「身体図式」の版間の差分

サイズ変更なし 、 2012年5月11日 (金)
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 しかし、身体図式に限ってみても、脳はどのように自己身体のモデルを獲得し、それを柔軟に変容するのか、どのような計算が必要なのか未だ明確に分かっていない部分が多い。身体性に関わる認知機能やその発達に必要な条件を探索するために、ロボットを仮説検証のモデルとして利用するアプローチを認知発達ロボティクス、あるいは、発達構成論的アプローチという<ref name=ref18>'''Hoffmann, M., Marques, H., Arieta, A., Sumioka, H., Lungarella, M., & Pfeifer, R.''' (n.d.). <br>Body Schema in Robotics: A Review. <br>''IEEE Transactions on Autonomous Mental Development'', 2(4), 304–324.</ref>。たとえば、胎児の神経系を直接調べ、身体図式の発達過程を知ることは倫理的にできない。
 しかし、身体図式に限ってみても、脳はどのように自己身体のモデルを獲得し、それを柔軟に変容するのか、どのような計算が必要なのか未だ明確に分かっていない部分が多い。身体性に関わる認知機能やその発達に必要な条件を探索するために、ロボットを仮説検証のモデルとして利用するアプローチを認知発達ロボティクス、あるいは、発達構成論的アプローチという<ref name=ref18>'''Hoffmann, M., Marques, H., Arieta, A., Sumioka, H., Lungarella, M., & Pfeifer, R.''' (n.d.). <br>Body Schema in Robotics: A Review. <br>''IEEE Transactions on Autonomous Mental Development'', 2(4), 304–324.</ref>。たとえば、胎児の神経系を直接調べ、身体図式の発達過程を知ることは倫理的にできない。


 そこでKuniyoshi and Sangawa <ref name=ref19><pubmed>17123097</pubmed></ref>は、胎児の全身筋骨格系を模した計算機シミュレーションモデルを作成した。胎児の身体モデルは実際の胎児の物理的特徴(身体部位の大きさ、重量、関節角度など)に、神経モデルは運動制御の生理学的知見([[筋紡錘]]からの[[救心性感覚繊維]]、[[脳幹セントラルパターンジェネレーター]]、[[一次運動野]]、[[一次体性感覚野]])に基づいて構成された。
 そこでKuniyoshi and Sangawa <ref name=ref19><pubmed>17123097</pubmed></ref>は、胎児の全身筋骨格系を模した計算機シミュレーションモデルを作成した。胎児の身体モデルは実際の胎児の物理的特徴(身体部位の大きさ、重量、関節角度など)に、神経モデルは運動制御の生理学的知見([[筋紡錘]]からの[[求心性感覚繊維]]、[[脳幹セントラルパターンジェネレーター]]、[[一次運動野]]、[[一次体性感覚野]])に基づいて構成された。


 シミュレーション上で、子宮内の環境および胎児の身体と神経モデルを相互作用させた結果、事前に明示的な制御を行っていないにもかかわらず、実際の胎児が子宮内で見せるような(自己組織化された)身体運動と、 下肢、上肢、体幹、首を区別する[[体部位局在]]マップが形成されることが分かった。これは子宮内の環境と身体形状や筋配置等の身体的な制約が身体図式の発達を導いている可能性を示唆した。
 シミュレーション上で、子宮内の環境および胎児の身体と神経モデルを相互作用させた結果、事前に明示的な制御を行っていないにもかかわらず、実際の胎児が子宮内で見せるような(自己組織化された)身体運動と、 下肢、上肢、体幹、首を区別する[[体部位局在]]マップが形成されることが分かった。これは子宮内の環境と身体形状や筋配置等の身体的な制約が身体図式の発達を導いている可能性を示唆した。