の知見について  ==
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== 関連項目  ==
== 関連項目  ==


*[[体温調節の神経回路]]  
*[[体温調節の神経回路]]
*[[養育行動の神経回路]]  
*[[ストレス応答]]  
*[[ストレス応答]]  
*[[睡眠]]  
*[[睡眠]]  
*[[摂食行動]]  
*[[摂食行動]]  
*[[性行動]]
*[[性行動]]
*[[視交叉上核]]
*[[脳弓下器官]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />
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