「軸索」の版間の差分

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''東京医科歯科大学''<br>
''東京医科歯科大学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年9月4日 原稿完成日:2014年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2014年9月4日 原稿完成日:2014年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/haruokasai 河西 春郎](東京大学 大学院医学系研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/2rikenbsi 林 康紀](京都大学大学院医学研究科 システム神経薬理学分野)<br>
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英:axon 独:Axon 仏:axone 羅:axon
羅:axon 英:axon 独:Axon 仏:axone  
{{box|text= 軸索とは、[[神経細胞]]の[[細胞体]]から伸びる突起を、形態的な特徴から2つに分類したうちの一つである (他方は[[樹状突起]])。樹状突起は、基部で太いが末梢に行くに連れて細くなる形態なのに対し、軸索は、基部で細いが、そのまま末梢まで全長でほぼ同じ太さを保つ。神経細胞につき通常1本存在し、その神経細胞から伸びる最も長い突起である事が多い。電気的興奮を伝えるという機能を持ち、他の神経細胞や[[効果器]]への情報の出力を担う事が多い。}}
{{box|text= 軸索とは、神経細胞の細胞体から伸びる突起を、形態的な特徴から2つに分類したうちの一つである (他方は樹状突起)。樹状突起は、基部で太いが末梢に行くに連れて細くなる形態なのに対し、軸索は、基部で細いが、そのまま末梢まで全長でほぼ同じ太さを保つ。神経細胞につき通常1本存在し、その神経細胞から伸びる最も長い突起である事が多い。電気的興奮を伝えるという機能を持ち、他の神経細胞や効果器への情報の出力を担う事が多い。}}
 
[[ファイル:軸索と樹状突起の形態的特徴R.png|500px|thumb|'''図. 軸索と樹状突起の形態的特徴'''<br>文献<ref>'''寺田純雄, 小林靖. (2009).'''<br>
「神経解剖学の見方、考え方」 樹状突起と軸索(1) ''クリニカルニューロサイエンス'', 27(5), 476-477. </ref>より]]
== 神経突起の分類 ==
== 神経突起の分類 ==
 神経細胞の形態上の特徴として、[[wikipedia:ja:核|核]]のある細胞体から、一本 - 多数の長い神経突起が伸びる事が挙げられる。これらの突起は、形態や性質の点から、大きく二つに分類され、それぞれ、樹状突起と軸索と呼ばれる ([[軸索#.E7.89.B9.E5.BE.B4|表]])。神経細胞は、方向性をもって電気的興奮をに伝えるという機能を持つが、樹状突起と軸索と言う形態上の分類は、この機能と密接に関わっていて、一般に、
 神経細胞の形態上の特徴として、[[核]]のある細胞体から、一本 - 多数の長い神経突起が伸びる事が挙げられる。これらの突起は、形態や性質の点から、大きく二つに分類され、それぞれ、樹状突起と軸索と呼ばれる ('''表1''')。神経細胞は、方向性をもって電気的興奮をに伝えるという機能を持つが、樹状突起と軸索と言う形態上の分類は、この機能と密接に関わっていて、一般に、
<ul>
<ul>
   <li>樹状突起: 入力の場<ref group="注">[[嗅球]]の[[僧帽細胞]]と[[顆粒細胞]]との間などで見られるような樹状突起 - 樹状突起間の[[シナプス]]では、樹状突起からの出力も見られる。</ref>。他の神経細胞、[[感覚器官]]などから情報を受け取る。<ref group="注">例えば、[[脊髓]][[後根神経節]]などの[[感覚神経節]]のニューロンでは、[[感覚器官]]からの情報は、樹状突起ではなく軸索を通して細胞体の方向へ伝えられる。</ref></li>
   <li>樹状突起: 入力の場<ref group="注">[[嗅球]]の[[僧帽細胞]]と[[顆粒細胞]]との間などで見られるような樹状突起 - 樹状突起間の[[シナプス]]では、樹状突起からの出力も見られる。</ref>。他の神経細胞、[[感覚器官]]などから情報を受け取る。<ref group="注">例えば、[[脊髓]][[後根神経節]]などの[[感覚神経節]]のニューロンでは、[[感覚器官]]からの情報は、樹状突起ではなく軸索を通して細胞体の方向へ伝えられる</ref></li>
   <li>軸索: 出力の場<ref group="注">脊髓[[後角]]の[[痛覚]]伝導路で見られるような軸索 - 軸索間のシナプスでは、軸索への入力もみられる。</ref>。他の神経細胞、[[wikipedia:ja:筋肉|筋肉]]、[[wikipedia:ja:腺|腺]]などの効果器へ情報を伝える。</li>
   <li>軸索: 出力の場<ref group="注">脊髓[[後角]]の[[痛覚]]伝導路で見られるような軸索 - 軸索間のシナプスでは、軸索への入力もみられる。</ref>。他の神経細胞、[[wj:筋肉|筋肉]]、[[wj:腺|腺]]などの効果器へ情報を伝える。</li>
</ul>
</ul>
<p>と考えられている。</p>
<p>と考えられている。</p>
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 軸索には樹状突起と比較して、 主に形態的な面から、以下の図表にまとめる様な特徴がある。
 軸索には樹状突起と比較して、 主に形態的な面から、以下の図表にまとめる様な特徴がある。


