「閉じ込め症候群」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0049333 中野 今治]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0049333 中野 今治]</font><br>
''自治医科大学 医学部 神経内科''<br>
''自治医科大学 医学部 神経内科''<br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kyosukekamada 鎌田 恭輔 ]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/kyosukekamada *鎌田 恭輔 ]</font><br>
''旭川医科大学[[脳神経]]外科 ''<br>
''旭川医科大学脳神経外科 ''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月18日 原稿完成日:2014年2月20日 改訂日:2015年6月4日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2013年3月18日 原稿完成日:2014年2月20日 改訂日:2015年6月4日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446/ 漆谷 真](滋賀医科大学 医学部 脳神経内科)<br>*:責任著者
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英語名:locked-in syndrome 独:Eingeschlossensein-Syndrom 仏:syndrome d'enfermement
英語名:locked-in syndrome 独:Eingeschlossensein-Syndrom 仏:syndrome d'enfermement


同義語:施錠症候群、かぎしめ症候群、ロックトインシンドローム、偽(性)昏睡 (pseudocoma)、de-efferented state、橋腹側症候群 (ventral pontine syndrome)、モンテ・クリスト症候群 (Monte Cristo syndrome)
同義語:施錠症候群、かぎしめ症候群、ロックドインシンドローム、偽(性)昏睡 (pseudocoma)、de-efferented state、橋腹側症候群 (ventral pontine syndrome)、モンテ・クリスト症候群 (Monte Cristo syndrome)


{{box|text= 脳底動脈閉塞による脳梗塞などで、主に脳幹の橋腹側部が広範囲に障害されることによっておこる。眼球運動とまばたき以外のすべての随意運動が障害されるが、感覚は正常で意識は清明である。}}
{{box|text= 脳底動脈閉塞による脳梗塞などで、主に脳幹の橋腹側部が広範囲に障害されることによっておこる。眼球運動とまばたき以外のすべての随意運動が障害されるが、感覚は正常で意識は清明である。単に意思表示の方法が欠如した状態であり、ほとんど完全に「鍵をかけられた状態」であることからこの命名がされている。}}


== 閉じ込め症候群とは ==
== 閉じ込め症候群とは ==
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 橋腹側部が広範囲に障害されることによって生じる。[[脳底動脈]]閉塞による橋の[[脳梗塞]]が原因であることが圧倒的に多いが、稀に[[脳幹]]部[[腫瘍]]、[[膿瘍]]、[[脳炎]]、外傷によってもおこる。
 橋腹側部が広範囲に障害されることによって生じる。[[脳底動脈]]閉塞による橋の[[脳梗塞]]が原因であることが圧倒的に多いが、稀に[[脳幹]]部[[腫瘍]]、[[膿瘍]]、[[脳炎]]、外傷によってもおこる。


 橋腹側には[[大脳皮質]]の[[一次運動野|運動野]]から始まる遠心性線維の束である[[錘体路]]が走行する(図)。この錘体路は[[随意運動]]を支配する神経の主要経路である。[[脳神経]]では[[三叉神経]](Ⅴ)、[[外転神経]](Ⅵ)、[[顔面神経]](Ⅶ)、[[聴神経]](Ⅷ)が存在する。そのため橋腹側部の障害により、[[四肢麻痺]](両側[[錘体路障害]])、[[無言]](両側下位[[皮質球路障害]])が生じる。[[動眼神経]](Ⅲ)、[[滑車神経]](Ⅳ)は中脳にあるため障害されず、このため眼球の上下運動(水平運動はできない)とまばたき(上眼瞼の運動)のみ可能である。
 橋腹側には[[大脳皮質]]の[[一次運動野|運動野]]から始まる遠心性線維の束である[[錘体路]]が走行する(図)。この錘体路は[[随意運動]]を支配する神経の主要経路である。[[脳神経]]では[[三叉神経]](Ⅴ)、[[外転神経]](Ⅵ)、[[顔面神経]](Ⅶ)、[[聴神経]](Ⅷ)が存在する。そのため橋腹側部の障害により、[[四肢麻痺]](両側[[錘体路障害]])、[[無言]](両側下位[[皮質球路障害]])が生じる。
 
 背側には感覚などを上向性に伝える求心性線維の束である[[脊髄視床路]]が走行する。また、背側の[[脳幹網様体]]には、[[上行性網様体賦活系]]という意識の覚醒に重要な関与をしているシステムが存在する。橋腹側部に病変が限局すると、背側部の脳幹網様体と求心性線維は保たれるため感覚は正常、意識は清明である。


 背側には感覚などを上向性に伝える求心性線維の束である[[脊髄視床路]]が走行する。また、背側の[[脳幹網様体]]には、[[上行性網様体賦活系]]という意識の覚醒に重要な関与をしているシステムが存在する。橋腹側部に病変が限局すると、背側部の脳幹網様体と求心性線維は保たれるため感覚は正常、意識は清明である。したがって、自己と外界との意思疎通は、まばたきまたは眼球運動をもってのみ可能である。
 [[動眼神経]](Ⅲ)、[[滑車神経]](Ⅳ)は中脳にあるため障害されず、このため眼球の上下運動(水平運動はできない)とまばたき(上眼瞼の運動)のみ可能である。したがって、自己と外界との意思疎通は、まばたきまたは眼球運動をもってのみ可能である。


== 経過と予後 ==
== 経過と予後 ==
 意識は清明で、単に意思表示の方法が欠如した状態である。このため、ほとんど完全に「鍵をかけられた状態」であることからこの命名がされている。最初の頃は、ほとんど死亡すると考えられていたが、1ないし12週後に、ある程度の神経症状の回復をみる例もあり、早期の積極的治療の必要性が強調されている。中には、27年間生存した例も報告されている。本症例に対する栄養補給中止の声明が、1993年American Academy of Neurologyから出されている<ref><pubmed> 8423893</pubmed></ref>。
 最初の頃は、ほとんど死亡すると考えられていたが、1ないし12週後に、ある程度の神経症状の回復をみる例もあり、早期の積極的治療の必要性が強調されている。中には、27年間生存した例も報告されている。本症例に対する栄養補給中止の声明が、1993年American Academy of Neurologyから出されている<ref><pubmed> 8423893</pubmed></ref>。


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<references />
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