「錐体外路症状」の版間の差分

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<font size="+1">松本 英之、[http://researchmap.jp/read0056928 宇川 義一]</font><br>
''福島県立医科大学 医学部 医学科''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年6月5日 原稿完成日:2014年2月20日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
</div>
英:extrapyramidal symptom, extrapyramidal sign 独:extrapyramidale Erscheinungen 仏:symptômes extrapyramidaux
英:extrapyramidal symptom, extrapyramidal sign 独:extrapyramidale Erscheinungen 仏:symptômes extrapyramidaux


同義語:なし  
同義語:なし  


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 錐体外路症状とは、[[錐体外路]]の障害により出現する症状である。広義には錐体外路は、[[錐体路]]以外のすべての[[中枢神経系]]の経路を指すが、錐体外路症状という場合には、[[大脳基底核]]を中心とする[[大脳皮質]]との神経回路([[大脳皮質―大脳基底核ループ]])のことを錐体外路と考えてよい。つまり、錐体外路症状とは、大脳皮質―大脳基底核ループの障害に由来する症状である。錐体外路症状を呈する代表的疾患は、[[パーキンソン病]]である。  
 錐体外路症状とは、[[錐体外路]]の障害により出現する症状である。広義には錐体外路は、[[錐体路]]以外のすべての[[中枢神経系]]の経路を指すが、錐体外路症状という場合には、[[大脳基底核]]を中心とする[[大脳皮質]]との神経回路([[大脳皮質―大脳基底核ループ]])のことを錐体外路と考えてよい。つまり、錐体外路症状とは、大脳皮質―大脳基底核ループの障害に由来する症状である。錐体外路症状を呈する代表的疾患は、[[パーキンソン病]]である。  
 