[[ファイル:軸索と樹状突起の形態的特徴R.png|フレーム|左|軸索と樹状突起の形態的特徴<ref>'''寺田純雄, 小林靖. (2009).''' <br>
「神経解剖学の見方、考え方」 樹状突起と軸索(1) ''クリニカルニューロサイエンス'', 27(5), 476-477. </ref>]]


<table class="wikitable">
<table class="wikitable">
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   </tr>
   </tr>
   <tr>
   <tr>
    <th>本数</th>
     <td>通常、1本<ref group="注">[[網膜]]の[[アマクリン細胞]]は軸索を持たず、樹状突起のみである。</ref></td>
     <td>通常、1本<ref group="注">[[網膜]]の[[アマクリン細胞]]は軸索を持たず、樹状突起のみである。</ref></td>
    <th>本数</th>
     <td>通常、複数<ref group="注">脊髓後根神経節などの感覚神経節のニューロンは、樹状突起を持たず、一本の軸索のみを持つ。</ref></td>
     <td>通常、複数<ref group="注">脊髓後根神経節などの感覚神経節のニューロンは、樹状突起を持たず、一本の軸索のみを持つ。</ref></td>
   </tr>
   </tr>
   <tr>
   <tr>
    <th>分枝</th>
     <td>比較的少数</td>
     <td>比較的少数</td>
    <th>分枝</th>
     <td>多数</td>
     <td>多数</td>
   </tr>
   </tr>
   <tr>
   <tr>
    <th>太さ</th>
     <td>基部では細く、他の樹状突起よりも細い事が多いが、そのまま全長で、ほぼ同じ太さを保つ。</td>
     <td>基部では細く、他の樹状突起よりも細い事が多いが、そのまま全長で、ほぼ同じ太さを保つ。</td>
    <th>太さ</th>
     <td>基部で太く、先に行くに連れて細くなる。</td>
     <td>基部で太く、先に行くに連れて細くなる。</td>
   </tr>
   </tr>
   <tr>
   <tr>
      <th>長さ</th>
       <td>しばしば、同じ神経細胞から伸びる最も長い突起である。[[末梢神経]]では、1 mに達する物もある。</td>
       <td>しばしば、同じ神経細胞から伸びる最も長い突起である。[[末梢神経]]では、1 mに達する物もある。</td>
      <th>長さ</th>
       <td>細胞体から、数百µm程度の範囲に広がる。</td>
       <td>細胞体から、数百µm程度の範囲に広がる。</td>
     </tr>
     </tr>
     <tr>
     <tr>
      <th>基部の構造</th>
       <td>細胞体から、或いは樹状突起の途中から伸び出す。[[軸索起始部]] ([[軸索起始円錐]]、[[軸索初節]])と呼ばれる特別な構造をとる。</td>
       <td>細胞体から、或いは樹状突起の途中から伸び出す。[[軸索起始部]] ([[軸索起始円錐]]、[[軸索初節]])と呼ばれる特別な構造をとる。</td>
      <th>基部の構造</th>
       <td>細胞体から伸び出す。細胞体と類似·連続した構造をとる。</td>
       <td>細胞体から伸び出す。細胞体と類似·連続した構造をとる。</td>
     </tr>
     </tr>
     <tr>
     <tr>
      <th>輪郭
       <td>比較的平滑</td>
       <td>比較的平滑</td>
      <th>輪郭
       <td>[[樹状突起棘]] ([[スパイン]])などの付加構造物の存在の為、複雑な物が多い。</td>
       <td>[[樹状突起棘]] ([[スパイン]])などの付加構造物の存在の為、複雑な物が多い。</td>
     </tr>
     </tr>
     <tr>
     <tr>
      <th>[[wj:リボソーム|リボソーム]]や[[wj:粗面小胞体|粗面小胞体]] (タンパク質合成)の存在</th>
       <td>成熟した軸索では、無し。(傷害を受けて再生中の場合などの例外を除く。)</td>
       <td>成熟した軸索では、無し。(傷害を受けて再生中の場合などの例外を除く。)</td>
      <th>[[wj:リボソーム|リボソーム]]や[[wj:粗面小胞体|粗面小胞体]] (タンパク質合成)の存在</th>
       <td>有り。</td>
       <td>有り。</td>
     </tr>
     </tr>
     <tr>
     <tr>
      <th>細胞骨格要素</th>
       <td>主に[[ニューロフィラメント]]と[[微小管]]から成る。[[細胞膜]]直下や[[成長円錐]]の近傍に少数の[[アクチン]]が見られる。微小管は、近位側を-端(脱重合端)、遠位側を+端(重合端)とする極性を持つ。</td>
       <td>主に[[ニューロフィラメント]]と[[微小管]]から成る。[[細胞膜]]直下や[[成長円錐]]の近傍に少数の[[アクチン]]が見られる。微小管は、近位側を-端(脱重合端)、遠位側を+端(重合端)とする極性を持つ。</td>
      <th>細胞骨格要素</th>
       <td>主に微小管から成る。細胞膜直下や成長円錐の近傍に少数のアクチンが見られる。微小管は、樹状突起の近位部では、様々な極性を持ったものが混在しているが、樹状突起の遠位部では、遠位側を+端とする極性を持つ。</td>
       <td>主に微小管から成る。細胞膜直下や成長円錐の近傍に少数のアクチンが見られる。微小管は、樹状突起の近位部では、様々な極性を持ったものが混在しているが、樹状突起の遠位部では、遠位側を+端とする極性を持つ。</td>
     </tr>
     </tr>
     <tr>
     <tr>
      <th>髓鞘の存在</th>
       <td>持つ物([[有髄線維|有髓軸索]])と、持たない物([[無髓軸索]])とが有る。</td>
       <td>持つ物([[有髄線維|有髓軸索]])と、持たない物([[無髓軸索]])とが有る。</td>
      <th>髓鞘の存在</th>
       <td>無し</td>
       <td>無し</td>
     </tr>
     </tr>
     <tr>
     <tr>
      <th>膜電位変化の強度</th>
       <td>一度発生した電位は、殆ど減衰せずに伝導する。</td>
       <td>一度発生した電位は、殆ど減衰せずに伝導する。</td>
      <th>膜電位変化の強度</th>
       <td>部位によって強度が変化する。複数の入力を統合すると考えられる。</td>
       <td>部位によって強度が変化する。複数の入力を統合すると考えられる。</td>
     </tr>
     </tr>
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==軸索輸送==
==軸索輸送==
 軸索内には、リボソームが見られず、タンパク質の合成が殆ど行われない。従って、軸索や、その先端のシナプスで必要なタンパク質の殆どは、細胞体で合成されて、軸索内を運ばれる必要がある。神経細胞では、この[[軸索輸送]]の系が非常に発達している。(古くは、軸索流という用語も用いられたが、[[wikipedia:ja:原形質流動|原形質流動]] (アクチン系の[[モータータンパク質]]が関与する。)とは機構が異なり、流体の流れによるものではなく、特定の物質の特定の方向、速さでの輸送なので、"軸索輸送"という用語の方が適当であろう。)
 軸索内には、リボソームが見られず、タンパク質の合成が殆ど行われない。従って、軸索や、その先端のシナプスで必要なタンパク質の殆どは、細胞体で合成されて、軸索内を運ばれる必要がある。神経細胞では、この[[軸索輸送]]の系が非常に発達している。(古くは、軸索流という用語も用いられたが、[[wj:原形質流動|原形質流動]] (アクチン系の[[モータータンパク質]]が関与する。)とは機構が異なり、流体の流れによるものではなく、特定の物質の特定の方向、速さでの輸送なので、"軸索輸送"という用語の方が適当であろう。)


