「身体表現性障害」の版間の差分

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===DSM===
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DSM-IV-TRによれば、「身体表現性障害(somatoform disorders)」は以下の様に記載されている。
DSM-IV-TRによれば、「身体表現性障害(somatoform disorders)」は以下の様に記載されている。
「身体表現性障害の一般的特徴は,一般身体疾患を示唆する身体症状で(そのために,身体表現性という用語を用いる),それが一般身体疾患,物質の直接的な作用,または他の精神疾患(例:パニック障害)によって完全には説明されないものの存在である.その症状は,臨床的に著しい苦痛,または社会的,職業的,または他の領域における機能の障害を引き起こしていなければならない.虚偽性障害および詐病とは対照的に,その身体症状は意図的(すなわち,随意的な制御によるもの)ではない.身体症状を完全に説明するだけの一般身体疾患が診断可能なものとして存在していないという点で、身体表現性障害は「身体疾患に影響を与えている心理的要因」とは異なっている。これらの障害を1つの章に集めるのは、病院またはメカニズムを共有していることを想定しているというよりは,むしろ臨床的有用性(すなわち,身体症状について,不可解な一般身体疾患または物質誘発性の病因を除外したいという欲求)に基づくものである.これらの障害は,一般身体診療場面でしばしばみられる。」
「身体表現性障害の一般的特徴は,一般身体疾患を示唆する身体症状で(そのために,身体表現性という用語を用いる),それが一般身体疾患,物質の直接的な作用,または他の精神疾患(例:パニック障害)によって完全には説明されないものの存在である.その症状は,臨床的に著しい苦痛,または社会的,職業的,または他の領域における機能の障害を引き起こしていなければならない.虚偽性障害および詐病とは対照的に,その身体症状は意図的(すなわち,随意的な制御によるもの)ではない.身体症状を完全に説明するだけの一般身体疾患が診断可能なものとして存在していないという点で、身体表現性障害は「身体疾患に影響を与えている心理的要因」とは異なっている。これらの障害を1つの章に集めるのは、病因またはメカニズムを共有していることを想定しているというよりは,むしろ臨床的有用性(すなわち,身体症状について,不可解な一般身体疾患または物質誘発性の病因を除外したいという欲求)に基づくものである.これらの障害は,一般身体診療場面でしばしばみられる。」