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== 錐体外路症状  ==
== 錐体外路症状  ==


 錐体外路症状というと運動症状を指す場合が多い。錐体外路症状には多くの種類の運動症状があるが、これらは運動過少と運動過多の2種類に大別される。運動過少を呈する症状は、[[固縮]]、[[無動]]などであり、パーキンソン病や、パーキンソン病に類似した症状を呈する[[パーキンソン症候群]]でしばしばみられる症状である。運動過多を呈する症状は、[[振戦]]、[[舞踏運動]]、[[片側バリズム]]、[[アテトーゼ]]、[[ジストニア]]などであり、しばしば[[不随意運動]]として扱われる。ここで、振戦、固縮、無動はパーキンソン病の三大徴候であるため、これらの症状を2つ以上有する場合には、これらの症状を総称して[[パーキンソニズム]]と呼ぶ。これらの錐体外路症状は、1990年にAlexanderとCrutcherにより提唱された大脳皮質―大脳基底核ループのモデルにより、概念的に説明可能なものが多く、このモデルは現在も広く用いられている<ref><pubmed> 1695401 </pubmed></ref>。錐体外路症状と言うと、主に体性運動系の障害を指すが、厳密にはその他の運動系や非運動系にも錐体外路症状は現れうる<ref><pubmed> 10893428 </pubmed></ref>。例えば、パーキンソン病における動作緩慢は[[眼球運動]]系にも認められ、それは大脳皮質―大脳基底核ループの障害による事が判明している<ref><pubmed> 21449014 </pubmed> </ref><ref>'''Hideyuki Matsumoto, Yasuo Terao, Toshiaki Furubayashi, Akihiro Yugeta, Hideki Fukuda, Masaki Emoto, Ritsuko Hanajima, Yoshikazu Ugawa'''<br>Basal ganglia dysfunction reduces saccade amplitude during visual scanning in Parkinson’s disease.<br>''Basal Ganglia'': 2012, 2(2); 73-8</ref>。この他の[[非運動症状]]が近年パーキンソン病では注目されていて<ref><pubmed> 22021174 </pubmed></ref>、これらも厳密には錐体外路症状であるが、一般的には以下に示す運動に関連する症状を錐体外路症状としている<ref>'''水澤英洋, 宇川義一'''<br>''神経診察: 実際とその意義 Neurological Examination A to Z.'', 2011</ref> <ref>'''松本英之, 宇川義一'''<br>不随意運動.<br>''Medicina'' 2012, 49(4); 618-21.</ref> <ref>'''松本英之, 宇川義一'''<br>ミオクローヌス/アテトーゼ, 片側バリズム, コレア.<br>''神経疾患最新の治療2012-2014'', 2012</ref> <ref>'''松本英之'''<br>アテトーゼ,ジストニー,片側バリズム.<br>''今日の治療指針2012'', 2012</ref>。
 錐体外路症状というと運動症状を指す場合が多い。錐体外路症状には多くの種類の運動症状があるが、これらは運動過少と運動過多の2種類に大別される。運動過少を呈する症状は、[[固縮]]、[[無動]]などであり、[[パーキンソン病]]や、[[パーキンソン病]]に類似した症状を呈する[[パーキンソン症候群]]でしばしばみられる症状である。運動過多を呈する症状は、[[振戦]]、[[舞踏運動]]、[[片側バリズム]]、[[アテトーゼ]]、[[ジストニア]]などであり、しばしば[[不随意運動]]として扱われる。ここで、振戦、固縮、無動は[[パーキンソン病]]の三大徴候であるため、これらの症状を2つ以上有する場合には、これらの症状を総称して[[パーキンソニズム]]と呼ぶ。これらの錐体外路症状は、1990年にAlexanderとCrutcherにより提唱された大脳皮質―大脳基底核ループのモデルにより、概念的に説明可能なものが多く、このモデルは現在も広く用いられている<ref><pubmed> 1695401 </pubmed></ref>。錐体外路症状と言うと、主に体性運動系の障害を指すが、厳密にはその他の運動系や非運動系にも錐体外路症状は現れうる<ref><pubmed> 10893428 </pubmed></ref>。例えば、パーキンソン病における動作緩慢は[[眼球運動]]系にも認められ、それは大脳皮質―大脳基底核ループの障害による事が判明している<ref><pubmed>21449014</pubmed></ref><ref>'''Hideyuki Matsumoto, Yasuo Terao, Toshiaki Furubayashi, Akihiro Yugeta, Hideki Fukuda, Masaki Emoto, Ritsuko Hanajima, Yoshikazu Ugawa'''<br>Basal ganglia dysfunction reduces saccade amplitude during visual scanning in Parkinson’s disease.<br>''Basal Ganglia'': 2012, 2(2); 73-8</ref>。この他の[[非運動症状]]が近年パーキンソン病では注目されていて<ref><pubmed> 22021174 </pubmed></ref>、これらも厳密には錐体外路症状であるが、一般的には以下に示す運動に関連する症状を錐体外路症状としている<ref>'''水澤英洋, 宇川義一'''<br>''神経診察: 実際とその意義 Neurological Examination A to Z.'', 2011</ref> <ref>'''松本英之, 宇川義一'''<br>不随意運動.<br>''Medicina'' 2012, 49(4); 618-21.</ref> <ref>'''松本英之, 宇川義一'''<br>ミオクローヌス/アテトーゼ, 片側バリズム, コレア.<br>''神経疾患最新の治療2012-2014'', 2012</ref> <ref>'''松本英之'''<br>アテトーゼ,ジストニー,片側バリズム.<br>''今日の治療指針2012'', 2012</ref>。


== 錐体外路症状の種類  ==
== 錐体外路症状の種類  ==
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 持続的な筋収縮により異常姿勢や運動の障害を来たす病態である。小児例では[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]変異を伴う全身性ジストニアが多いが、成人例では局所性ジストニアの場合が多い。局所ジストニアは頻度が高く、[[眼瞼痙攣]]、[[痙性斜頸]]、[[書痙]]などがある。ジストニアの特徴として、主動筋と[[拮抗筋]]が同時に収縮すること(共収縮)、姿勢異常や運動障害が一定のパターンをとること(常同性)、特定の感覚入力によって症状が改善すること(感覚トリック)、ある特定の動作のみが障害されること(動作特異性)、起床時に症状が軽いこと(早朝効果)などがある。
 持続的な筋収縮により異常姿勢や運動の障害を来たす病態である。小児例では[[wikipedia:ja:遺伝子|遺伝子]]変異を伴う全身性ジストニアが多いが、成人例では局所性ジストニアの場合が多い。局所ジストニアは頻度が高く、[[眼瞼痙攣]]、[[痙性斜頸]]、[[書痙]]などがある。ジストニアの特徴として、主動筋と[[拮抗筋]]が同時に収縮すること(共収縮)、姿勢異常や運動障害が一定のパターンをとること(常同性)、特定の感覚入力によって症状が改善すること(感覚トリック)、ある特定の動作のみが障害されること(動作特異性)、起床時に症状が軽いこと(早朝効果)などがある。
==関連項目==
*[[ジストニア]]


== 参考文献  ==
== 参考文献  ==


<references />  
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<br> (執筆者:松本英之、宇川義一 担当編集委員:高橋良輔)

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