「軽度認知障害」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/bakakyoudai 松村 晃寛]、[http://researchmap.jp/phoca 川又 純]、[http://researchmap.jp/read0012356 下濱 俊]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/bakakyoudai 松村 晃寛]、[http://researchmap.jp/phoca 川又 純]、[http://researchmap.jp/read0012356 下濱 俊]</font><br>
''札幌医科大学 医学部 神経内科学講座''<br>
''札幌医科大学 医学部 神経内科学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月5日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年2月5日 原稿完成日:2016年2月26日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>
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 MCIを鑑別する簡易スクリーニング検査のうち、国際的にも認知されているのが[[Montreal Cognitive Assessment]]([[MoCA]])<ref><pubmed> 15817019 </pubmed></ref>である。近年、その日本語版であるMoCA-J<ref><pubmed> 20141536 </pubmed></ref>も作成されている。これは[[trail making test B]]簡略版、立方体の図形模写、時計描画、命名課題、数字の順唱と逆唱、target detection課題(ひらがなのリストを読み上げ「あ」の時に手を叩くよう求める)、計算、復唱課題、語[[想起]]課題、類似課題、5単語遅延再生課題、見当識の12課題からなり最高点は30点満点で26点以上を正常、25点以下をMCIの疑いとする。
 MCIを鑑別する簡易スクリーニング検査のうち、国際的にも認知されているのが[[Montreal Cognitive Assessment]]([[MoCA]])<ref><pubmed> 15817019 </pubmed></ref>である。近年、その日本語版であるMoCA-J<ref><pubmed> 20141536 </pubmed></ref>も作成されている。これは[[trail making test B]]簡略版、立方体の図形模写、時計描画、命名課題、数字の順唱と逆唱、target detection課題(ひらがなのリストを読み上げ「あ」の時に手を叩くよう求める)、計算、復唱課題、語[[想起]]課題、類似課題、5単語遅延再生課題、見当識の12課題からなり最高点は30点満点で26点以上を正常、25点以下をMCIの疑いとする。


 画像検査としては[[MRI]]や[[脳血流SPECT]]などが挙げられるが所見が軽微のことが多く視察法では評価が難しいため画像統計解析の利用が必要になることが多い。[[voxel-based morphometry]](VBM)による画像解析では近年、[[海馬傍回]]前方の[[嗅内野皮質]]の萎縮が注目されている。保健適応外の臨床研究領域では、[[FDG-PET]]やバイオマーカーとして[[脳脊髄液]]中の[[Aβ42]]やリン酸化[[タウ]]の測定が注目されているが、まだ確立はしていない。
 画像検査としては[[MRI]]や[[脳血流SPECT]]などが挙げられるが所見が軽微のことが多く視察法では評価が難しいため画像統計解析の利用が必要になることが多い。[[voxel-based morphometry]](VBM)による画像解析では近年、[[海馬傍回]]前方の[[嗅内野]]皮質の萎縮が注目されている。保健適応外の臨床研究領域では、[[陽電子断層撮像法#脳機能計測|FDG-PET]]やバイオマーカーとして[[脳脊髄液]]中の[[Aβ42]]やリン酸化[[タウ]]の測定が注目されているが、まだ確立はしていない。


== 病態生理 ==
== 病態生理 ==
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 現状、MCIに対する認知症薬の保険適応は無い。上記の通りMCIにおいて認知機能低下は軽微で基本的な日常生活は保たれるため、将来的には認知症への進展(コンバート)の予防を目標とした治療法が検討される可能性はある。
 現状、MCIに対する認知症薬の保険適応は無い。上記の通りMCIにおいて認知機能低下は軽微で基本的な日常生活は保たれるため、将来的には認知症への進展(コンバート)の予防を目標とした治療法が検討される可能性はある。


 臨床研究レベルで、薬物治療として[[ドネペジル]]、[[ガランタミン]]、[[リバスチグミン]]などのアルツハイマー病治療薬([[コリンエステラーゼ]] [[cholinesterase]](ChE)[[阻害薬]])の有効性を検討した研究がいくつかあるが、MCIから認知症への転換を抑制する効果について明らかなエビデンスは無いのが現状である。しかし、[[APOE|ApoE]]遺伝子ε4多型保因者の検討において[[ドネペジル]]治療により36ヶ月後のAD発症率が有意に低下していたとする報告も存在する。レビー小体型認知症のMCIでは記憶障害や遂行機能障害は呈さずにリアルな[[幻視]]や[[REM睡眠]]行動障害等が出現することがあり、この場合はレビー小体型認知症としての[[抑肝散]]やドネペジル等による薬物療法が有効な場合があるとされる。
 臨床研究レベルで、薬物治療として[[ドネペジル]]、[[ガランタミン]]、[[リバスチグミン]]などのアルツハイマー病治療薬([[コリンエステラーゼ]] [[cholinesterase]](ChE)[[阻害薬]])の有効性を検討した研究がいくつかあるが、MCIから認知症への転換を抑制する効果について明らかなエビデンスは無いのが現状である。しかし、[[APOE|ApoE]]遺伝子ε4多型保因者の検討においてドネペジル治療により36ヶ月後のAD発症率が有意に低下していたとする報告も存在する。レビー小体型認知症のMCIでは記憶障害や遂行機能障害は呈さずにリアルな[[幻視]]や[[REM睡眠]]行動障害等が出現することがあり、この場合はレビー小体型認知症としての[[抑肝散]]やドネペジル等による薬物療法が有効な場合があるとされる。


 薬物以外のアプローチでは、認知症予防のライフスタイル、具体的には運動や食生活・[[睡眠]]の改善、血圧や血糖、脂質異常の改善、[[視覚]]・[[聴覚]]の維持などがMCIから認知症への進行を防ぐためには重要という考え方も存在する。
 薬物以外のアプローチでは、認知症予防のライフスタイル、具体的には運動や食生活・[[睡眠]]の改善、血圧や血糖、脂質異常の改善、[[視覚]]・[[聴覚]]の維持などがMCIから認知症への進行を防ぐためには重要という考え方も存在する。

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