さらに、以下の身体表現性障害がこの章に入れられている、と記載されている。
さらに、以下の身体表現性障害がこの章に入れられている、と記載されている。
20行目: 20行目:
心気症は,身体症状または身体機能に対するその人の誤った解釈に基づき,重篤な病気にかかる恐怖,または病気にかかっているという観念へのとらわれである.
心気症は,身体症状または身体機能に対するその人の誤った解釈に基づき,重篤な病気にかかる恐怖,または病気にかかっているという観念へのとらわれである.
====身体醜形障害====
====身体醜形障害====
身体醜形障害は,想像上のまたは誇張された身体的タト見の欠陥へのとらわれである。
身体醜形障害は,想像上のまたは誇張された身体的外見の欠陥へのとらわれである。
====特定不能の身体表現性障害====
====特定不能の身体表現性障害====
特定不能の身体表現性障害は,どの特定の身体表現性障害の診断基準も満たさない身体表現性の症状をもつ障害にコード番号をつけるために含められている.
特定不能の身体表現性障害は,どの特定の身体表現性障害の診断基準も満たさない身体表現性の症状をもつ障害にコード番号をつけるために含められている.
55行目: 55行目:
上記に述べてきたように、身体表現性障害はある病態生理に基づいてカテゴライズされた疾患ではなく、はっきりとした身体所見がないにもかかわらず,身体関連の執拗な訴えがある疾患群を総称している症候群である。虚偽性障害や詐病のように意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。背景に他の精神疾患があれば、その疾患の診断や病理の方をより重視することが多く、その部分症状あるいは不随症状とみなされることが多い。さらに診断基準の歴史的変遷により、その病理の追究を難しいものにしている。
上記に述べてきたように、身体表現性障害はある病態生理に基づいてカテゴライズされた疾患ではなく、はっきりとした身体所見がないにもかかわらず,身体関連の執拗な訴えがある疾患群を総称している症候群である。虚偽性障害や詐病のように意図的に作り出されたりねつ造されたりしたものではない。背景に他の精神疾患があれば、その疾患の診断や病理の方をより重視することが多く、その部分症状あるいは不随症状とみなされることが多い。さらに診断基準の歴史的変遷により、その病理の追究を難しいものにしている。
身体化障害・疼痛性障害・心気症・身体醜形障害に共通しているのは、「とらわれ」「固着」である。身体化障害及び疼痛性障害は「身体症状の訴え」という模倣形で表出され、心気症・身体醜形障害(疾病恐怖・醜形恐怖と俗に呼ばれるもの)は、「自己に対する心配・恐怖という固着観念」である。病理が深くなれば妄想に近くなるが、そういった意味では統合失調症の妄想と連続していると考える臨床家もいる(実際には、統合失調症・うつ病などに心気的な訴えをする患者も多い)。気質的には、「神経質」つまり内省的で物事を気にしやすい性質(森田正馬による「ヒポコンドリー性基調」)がある。
身体化障害・疼痛性障害・心気症・身体醜形障害に共通しているのは、「とらわれ」「固着」である。身体化障害及び疼痛性障害は「身体症状の訴え」という模倣形で表出され、心気症・身体醜形障害(疾病恐怖・醜形恐怖と俗に呼ばれるもの)は、「自己に対する心配・恐怖という固着観念」である。病理が深くなれば妄想に近くなるが、そういった意味では統合失調症の妄想と連続していると考える臨床家もいる(実際には、統合失調症・うつ病などに心気的な訴えをする患者も多い)。気質的には、「神経質」つまり内省的で物事を気にしやすい性質(森田正馬による「ヒポコンドリー性基調」)がある。
本障害の脳科学的な検証はまだまだなされていないのが現状である。身体化や疼痛については研究が散見される。PETやSPECTを使ってSomatization disorderの患者の血流を測定したもの<ref><pubmed> 11437810 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12455936 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15246456 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17109700 </pubmed></ref>があるが、まだ症例数・研究数が少なく、確定的なことは言えない。扁桃体の体積減少を指摘するものもあれば<ref><pubmed> 21651951 </pubmed></ref>、PTSD患者の島皮質周辺の体積変化が身体症状に関連していたとするものもある<ref><pubmed>17187377</pubmed></ref>。また、一般的に疼痛性障害や線維筋痛症などでは海馬の機能障害がみられ<ref><pubmed> 19553880 </pubmed></ref>、海馬がpain-networkの中に含まれることから、海馬の問題も指摘されている。例えば、機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いた研究で、痛みに対する予期不安が痛みの主観的な感覚を高めるのであるが、そのモジュレーションに海馬が関係し、その脳活動が全身的な身体化に関係していたとするデータがある<ref><pubmed> 22831862 </pubmed></ref>。いずれにしろ、身体化・疼痛性障害に関して少しずつ知見が集まりつつあるものの、まだ脳研究は途上である。また、心気症・醜形障害など「(恐怖)観念」に関するものは、極めて知見が少ない。今後の一層の研究が待たれる。
本障害の脳科学的な検証はまだまだなされていないのが現状である。身体化や疼痛については研究が散見される。PETやSPECTを使ってSomatization disorderの患者の血流を測定したもの<ref><pubmed> 11437810 </pubmed></ref><ref><pubmed> 12455936 </pubmed></ref><ref><pubmed> 15246456 </pubmed></ref><ref><pubmed> 17109700 </pubmed></ref>があるが、まだ症例数・研究数が少なく、確定的なことは言えない。扁桃体の体積減少を指摘するものもあれば<ref><pubmed> 21651951 </pubmed></ref>、PTSD患者の島皮質周辺の体積変化が身体症状に関連していたとするものもある<ref><pubmed>17187377</pubmed></ref>。また、一般的に疼痛性障害や線維筋痛症などでは海馬の機能障害がみられ<ref><pubmed> 19553880 </pubmed></ref>、海馬がpain-networkの中に含まれることから、海馬の問題も指摘されている。例えば、機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いた研究で、痛みに対する予期不安が痛みの主観的な感覚を高めるのであるが、そのモジュレーションに海馬が関係し、その脳活動が全身的な身体化に関係していたとするデータがある<ref><pubmed> 22831862 </pubmed></ref>。いずれにしろ、身体化・疼痛性障害に関して少しずつ知見が集まりつつあるものの、その神経基盤の解明研究は途上である。また、心気症・醜形障害など「(恐怖)観念」に関するものは、極めて知見が少ない。今後の一層の研究が待たれる。


==診断==
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