 軸索輸送は、種々の膜小器官やタンパク質複合体が双方向性に運ばれる"速い軸索輸送" (50 - 400 mm/day)と、細胞質中の可溶性のタンパク質や[[細胞骨格]]タンパク質などが運ばれる"遅い軸索輸送" (&lt;8 mm/day)とに大別される。速い軸索輸送の分子機構の研究は進んでおり、微小管を線路として働く[[キネシン]]、[[ダイニン]]などのモータータンパク質の機能が明らかにされている。前者は主として軸索末端へ向かう順行性輸送に、後者は細胞体へ向かう逆行性輸送に関与する。輸送の方向はモータータンパク質の性質と、軸索内における微小管の極性の均一性に依存している。
 軸索輸送は、種々の膜小器官やタンパク質複合体が双方向性に運ばれる"速い軸索輸送" (50 - 400 mm/day)と、細胞質中の可溶性のタンパク質や[[細胞骨格]]タンパク質などが運ばれる"遅い軸索輸送" (&lt;8 mm/day)とに大別される。速い軸索輸送の分子機構の研究は進んでおり、微小管を線路として働く[[キネシン]]、[[ダイニン]]などのモータータンパク質の機能が明らかにされている。前者は主として軸索末端へ向かう順行性輸送に、後者は細胞体へ向かう逆行性輸送に関与する。輸送の方向はモータータンパク質の性質と、軸索内における微小管の極性の均一性に依存している。