「軸索再生」の版間の差分

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=== 再生を困難にする内的要因  ===
=== 再生を困難にする内的要因  ===


 中枢神経軸索の再生能が低下する内的要因として、細胞内[[cAMP]]濃度の減少が考えられている。胎生期の神経細胞では、細胞内cAMP濃度が高いが、生後まもなく、神経細胞内のcAMP濃度が劇的に減少する。ミエリン存在下で培養した神経細胞に、細胞膜透過性のcAMPアナログである[[wikipedia::Dibutyryl cyclic AMP|dibutyryl cyclic AMP]] (db-cAMP)を処置すると、神経軸索の伸長が促される。cAMPの分解酵素[[phosphodiesterase]]の阻害剤である[[rolipram]]の投与により、cAMPの濃度上昇を誘導すると、脊髄損傷後のセロトニン作動性神経線維の再生が促され、運動機能が回復する <ref><pubmed> 15173585 </pubmed></ref>。この分子機構として、cAMP濃度上昇に伴う、[[wikipedia:JA:転写因子|転写因子]][[cAMP response element binding protein]] (CREB)のリン酸化の亢進と、これに続く[[ポリアミン合成酵素]][[Arginase I]] (Arg I)の発現上昇が重要であると考えられている。
 中枢神経軸索の再生能が低下する内的要因として、細胞内[[cAMP]]濃度の減少が考えられている。胎生期の神経細胞では、細胞内cAMP濃度が高いが、生後まもなく、神経細胞内のcAMP濃度が劇的に減少する。ミエリン存在下で培養した神経細胞に、細胞膜透過性のcAMPアナログである[[wikipedia::Dibutyryl cyclic AMP|dibutyryl cyclic AMP]] (db-cAMP)を処置すると、神経軸索の伸長が促される。cAMPの分解酵素[[phosphodiesterase]](PDE)の阻害剤である[[rolipram]]の投与により、cAMPの濃度上昇を誘導すると、脊髄損傷後のセロトニン作動性神経線維の再生が促され、運動機能が回復する <ref><pubmed> 15173585 </pubmed></ref>。この分子機構として、cAMP濃度上昇に伴う、[[wikipedia:JA:転写因子|転写因子]][[cAMP response element binding protein]] (CREB)のリン酸化の亢進と、これに続く[[ポリアミン合成酵素]][[Arginase I]] (Arg I)の発現上昇が重要であると考えられている。


 神経栄養因子の投与によっても、細胞内cAMPの濃度が上昇する。神経栄養因子はcAMPの合成は誘導せず、分解を抑制する。神経栄養因子が[[Trk受容体]]に結合すると、細胞内で[[extracellular signal-regulated kinase]] (Erk)の活性化が起こり、phosphodiesteraseが阻害される。この結果、cAMPの分解が抑制されて、細胞内cAMP濃度が上昇する。Erk活性化によるPDE活性阻害とdb-cAMPは相乗的にcAMPの濃度を上昇させる。  
 神経栄養因子の投与によっても、細胞内cAMPの濃度が上昇する。神経栄養因子はcAMPの合成は誘導せず、分解を抑制する。神経栄養因子が[[Trk受容体]]に結合すると、細胞内で[[extracellular signal-regulated kinase]] (Erk)の活性化が起こり、phosphodiesteraseが阻害される。この結果、cAMPの分解が抑制されて、細胞内cAMP濃度が上昇する。Erk活性化によるPDE活性阻害とdb-cAMPは相乗的にcAMPの濃度を上昇させる。


=== 軸索再生の再評価  ===
=== 軸索再生の再評価  ===