「超解像蛍光顕微鏡」の版間の差分

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'''④1-Nサイクルの積分によるPALM画像の構築''' 上記①~③操作を全てのPSFPがなくなるまで(Nサイクル)繰り返した後に、③で得られた画像を全て足し合わせる事でPALM画像が得られる<ref group="注">実際は全ての点をPALM画像に入れるのではなく、推定座標の「不確かさ」が大きな点はPALM画像には含めないという"足切り"操作が行われる。</ref>。最終的に得られたPALM画像の輝度は「蛍光分子がその位置で見つかる可能性」に比例する。]]
'''④1-Nサイクルの積分によるPALM画像の構築''' 上記①~③操作を全てのPSFPがなくなるまで(Nサイクル)繰り返した後に、③で得られた画像を全て足し合わせる事でPALM画像が得られる<ref group="注">実際は全ての点をPALM画像に入れるのではなく、推定座標の「不確かさ」が大きな点はPALM画像には含めないという"足切り"操作が行われる。</ref>。最終的に得られたPALM画像の輝度は「蛍光分子がその位置で見つかる可能性」に比例する。]]


光学顕微鏡の空間分解能は先述のとおり2つの点光源を異なる点として区別する「2点分解能」で表現され、可視光では200-300 nm程度である。しかしながら隣り合った2点が重ならないほど離れていれば、蛍光一分子のPSFを2次元のガウス関数で解析する事で条件が良ければ~1 nmの精度で位置を決定できる。この蛍光一分子の正確な位置解析は(FIONA;fluorescence imaging with one-nanometer accuracy)として知られる<ref><pubmed> 12791999 </pubmed></ref>。超解像顕微鏡法の一つであるLocalization microscopy(蛍光一分子局在化顕微鏡法)は、FIONAを利用し光学顕微鏡の分解能を超えた画像を取得する方法である。このような考えに基づいて超解像を達成するというアイディアは古くからあったが<ref><pubmed> 19859146 </pubmed></ref>、理想的なサンプルを準備するのが困難なため実現はされなかった。例えば単純にGFP融合タンパク質を発現した細胞にFIONAを適用するのは、多くの場合で以下の様な問題が生じる。<br>
光学顕微鏡の空間分解能は先述のとおり2つの点光源を異なる点として区別する「2点分解能」で表現され、可視光では200-300 nm程度である。しかしながら隣り合った2点が重ならないほど離れていれば、蛍光一分子のPSFを2次元のガウス関数で解析する事で1 nmの精度で位置を決定できる。この蛍光一分子の正確な位置解析は(FIONA;fluorescence imaging with one-nanometer accuracy)として知られる<ref><pubmed> 12791999 </pubmed></ref>。超解像顕微鏡法の一つであるLocalization microscopy(蛍光一分子局在化顕微鏡法)は、FIONAを利用し光学顕微鏡の分解能を超えた画像を取得する方法である。このような考えに基づいて超解像を達成するというアイディアは古くからあったが<ref><pubmed> 19859146 </pubmed></ref>、理想的なサンプルを準備するのが困難なため実現はされなかった。例えば単純にGFP融合タンパク質を発現した細胞にFIONAを適用するのは、多くの場合で以下の様な問題が生じる。<br>
 1)発現しているGFPの数が多く、隣り合ったGFPのPSFが重なりあってしまうためFIONAを適用できない。<br>
 1)発現しているGFPの数が多く、隣り合ったGFPのPSFが重なりあってしまうためFIONAを適用できない。<br>
 2)PSFの重なりが無い程度にGFPを少なく発現させるのは非常に困難である。<br>
 2)PSFの重なりが無い程度にGFPを少なく発現させるのは非常に困難である。<br>
 3)仮に2)が達成できたとしても数個のGFPの詳細位置がわかるだけであり、細胞内の分子の局在情報としては不十分である。<br>
 3)仮に2)が達成できたとしても数個のGFPの詳細位置がわかるだけであり、細胞内の分子の局在情報としては不十分である。<br>
以下に紹介する蛍光一分子局在化法では、蛍光色素の蛍光状態(蛍光能)や蛍光色が切り替わる性質を利用してこれらの問題を巧妙に回避した。
以下に紹介するそれぞれの蛍光一分子局在化法では、蛍光色素の蛍光状態(蛍光能)や蛍光色が切り替わる性質を利用してこれらの問題を巧妙に回避した。


