閉じ込め症候群

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中野 今治
自治医科大学 医学部 神経内科
DOI:10.14931/bsd.3512 原稿受付日:2013年3月18日 原稿完成日:2014年2月20日
担当編集委員:漆谷 真(京都大学 大学院医学研究科)

英語名:locked-in syndrome 独:Eingeschlossensein-Syndrom 仏:syndrome d'enfermement

同義語:施錠症候群、かぎしめ症候群、ロックトインシンドローム、偽(性)昏睡 (pseudocoma)、de-efferented state、橋腹側症候群 (ventral pontine syndrome)、モンテ・クリスト症候群 (Monte Cristo syndrome)

 脳底動脈閉塞による脳梗塞などで、主に脳幹の橋腹側部が広範囲に障害されることによっておこる。眼球運動とまばたき以外のすべての随意運動が障害されるが、感覚は正常で意識は清明である。

閉じ込め症候群とは

 閉じ込め症候群は、Plum and Posner[1]が提唱した名称で、意識が保たれ開眼していて外界を認識できるが、完全四肢麻痺球麻痺のため、手足の動きや発話での意思表出能が失われた状態を指す。患者は寝たきりで四肢は全く動かせず、緘黙状態を呈する。多くは橋底部の両側性の梗塞で生じるが、その他に、中脳腹側の両側性梗塞、橋の腫瘍、橋出血も原因となる。この場合、随意運動として残るのは垂直眼球運動瞬目のみである。

 脳幹上行性網様体賦活系が保たれていることが意識保持の機序と見なされ、脳波は覚醒状態を示すが、実際の患者では垂直眼球運動と瞬目とで正確な応答を得ることが難しい場合もある。脳幹の局所性病変のみでなく、重症筋無力症Guillain-Barré症候群筋萎縮性側索硬化症などでも人工呼吸器が装着されると意識が保たれた四肢麻痺・球麻痺状態を呈し、この状態も一般に閉じ込め症候群と呼ばれる。

病態生理

 橋腹側部が広範囲に障害されることによって生じる。

 脳幹は上方より中脳・橋・延髄から構成されるので、橋は上方に中脳、下方で延髄につながっている。中脳はさらに上方で大脳、延髄は下方では脊髄につながっている。橋腹側には大脳皮質の運動野から始まる遠心性線維の束である錘体路が走行する。この錘体路は随意運動を支配する神経の主要経路である。背側には感覚などを上向性に伝える求心性線維の束である脊髄視床路が走行する。また、背側の脳幹網様体には、上行性網様体賦活系という意識の覚醒に重要な関与をしているシステムが存在する。脳神経では三叉神経(Ⅴ)、外転神経(Ⅵ)、顔面神経(Ⅶ)、聴神経(Ⅷ)が存在する。ちなみに中脳には動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)が存在する。

 脳底動脈閉塞による橋の脳梗塞が原因であることが圧倒的に多いが、稀に脳幹部腫瘍、膿瘍、脳炎、外傷によってもおこる。前述の橋の構造からもわかるように、四肢麻痺(両側錘体路障害)、無言(両側下位皮質球路障害)が生じる。動眼神経(Ⅲ)、滑車神経(Ⅳ)は中脳にあるため障害されず、このため眼球の上下運動(水平運動はできない)とまばたき(上眼瞼の運動)のみ可能である。また、橋背側部に脳幹網様体と求心性線維が存在しているため感覚は正常、意識は清明である。(図)したがって、自己と外界との意思疎通は、まばたきまたは眼球運動をもってのみ可能である。

経過と予後

意識は清明で、単に意思表示の方法が欠如した状態である。このため、ほとんど完全に「鍵をかけられた状態」であることからこの命名がされている。最初の頃は、ほとんど死亡すると考えられていたが、1ないし12週後に、ある程度の神経症状の回復をみる例もあり、早期の積極的治療の必要性が強調されている。中には、27年間生存した例も報告されている。本症例に対する栄養補給中止の声明が、1993年American Academy of Neurologyから出されている。

参考文献

  1. Plum F, Posner JB
    The Diagnosis of Stupor and Coma.
    3rd ed. Philadelphia, Davis, 1980