「軸索再生」の版間の差分

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 末梢神経は中枢神経に比べ、著明な軸索の再生が認められる。末梢神経では、細胞体が無傷であれば、軸索が切断されても再生が可能である。末梢神経系に存在するグリア細胞であるシュワン細胞は、損傷の刺激で増殖・活性化し、神経再生を促す。
 末梢神経は中枢神経に比べ、著明な軸索の再生が認められる。末梢神経では、細胞体が無傷であれば、軸索が切断されても再生が可能である。末梢神経系に存在するグリア細胞であるシュワン細胞は、損傷の刺激で増殖・活性化し、神経再生を促す。
 
 
 末梢神経の軸索が切断されると、損傷部位より遠位の軸索は、ワーラー変性と呼ばれる過程により断片化し、ミクログリアなどの貪食細胞により除去される。この際、シュワン細胞は柱状に配列し、Büngner’s bandと呼ばれる構造を形成する。Büngner’s bandは、再生軸索の足場を確保するとともに、神経栄養因子を供給して、再生軸索の伸長を助ける。細胞体側の残存した軸索は (やや退縮するが)、成長円錐を形成し、Büngner’s bandの中を伸長する。
 末梢神経の軸索が切断されると、損傷部位より遠位の軸索は、ワーラー変性と呼ばれる過程により断片化し、ミクログリアなどの貪食細胞により除去される。この際、シュワン細胞は柱状に配列し、Büngner’s bandと呼ばれる構造を形成する。Büngner’s bandは、再生軸索の足場を確保するとともに、神経栄養因子を供給して、再生軸索の伸長を助ける。細胞体側の残存した軸索は (やや退縮するが)、成長円錐を形成し、Büngner’s bandの中を伸長する。
 
 末梢神経の再生に関しても、cAMPの細胞内濃度の上昇が重要である。上記の通り、神経栄養因子はcAMPの分解を抑制し、細胞内cAMP濃度を上昇させる。神経栄養因子とdb-cAMPの両方の投与により、脊髄損傷後の感覚神経軸索の再生が促される。損傷前に感覚神経の細胞体が存在する脊髄後根神経節にdb-cAMPを投与しておき、損傷後に神経栄養因子neurotrophin-3 (NT-3)の投与を行うと、損傷1-3ヶ月後に損傷領域を超えて感覚神経の再生が認められる。損傷領域を超えての軸索再生はdb-cAMP、NT-3それぞれ単独投与では認められないことから、脊髄損傷後の軸索再生に必要な細胞内cAMP濃度上昇を促すためには、cAMPの投与と分解の抑制の両方が必要である <ref><pubmed> 12086637 </pubmed></ref>, <ref><pubmed> 12086638 </pubmed></ref>。


 末梢神経の再生に関しても、cAMPの細胞内濃度の上昇が重要である。上記の通り、神経栄養因子はcAMPの分解を抑制し、細胞内cAMP濃度を上昇させる。神経栄養因子とdb-cAMPの両方の投与により、脊髄損傷後の感覚神経軸索の再生が促される。損傷前に感覚神経の細胞体が存在する脊髄後根神経節にdb-cAMPを投与しておき、損傷後に神経栄養因子neurotrophin-3 (NT-3)の投与を行うと、損傷1-3ヶ月後に損傷領域を超えて感覚神経の再生が認められる。損傷領域を超えての軸索再生はdb-cAMP、NT-3それぞれ単独投与では認められないことから、脊髄損傷後の軸索再生に必要な細胞内cAMP濃度上昇を促すためには、cAMPの投与と分解の抑制の両方が必要である <ref><pubmed> 12086637 </pubmed></ref>, <ref><pubmed> 12086638 </pubmed></ref>。


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==