「軸索輸送」の版間の差分

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 [[神経細胞]]の[[軸索]]は時に1mにも及ぶ細長い突起であるが、この軸索内ではタンパク質の合成がほとんど行われない。従って、軸索内及び[[シナプス]]領域で必要なほとんどのタンパク質は[[細胞体]]で合成された後、軸索の中を輸送される必要がある。この軸索内での物質輸送を軸索輸送と呼ぶ。軸索輸送では、[[モータータンパク質]]([[キネシン]]、[[ダイニン]])によって様々な[[膜小器官]]やタンパク質複合体が[[微小管]]に沿って両方向性に運ばれており、神経細胞の生存、形態形成および機能発現にとって基本的でかつ重要な役割を果たしている。軸索では、微小管の方向がそろっており、+(プラス)端が軸索末端に、-(マイナス)端が細胞体に向いている。順向性輸送は微小管の+端方向への輸送で、主にN-KIFs(N末にモーター領域を持つKIFs)によって行われる。一方、逆向性輸送は微小管の-端方向への輸送で、主に細胞質ダイニンによって行われる。軸索輸送には、大別して速い軸索輸送(50~400mm/day)と遅い軸索輸送(<8mm/day)がある。膜小器官は速い軸索輸送によって運ばれるのに対し、[[細胞骨格]]蛋白質は遅い軸索輸送によって運ばれる<ref><pubmed>19773780</pubmed></ref> <ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>。この速度の差は、細胞骨格蛋白などが輸送の途中でモータータンパク質より解離し、細胞骨格に組み込まれ、一定時間後に細胞骨格の脱重合により再びモータータンパク質と結合し、輸送されることを繰り返す事に由来する。
 [[神経細胞]]の[[軸索]]は時に1mにも及ぶ細長い突起であるが、この軸索内ではタンパク質の合成がほとんど行われない。従って、軸索内及び[[シナプス]]領域で必要なほとんどのタンパク質は[[細胞体]]で合成された後、軸索の中を輸送される必要がある。この軸索内での物質輸送を軸索輸送と呼ぶ。軸索輸送では、[[モータータンパク質]]([[キネシン]]、[[ダイニン]])によって様々な[[膜小器官]]やタンパク質複合体が[[微小管]]に沿って両方向性に運ばれており、神経細胞の生存、形態形成および機能発現にとって基本的でかつ重要な役割を果たしている。軸索では、微小管の方向がそろっており、+(プラス)端が軸索末端に、-(マイナス)端が細胞体に向いている。順向性輸送は微小管の+端方向への輸送で、主にN-KIFs(N末にモーター領域を持つKIFs)によって行われる。一方、逆向性輸送は微小管の-端方向への輸送で、主に細胞質ダイニンによって行われる。軸索輸送には、大別して速い軸索輸送(50~400mm/day)と遅い軸索輸送(<8mm/day)がある。膜小器官は速い軸索輸送によって運ばれるのに対し、[[細胞骨格]]タンパク質は遅い軸索輸送によって運ばれる<ref><pubmed>19773780</pubmed></ref> <ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>。この速度の差は、細胞骨格タンパクなどが輸送の途中でモータータンパク質より解離し、細胞骨格に組み込まれ、一定時間後に細胞骨格の脱重合により再びモータータンパク質と結合し、輸送されることを繰り返す事に由来する。
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== 速い軸索輸送  ==
== 速い軸索輸送  ==


 速い軸索輸送では、[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]やシナプス小胞前駆体など、種々の膜小器官が運ばれている(図1)(表1)<ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>。これらは、順行性、逆行性ともに、微小管に沿って輸送が行われている。順向性輸送は微小管の+端方向への輸送で、細胞体から軸索末端に向かって、主にN-KIFsによって行われる。一方、逆向性輸送は微小管の-端方向への輸送で、軸索末端から細胞体に向かって、主に細胞質ダイニンによって行われる。KIFs及びそのカーゴ(荷物)については「[[キネシン]]」の項目を、細胞質ダイニンについては「[[ダイニン]]」の項目を参考にされたい。
 速い軸索輸送では、[[wikipedia:ja:ミトコンドリア|ミトコンドリア]]やシナプス小胞前駆体など、種々の膜小器官が運ばれている(図1)(表1)<ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>。これらは、順行性、逆行性ともに、微小管に沿って輸送が行われている。順向性輸送は微小管の+端方向への輸送で、細胞体から軸索末端に向かって、主にN-KIFsによって行われる。一方、逆向性輸送は微小管の-端方向への輸送で、軸索末端から細胞体に向かって、主に細胞質ダイニンによって行われる。KIFs及びそのカーゴ(荷物)については「[[キネシン]]」の項目を、細胞質ダイニンについては「[[ダイニン]]」の項目を参考にされたい。


[[Image:軸索輸送ー図1.jpg|thumb|300px|<b>図1 神経細胞における細胞内物質輸送</b><br />(Hirokawa et al.<ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>より改変)]]  
[[Image:軸索輸送ー図1.jpg|thumb|300px|<b>図1 神経細胞における細胞内物質輸送</b><br />(Hirokawa et al.<ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>より改変)]]  


'''表1 神経細胞におけるモータータンパク質とカーゴ '''(Hirokawa et al.<ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>より改変)  
'''表1 神経細胞におけるモータータンパク質とカーゴ '''(Hirokawa et al.<ref name="ref2"><pubmed>21092854</pubmed></ref>より改変)  


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| 小胞
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| [[熱ショック蛋白質|Hsc70]]  
| [[熱ショックタンパク質|Hsc70]]  
| 遅い輸送小胞
| 遅い輸送小胞
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== 遅い軸索輸送  ==
== 遅い軸索輸送  ==


 遅い軸索輸送では、[[チュブリン]]、[[アクチン]]や[[ニューロフィラメント]]蛋白質などの細胞骨格蛋白質が運ばれており、軸索の伸長、維持にとって極めて重要である。遅い輸送には、KIF5によるHsc70を介した輸送が報告されている<ref name="ref3"><pubmed>20111006</pubmed></ref>。KIF5は軽鎖(KLC)を介して膜小器官に結合し速い輸送も行うが、Hsc70が軽鎖に結合することによって細胞骨格蛋白などの細胞質蛋白と結合し、遅い輸送を行う<ref name="ref3"><pubmed>20111006</pubmed></ref>。
 遅い軸索輸送では、[[チュブリン]]、[[アクチン]]や[[ニューロフィラメント]]タンパク質などの細胞骨格タンパク質が運ばれており、軸索の伸長、維持にとって極めて重要である。遅い輸送には、KIF5によるHsc70を介した輸送が報告されている<ref name="ref3"><pubmed>20111006</pubmed></ref>。KIF5は軽鎖(KLC)を介して膜小器官に結合し速い輸送も行うが、Hsc70が軽鎖に結合することによって細胞骨格タンパクなどの細胞質タンパクと結合し、遅い輸送を行う<ref name="ref3"><pubmed>20111006</pubmed></ref>。


== 関連項目  ==
== 関連項目  ==