「銅・亜鉛-スーパーオキシドディスムターゼ」の版間の差分

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英略語:Cu/Zn-SOD, SOD1
英略語:Cu/Zn-SOD, SOD1


{{box|text= 銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼは、スーパーオキシドアニオンラジカルを酸素と過酸化水素に変換する抗酸化酵素の一つで、生体を酸化ストレスから守る役目を果たしている。SOD1をコードする遺伝子の変異は筋萎縮性側索硬化症 (ALS) を来たし、家族性ALSの20%に存在する。変異SOD1を高発現させたマウスはALS症状を示すが、SOD1を欠損させたマウスはALSとは異なる表現型を示す。}}
{{box|text= スーパーオキシドディスムターゼは、スーパーオキシドアニオンラジカルを酸素と過酸化水素に変換する抗酸化酵素であり、生体を酸化ストレスから守る役目を果たしている。その一つである、銅・亜鉛-スーパーオキシドディスムターゼ (SOD1)をコードする遺伝子の変異は筋萎縮性側索硬化症 (ALS) を来たし、家族性ALSの20%に存在する。変異SOD1を高発現させたマウスはALS症状を示すが、SOD1を欠損させたマウスはALSとは異なる表現型を示すことから、酵素活性ではなく、SOD1タンパク質自体のミスフォールディングや凝集化がALS発症に関与する可能性が考えられている。}}


== 発見の歴史 ==
== 発見の歴史 ==
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 その2歳と6歳の患者は進行性の運動失調を伴う[[精神運動遅滞]]、[[過剰驚愕症]]([[びっくり病]])、[[痙性麻痺]]、[[耳介]]低位などの症状がみられており、SOD1の機能喪失とALS病態の関わりを再考する症例となっている<ref name=Park2019><pubmed>31332433</pubmed></ref><ref name=Andersen2019><pubmed>31314961</pubmed></ref>。これらの症例の家族にALS症状は見られていないものの、SOD1の機能喪失によるのかC末端が欠失したSOD1タンパク質の影響なのかも議論の余地がある。
 その2歳と6歳の患者は進行性の運動失調を伴う[[精神運動遅滞]]、[[過剰驚愕症]]([[びっくり病]])、[[痙性麻痺]]、[[耳介]]低位などの症状がみられており、SOD1の機能喪失とALS病態の関わりを再考する症例となっている<ref name=Park2019><pubmed>31332433</pubmed></ref><ref name=Andersen2019><pubmed>31314961</pubmed></ref>。これらの症例の家族にALS症状は見られていないものの、SOD1の機能喪失によるのかC末端が欠失したSOD1タンパク質の影響なのかも議論の余地がある。


 SOD1ノックアウトマウスはALS症状を示さず一見正常に生育するものの雌の不妊が見つかり<ref name=Reaume1996><pubmed>8673102</pubmed></ref>、その後多くの異常が報告されるようになった。SOD1は赤血球に多く発現しているため、その欠損は[[溶血性貧血]]を引き起こし<ref name=Iuchi2007><pubmed>17059387</pubmed></ref>、腎臓や肝臓に鉄が蓄積すると考えられる<ref name=Yoshihara2012><pubmed>22435664</pubmed></ref><ref name=Yoshihara2016><pubmed>27629432</pubmed></ref>。また、普通食でも脂肪肝から肝硬変になり<ref name=Uchiyama2006><pubmed>16921198</pubmed></ref><ref name=Sakiyama2016><pubmed>26981929</pubmed></ref>、高齢になると肝腫瘍が発生する<ref name=Elchuri2005><pubmed>15531919</pubmed></ref>。さらに、[[難聴]]<ref name=McFadden1999><pubmed>10466888</pubmed></ref>、骨減少症<ref name=Nojiri2011><pubmed>22025246</pubmed></ref>、[[骨格筋]]の萎縮<ref name=Muller2006><pubmed>16716900</pubmed></ref>、[[皮膚萎縮症]]<ref name=Murakami2009><pubmed>19289104</pubmed></ref>、[[加齢黄斑変性]]<ref name=Imamura2006><pubmed>16844785</pubmed></ref>などの老化症状が見られている。[[アルツハイマー病]]モデルマウスと掛け合わせると認知機能がさらに低下することも報告されている<ref name=Murakami2011><pubmed>22072713</pubmed></ref>]。またSOD1ノックアウトマウスは行動異常を起こし、[[大脳]]では[[ドーパミントランスポーター]]の発現が上昇していることが観察されている<ref name=Yoshihara2016><pubmed>27629432</pubmed></ref>。
 SOD1ノックアウトマウスはALS症状を示さず一見正常に生育するものの雌の不妊が見つかり<ref name=Reaume1996><pubmed>8673102</pubmed></ref>、その後多くの異常が報告されるようになった。SOD1は赤血球に多く発現しているため、その欠損は[[溶血性貧血]]を引き起こし<ref name=Iuchi2007><pubmed>17059387</pubmed></ref>、腎臓や肝臓に鉄が蓄積すると考えられる<ref name=Yoshihara2012><pubmed>22435664</pubmed></ref><ref name=Yoshihara2009><pubmed> 19482077 </pubmed></ref><ref><pubmed>19296829 </pubmed></ref>。また、普通食でも脂肪肝から肝硬変になり<ref name=Uchiyama2006><pubmed>16921198</pubmed></ref><ref name=Sakiyama2016><pubmed>26981929</pubmed></ref>、高齢になると肝腫瘍が発生する<ref name=Elchuri2005><pubmed>15531919</pubmed></ref>。さらに、[[難聴]]<ref name=McFadden1999><pubmed>10466888</pubmed></ref>、骨減少症<ref name=Nojiri2011><pubmed>22025246</pubmed></ref>、[[骨格筋]]の萎縮<ref name=Muller2006><pubmed>16716900</pubmed></ref>、[[皮膚萎縮症]]<ref name=Murakami2009><pubmed>19289104</pubmed></ref>、[[加齢黄斑変性]]<ref name=Imamura2006><pubmed>16844785</pubmed></ref>などの老化症状が見られている。[[アルツハイマー病]]モデルマウスと掛け合わせると認知機能がさらに低下することも報告されている<ref name=Murakami2011><pubmed>22072713</pubmed></ref>]。またSOD1ノックアウトマウスは行動異常を起こし、[[大脳]]では[[ドーパミントランスポーター]]の発現が上昇していることが観察されている<ref name=Yoshihara2016><pubmed> 27629432 </pubmed></ref>。


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==