「道具使用」の版間の差分

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(ページの作成:「英:tool use 独:Werkzeuggebrauch 仏: 自分の体以外の物を使って作業を行うこと.ヒト以外の多くの動物も道具を使うことが知ら...」)
 
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==道具使用に関連する神経機構==
==道具使用に関連する神経機構==
神経心理学では,脳損傷患者の行動パターンから,道具の使用には「概念システム」と「産生システム(運動スキル)」が関与すると指摘されていた.これは,道具を使う運動スキルには問題はないが,櫛で歯を磨く,歯ブラシで食べ物をつかむなど,道具の意味概念に障害が見られる患者(観念性失行)と,道具の意味概念には問題はないが,運動スキルに障害が見られる患者(観念運動失行)が存在することから,2つのシステムが異なる神経機構を対応することが推測される.それぞれに対応する神経機構を一概に特定することは難しいが,脳活動イメージングなどの結果も踏まえた,最近の展望論文によると,概念システムは頭頂下部から中側頭回の領域と下前頭回が関与し,産生システムは運動前野,補足運動野,頭頂間溝付近の領域が関与することを指摘している.
神経心理学では,脳損傷患者の行動パターンから,道具の使用には「概念システム」と「産生システム(運動スキル)」が関与すると指摘されている.これは,道具を使う運動スキルには問題はないが,櫛で歯を磨く,歯ブラシで食べ物をつかむなど,道具の意味概念に障害が見られる患者(観念性失行)と,道具の意味概念には問題はないが,運動スキルに障害が見られる患者(観念運動失行)が存在することから,2つのシステムが異なる神経機構に対応すると考えられる.それぞれに対応する神経機構を一概に特定することは難しいが,脳活動イメージングなどの結果も踏まえた,最近の展望論文によると,概念システムは頭頂下部から中側頭回の領域と下前頭回が関与し,産生システムは運動前野,補足運動野,頭頂間溝付近の領域が関与することを指摘している.


==道具使用の訓練による脳の変化==
==道具使用の訓練による脳の変化==
==頭頂葉における変化==
===頭頂葉における変化===
ニホンザルは自然環境で道具を使用しないが,長期間の訓練を行えば,熊手を使ってエサを引き寄せるなどの道具使用が可能になる.頭頂間溝付近には,手に触覚刺激を与えられたときにも,手の周辺に光が点灯するような視覚刺激が与えられたときにも応答するbimodalニューロンが存在する.サルに熊手を使ってエサを引き寄せる訓練を行うと,エサを引き寄せられる範囲まで,視覚刺激よってニューロンが応答する範囲(受容野)が広がる.我々は,道具が使えるようになると道具が手の延長になったように感じられる.Bimodalニューロンの変化は,このような身体象の変化を反映すると考えられる.同様の変化はモニタ上のカーソルを操作する場合にも見られる.また,道具使用の訓練が,頭頂における初期遺伝子発現や,頭頂・小脳などにおける皮質構造の変化も引き起こすことが確認され,一連の研究は,道具使用をモデルとして,動物からヒトへの知性の進化を知る上で重要な示唆を与えている.
ニホンザルは自然環境で道具を使用しないが,長期間の訓練を行えば,熊手を使ってエサを引き寄せるなどの道具使用が可能になる.頭頂間溝付近には,手に触覚刺激を与えられたときにも,手の周辺に光が点灯するような視覚刺激が与えられたときにも応答するbimodalニューロンが存在する.サルに熊手を使ってエサを引き寄せる訓練を行うと,エサを引き寄せられる範囲まで,視覚刺激よってニューロンが応答する範囲(受容野)が広がる.我々は,道具が使えるようになると道具が手の延長になったように感じられる.Bimodalニューロンの変化は,このような身体象の変化を反映すると考えられる.同様の変化はモニタ上のカーソルを操作する場合にも見られる.また,道具使用の訓練が,頭頂における初期遺伝子発現や,頭頂・小脳などにおける皮質構造の変化も引き起こすことが確認され,一連の研究は,道具使用をモデルとして,動物からヒトへの知性の進化を知る上で重要な示唆を与えている.


==小脳における変化==
===小脳における変化===
道具を速く正確に操作するためには,「道具に対してどのような操作をすれば,道具がどのような動きをするか」「道具にある動きをさせたいと思ったとき,それを実現するためには,どのような操作をする必要があるか」を予測する必要がある.ヒトがこのような道具の操作特性を学習しているときの小脳活動をfMRIで計測すると,ほとんどの部位で学習が進むにつれて,活動は減少するが,外側部の限局された場所(後上溝付近)では活動が上昇することが知られている.学習する道具の操作特性が異なれば,活動が上昇する位置や活動パターンも異なり,この活動は道具の操作特性(道具に対する操作と結果の関係)を模倣・シミュレーションする神経機構(内部モデル)に対応すると考えられる.上述のサルに道具使用を学習させる実験でも,学習後に後上溝付近の皮質構造が変化することが知られている.
道具を速く正確に操作するためには,「道具に対してどのような操作をすれば,道具がどのような動きをするか」「道具にある動きをさせたいと思ったとき,それを実現するためには,どのような操作をする必要があるか」を予測する必要がある.ヒトがこのような道具の操作特性を学習しているときの小脳活動をfMRIで計測すると,ほとんどの部位で学習が進むにつれて,活動は減少するが,外側部の限局された場所(後上溝付近)では活動が上昇することが知られている.学習する道具の操作特性が異なれば,活動が上昇する位置や活動パターンも異なり,この活動は道具の操作特性(道具に対する操作と結果の関係)を模倣・シミュレーションする神経機構(内部モデル)に対応すると考えられる.上述のサルに道具使用を学習させる実験でも,学習後に後上溝付近の皮質構造が変化することが知られている.


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