「認知症」の版間の差分

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 また認知症を呈する疾患の鑑別診断には、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、嗜銀顆粒性認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病などの神経変性疾患が挙げられる他、脳血管障害による血管性認知症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍、外傷性脳損傷、慢性外傷性脳症、Creutzfeldt-Jakob病やその他の感染症としてHIV感染症、亜急性硬化性全脳炎、進行性多巣性白質脳症、神経梅毒、髄膜脳炎など多彩な脳・神経疾患が挙げられる。また上記以外にもパーキンソン病や多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、あるいは神経ベーチェットやサルコイドーシスなど全身性疾患の中枢神経症状においても認知症を合併する場合がある。さらに、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、糖尿病、栄養異常(ビタミンB1やB12低下)などの代謝疾患、肝不全や腎不全などの臓器不全、アルコールや麻薬、その他薬物や金属、一酸化炭素による中毒など、各種身体疾患においても認知症は認められ、鑑別の範囲は非常に多岐に渡る。
 また認知症を呈する疾患の鑑別診断には、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、嗜銀顆粒性認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、ハンチントン病などの神経変性疾患が挙げられる他、脳血管障害による血管性認知症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍、外傷性脳損傷、慢性外傷性脳症、Creutzfeldt-Jakob病やその他の感染症としてHIV感染症、亜急性硬化性全脳炎、進行性多巣性白質脳症、神経梅毒、髄膜脳炎など多彩な脳・神経疾患が挙げられる。また上記以外にもパーキンソン病や多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、あるいは神経ベーチェットやサルコイドーシスなど全身性疾患の中枢神経症状においても認知症を合併する場合がある。さらに、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、糖尿病、栄養異常(ビタミンB1やB12低下)などの代謝疾患、肝不全や腎不全などの臓器不全、アルコールや麻薬、その他薬物や金属、一酸化炭素による中毒など、各種身体疾患においても認知症は認められ、鑑別の範囲は非常に多岐に渡る。


== 検査 ==
==== 検査 ====
 認知症であるか否か、あるいは認知症性疾患であるとしてどのような診断であるのか、以下のような検査が必要になる。
 認知症であるか否か、あるいは認知症性疾患であるとしてどのような診断であるのか、以下のような検査が必要になる。
==== 神経心理検査 ====
===== 神経心理検査 =====
 認知症であるか否かのスクリーニング検査のうち、質問式の方法としては本邦では長谷川式認知症スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised:HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が広く用いられる。HDS-Rは1974年に作成された長谷川式簡易知能スケールの改訂版(1991年)であり、2004年の認知症への改称に伴い2005年から現在の名称になっている。9つの設問からなり最高点は30点満点で21点以上を正常、20点以下を認知症の疑いとする。MMSEは国際的に最も広く使用されている方法で、11の設問からなる。最高点は30点満点で24点以上を正常、23点以下を認知症の疑いとしていたが、最近では27点以上を正常、22〜26点を軽度認知症の疑い、21点以下を認知症の疑いが強いとする基準も用いられる。他にも、より簡便なスクリーニング法として「10時10分もしくは8時20分を指す時計の文字盤を描かせる」Clock Drawing Test(CDT)や年齢、日付、生年月日などのみを質問する方法なども行われる。またHDS-RやMMSEでは評価が困難な前頭葉機能の評価法としてFrontal Assessment Battery(FAB)が挙げられる。これは6設問からなり最高点は18点満点でカットオフ値については諸説あり、11、12点を勧める報告<ref>'''前島 伸, 種村 純, 大沢 愛, 川原田 美, 関口 恵, et al.'''<br>高齢者に対するFrontal assessment battery(FAB)の臨床意義について.<br>''脳と神経'': 2006, 58; 207-11</ref>などが散見される。
 認知症であるか否かのスクリーニング検査のうち、質問式の方法としては本邦では長谷川式認知症スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised:HDS-R)やMini-Mental State Examination(MMSE)が広く用いられる。HDS-Rは1974年に作成された長谷川式簡易知能スケールの改訂版(1991年)であり、2004年の認知症への改称に伴い2005年から現在の名称になっている。9つの設問からなり最高点は30点満点で21点以上を正常、20点以下を認知症の疑いとする。MMSEは国際的に最も広く使用されている方法で、11の設問からなる。最高点は30点満点で24点以上を正常、23点以下を認知症の疑いとしていたが、最近では27点以上を正常、22〜26点を軽度認知症の疑い、21点以下を認知症の疑いが強いとする基準も用いられる。他にも、より簡便なスクリーニング法として「10時10分もしくは8時20分を指す時計の文字盤を描かせる」Clock Drawing Test(CDT)や年齢、日付、生年月日などのみを質問する方法なども行われる。またHDS-RやMMSEでは評価が困難な前頭葉機能の評価法としてFrontal Assessment Battery(FAB)が挙げられる。これは6設問からなり最高点は18点満点でカットオフ値については諸説あり、11、12点を勧める報告<ref>'''前島 伸, 種村 純, 大沢 愛, 川原田 美, 関口 恵, et al.'''<br>高齢者に対するFrontal assessment battery(FAB)の臨床意義について.<br>''脳と神経'': 2006, 58; 207-11</ref>などが散見される。