====<small>PALM,FPALM</small>====
====<small>PALM,FPALM</small>====
まず初めに具体例として蛍光一分子局在化法の一つであるPALM(photoactivated localization microscopy)<ref><pubmed> 16902090 </pubmed></ref>の原理について説明する。PALMでは蛍光色素として特定波長の刺激光照射により無蛍光から蛍光状態へと変化するPA-GFPや蛍光色が緑色から赤色に変化するmEOSといった「光スイッチング蛍光タンパク質(Photo-Switchable Fluorescent Protein; PSFP)」を利用する。光スイッチングにより蛍光性が切り替わる確率は刺激光の強度と照射時間におおよそ比例するので、それらをコントロールすることで、PSFが重ならない程度にPSFPをオフからオンにスイッチングさせられる(図-①)。この状態であればFIONAを適用し蛍光一分子の位置解析を行う事ができる(図-②,③)。視野内のPSFPを退色させた後に同じ事をPSFPが全てなくなるまで何度も繰り返す。こうして発現させた蛍光分子全ての詳細な局在画像(PALM画像)を得る事ができる。図では比較のために②で得られた画像の総和も示した。これは通常の蛍光画像に相当する。通常の蛍光画像では観られなかった「P A L M」の4文字がPALM画像では確認できる。<br>
蛍光一分子局在化法の一つとしてまず初めにPALM(photoactivated localization microscopy)<ref><pubmed> 16902090 </pubmed></ref>の原理について説明する。PALMでは蛍光色素として特定波長の刺激光照射により無蛍光(オフ)から蛍光状態(オン)へと変化するPA-GFPや蛍光色が緑色から赤色に変化するmEOSといった「光スイッチング蛍光タンパク質(Photo-Switchable Fluorescent Protein; PSFP)」を利用する。光スイッチングにより蛍光性が切り替わる確率は刺激光の強度と照射時間とおよそ比例関係があるので、それらを適切にコントロールすることで、PSFが重ならない程度にPSFPをオフからオンにスイッチングさせられる(図-①)。この状態であればFIONAを適用し蛍光一分子の位置解析を行う事ができる(図-②,③)。視野内のPSFPを退色させた後に同じ事をPSFPが全てなくなるまで何度も繰り返す。こうして発現させた蛍光分子全ての詳細な局在画像(PALM画像)を得る事ができる。図では比較のために②で得られた画像の総和も示した。これは通常の蛍光画像に相当する。通常の蛍光画像では観られなかった「P A L M」の4文字がPALM画像では確認できる。<br>
PALMと同時期に発表されたFPALM(Fluorescence photoactivation localization microscopy)もPALMと同じくPSFPを利用する方法である<ref><pubmed> 16980368 </pubmed></ref>。<br>
PALMと同時期に発表されたFPALM(Fluorescence photoactivation localization microscopy)もPALMと同じくPSFPを利用する方法である<ref><pubmed> 16980368 </pubmed></ref>。<br>
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====<small>STORM</small>====
====<small>STORM</small>====
STORM(stochastic optical reconstruction microscopy)もPALM・FPALMとほぼ同時期に発表された<ref><pubmed> 16896339 </pubmed></ref>。STORMでは蛍光色素がある条件下で暗状態(オフ)と蛍光状態(オン)を可逆的に遷移する現象を利用している。具体的には、シアニン系色素(例:Cy5)に強い励起光(赤色)を与えた際に、寿命の非常に長い暗状態に入る<ref group="注">三重項を経た暗状態で寿命が1時間程度とされる。三重項のクエンチャーとして働く酸素分子は暗状態への遷移を阻害する。また、この暗状態はチオールとの結合により起こる</ref><ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19961226 </pubmed></ref>。この暗状態において、より蛍光波長の短い別のシアニン系色素(例:Cy3)が近接している際にその励起光(緑色)を当てる事で蛍光状態への回復が起こるため、これを蛍光一分子の疎らなオンへと応用できる<ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref><br>
STORM(stochastic optical reconstruction microscopy)もPALM・FPALMとほぼ同時期に発表された<ref><pubmed> 16896339 </pubmed></ref>。STORMでは蛍光色素がある条件下で暗状態(オフ)と蛍光状態(オン)を可逆的に遷移する現象を利用している。この現象は、シアニン系色素(例:Cy5)に強い励起光(赤色)を与えた際に、寿命の非常に長い暗状態に入る<ref group="注">この暗状態は寿命が1時間程度とされる。三重項励起状態の消光剤として働く酸素分子は暗状態の寿命を短くするため、暗状態へは三重項励起状態から遷移すると考えられる。観察時に必要に応じて培地に酸素除去剤を加える必要があるのはこのためである。また、この暗状態はチオールとの結合により起こるため、還元剤を培地へ添加する場合もある</ref><ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref><ref><pubmed> 19961226 </pubmed></ref>。暗状態において、より蛍光波長の短い別のシアニン系色素(例:Cy3)が近接している際にCy3へ励起光(緑色)を与えるとCy5の蛍光状態への回復が起こる<ref><pubmed> 15783528 </pubmed></ref>。こうして視野内の蛍光分子を疎らにオンする事ができる。<br>


====<small>dSTORM,GSDIM</small>====
====<small>dSTORM,GSDIM</small>====
STORMでは超解像画像を一つ撮るために2つの蛍光色素を使うため、マルチカラー化が容易ではなかった。その後に報告されたdSTORM (direct STORM)<ref><pubmed> 18646237 </pubmed></ref>やGSDIM(ground-state depletion  
STORMでは超解像画像を一つ撮るために2つの蛍光色素を必要とするため、マルチカラー化は容易ではなかった。その後に報告されたdSTORM (direct STORM)<ref><pubmed> 18646237 </pubmed></ref>やGSDIM(ground-state depletion  
and single-molecule return)<ref><pubmed> 18794861 </pubmed></ref>ではこの問題が解決された。これらの方法では、蛍光色素の暗状態からの回復が別の蛍光色素の近接や励起光無しでも非常に稀に起こる事を利用して視野内の蛍光分子を疎らにオンにする。1つの蛍光色素で超解像画像が得られるようになりマルチカラー化が容易となった。<br>
and single-molecule return)<ref><pubmed> 18794861 </pubmed></ref>ではこの問題が解決された。これらの方法では、蛍光色素の暗状態からの回復が別の蛍光色素の近接や励起光無しでも非常に稀に起こる事を利用して視野内の蛍光分子を疎らにオンにする。1つの蛍光色素で超解像画像が得られるようになりマルチカラー化が容易となった。<br>


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