==== 血液検査 ====
===== 血液検査 =====
 認知症が疑われた際に、認知症をきたす各種内科疾患とそれ以外の認知症疾患の鑑別に有用である。例えば、一般的な項目として血算、血沈、肝機能、腎機能、電解質、血糖、HbA1c、脂質、アンモニア、甲状腺ホルモン、ビタミンB1、B12、葉酸、梅毒血清反応、動脈血ガス分析などが挙げられる。また悪性腫瘍の鑑別に各種腫瘍マーカー、自己免疫疾患の鑑別に各種自己抗体、感染症の鑑別にはHIV抗体やJCウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス抗体がそれぞれ役立つ。さらに中毒を疑う例では各種薬剤、特に抗精神病薬や金属、有機化合物などの血中濃度測定が有用である。一方、神経変性疾患であるアルツハイマー病においては血漿アミロイドβ(Aβ)についての検証がなされている<ref><pubmed> 9065558 </pubmed></ref><ref><pubmed> 9029078 </pubmed></ref>。
 認知症が疑われた際に、認知症をきたす各種内科疾患とそれ以外の認知症疾患の鑑別に有用である。例えば、一般的な項目として血算、血沈、肝機能、腎機能、電解質、血糖、HbA1c、脂質、アンモニア、甲状腺ホルモン、ビタミンB1、B12、葉酸、梅毒血清反応、動脈血ガス分析などが挙げられる。また悪性腫瘍の鑑別に各種腫瘍マーカー、自己免疫疾患の鑑別に各種自己抗体、感染症の鑑別にはHIV抗体やJCウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス抗体がそれぞれ役立つ。さらに中毒を疑う例では各種薬剤、特に抗精神病薬や金属、有機化合物などの血中濃度測定が有用である。一方、神経変性疾患であるアルツハイマー病においては血漿アミロイドβ(Aβ)についての検証がなされている<ref><pubmed> 9065558 </pubmed></ref><ref><pubmed> 9029078 </pubmed></ref>。


==== 脳脊髄液検査 ====
===== 脳脊髄液検査 =====
 脳脊髄液検査は髄膜脳炎やくも膜下出血、各種神経免疫疾患、腫瘍性疾患などの鑑別に有用である。亜急性硬化性全脳炎においては脳脊髄液麻疹抗体、進行性多巣性白質脳症ではJCウイルスDNA PCRが、Creutzfeldt-Jakob病では脳脊髄液14-3-3蛋白や総タウ蛋白の測定がそれぞれ有用とされる。またアルツハイマー病では脳脊髄液中のタウ蛋白やAβが検証され、近年注目されている。
 脳脊髄液検査は髄膜脳炎やくも膜下出血、各種神経免疫疾患、腫瘍性疾患などの鑑別に有用である。亜急性硬化性全脳炎においては脳脊髄液麻疹抗体、進行性多巣性白質脳症ではJCウイルスDNA PCRが、Creutzfeldt-Jakob病では脳脊髄液14-3-3蛋白や総タウ蛋白の測定がそれぞれ有用とされる。またアルツハイマー病では脳脊髄液中のタウ蛋白やAβが検証され、近年注目されている。


==== 画像検査 ====
===== 画像検査 =====
 画像検査のうちCT、MRI、MRAは脳血管障害、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍、髄膜脳炎、多発性硬化症などの診断に有用である。MRIの拡散強調画像はCreutzfeldt-Jakob病の病変描出能に優れる。またMRIは神経変性疾患における脳の形態学的変化の描出にも優れ、近年ではvoxel-based morphometry(VBM)が発達している。これは各個人の脳の形態情報を標準化し、健常標準脳の形態と比較してvoxel単位で統計学的に脳の萎縮を評価する手法である。アルツハイマー病における海馬や海馬傍回の評価などに用いる。脳血流SPECTは主に<sup>123</sup>I-IMPや<sup>99m</sup>Tc-ECDを核種として用い、特に神経変性疾患においては形態学的変化をきたす以前の異常を検出しうる検査法として重要視されている。かつては評価において客観性に欠けることが指摘されていたが、近年ではstatistical parametric mapping(SPM)、three-dimentional stereotactic surface projection(3D-SSP)、easy Z-score imaging system(e-ZIS)などの画像統計解析手法が発達し、課題が克服されている。保健適応外の臨床研究領域では、アルツハイマー病においてFDG-PETで側頭葉内側や頭頂-側頭連合野、帯状回後部などにおける糖代謝低下が指摘される。また近年、<sup>11</sup>C-PIBやFDDNP、BF-227などを核種としたアミロイドイメージングによりアルツハイマー病における老人斑の検出が非侵襲的に可能になり注目されている。
 画像検査のうちCT、MRI、MRAは脳血管障害、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、硬膜動静脈瘻、脳腫瘍、髄膜脳炎、多発性硬化症などの診断に有用である。MRIの拡散強調画像はCreutzfeldt-Jakob病の病変描出能に優れる。またMRIは神経変性疾患における脳の形態学的変化の描出にも優れ、近年ではvoxel-based morphometry(VBM)が発達している。これは各個人の脳の形態情報を標準化し、健常標準脳の形態と比較してvoxel単位で統計学的に脳の萎縮を評価する手法である。アルツハイマー病における海馬や海馬傍回の評価などに用いる。脳血流SPECTは主に<sup>123</sup>I-IMPや<sup>99m</sup>Tc-ECDを核種として用い、特に神経変性疾患においては形態学的変化をきたす以前の異常を検出しうる検査法として重要視されている。かつては評価において客観性に欠けることが指摘されていたが、近年ではstatistical parametric mapping(SPM)、three-dimentional stereotactic surface projection(3D-SSP)、easy Z-score imaging system(e-ZIS)などの画像統計解析手法が発達し、課題が克服されている。保健適応外の臨床研究領域では、アルツハイマー病においてFDG-PETで側頭葉内側や頭頂-側頭連合野、帯状回後部などにおける糖代謝低下が指摘される。また近年、<sup>11</sup>C-PIBやFDDNP、BF-227などを核種としたアミロイドイメージングによりアルツハイマー病における老人斑の検出が非侵襲的に可能になり注目されている。


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