「間脳の発生」の版間の差分

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間脳からは終脳に向けて数多くの神経が伸びていく.特に羊膜類では視床に嗅覚以外の全ての感覚が集められ、そこから終脳に多くの軸索が入力する。これらの線維は一般的に「視床-終脳路」と呼ばれている.これらの神経がどのような仕組みで終脳に入力するのかについてはこれまでに主にマウスを用いて多くの研究がなされている.視床-終脳路の道筋には軸索をガイドするタンパク質群があり,視床の神経核から伸びる軸索は、それらのシグナルを受け取り応答することによって迷うことなく正確に目的地にたどり着く。例えば,視床下部に発現するNkx2.1 は,神経ガイド分子の一種Slitの発現を調節しており,この分子の反発作用によって視床から終脳に伸びていく軸索は終脳の方向に向きを変える[43]。その他にも,視床の神経核では、神経ガイド因子のEph(EphA4, EphA4, EphA7)が勾配をもって発現している。そのため、そこから伸びる軸索にはEphを多く発現しているものから少なく発現しているものがあり、それらの軸索は終脳側にあるエフリンA5の勾配に応答し、反発性相互作用により、Ephの濃度に応じて振り分けられることで特異的な投射が形成される[44]。また、誘因性のガイド因子であるNetrin1が視床の軸索を終脳へ誘引していくことにより多くの軸索が終脳へ入力できるようになるという報告がある[45]。ただし、ネトリンは視床前部のニューロンには誘因性に作用するが、視床後部のニューロンに対しては反発性に作用する。
間脳からは終脳に向けて数多くの神経が伸びていく.特に羊膜類では視床に嗅覚以外の全ての感覚が集められ、そこから終脳に多くの軸索が入力する。これらの線維は一般的に「視床-終脳路」と呼ばれている.これらの神経がどのような仕組みで終脳に入力するのかについてはこれまでに主にマウスを用いて多くの研究がなされている.視床-終脳路の道筋には軸索をガイドするタンパク質群があり,視床の神経核から伸びる軸索は、それらのシグナルを受け取り応答することによって迷うことなく正確に目的地にたどり着く。例えば,視床下部に発現するNkx2.1 は,神経ガイド分子の一種Slitの発現を調節しており,この分子の反発作用によって視床から終脳に伸びていく軸索は終脳の方向に向きを変える[43]。その他にも,視床の神経核では、神経ガイド因子のEph(EphA4, EphA4, EphA7)が勾配をもって発現している。そのため、そこから伸びる軸索にはEphを多く発現しているものから少なく発現しているものがあり、それらの軸索は終脳側にあるエフリンA5の勾配に応答し、反発性相互作用により、Ephの濃度に応じて振り分けられることで特異的な投射が形成される[44]。また、誘因性のガイド因子であるNetrin1が視床の軸索を終脳へ誘引していくことにより多くの軸索が終脳へ入力できるようになるという報告がある[45]。ただし、ネトリンは視床前部のニューロンには誘因性に作用するが、視床後部のニューロンに対しては反発性に作用する。
 視床―終脳路は哺乳類では内包を形成し終脳半球の内側を通るが、これは羊膜類では例外的であり、他の羊膜類では線条体の外側を抜けるような経路をとる。この進路決定には、哺乳類の終脳で発現するSlit2が関与していることが知られている[46]。哺乳類のマウスでは軸索を誘引する働きを有する細胞群が外側基底核原基(LGE)から内側基底核原基(MGE)へ向けて移動するが、この際にSlit2が終脳の腹側から背側に拡大して発現することにより、その細胞群はSlit2の反発作用を受け、脳室から離れた領域に移動する。これにより、視床から伸長する軸索はこれら細胞群の誘引作用を受けられるようになり、神経線維は終脳の内側を通るようになる。一方、主竜類のようにSlit2が終脳腹側に限局して発現をしていた場合、LGEからMGEへ移動する細胞群はSlit2による反発作用を受けず、細胞群は脳室に接した領域に移動する。すると、視床から伸長する軸索はこれら細胞群の誘引作用を受けないため、神経線維は終脳の外側を通るようになる。
 視床―終脳路は哺乳類では内包を形成し終脳半球の内側を通るが、これは羊膜類では例外的であり、他の羊膜類では線条体の外側を抜けるような経路をとる。この進路決定には、哺乳類の終脳で発現するSlit2が関与していることが知られている[46]。哺乳類のマウスでは軸索を誘引する働きを有する細胞群が外側基底核原基(LGE)から内側基底核原基(MGE)へ向けて移動するが、この際にSlit2が終脳の腹側から背側に拡大して発現することにより、その細胞群はSlit2の反発作用を受け、脳室から離れた領域に移動する。これにより、視床から伸長する軸索はこれら細胞群の誘引作用を受けられるようになり、神経線維は終脳の内側を通るようになる。一方、主竜類のようにSlit2が終脳腹側に限局して発現をしていた場合、LGEからMGEへ移動する細胞群はSlit2による反発作用を受けず、細胞群は脳室に接した領域に移動する。すると、視床から伸長する軸索はこれら細胞群の誘引作用を受けないため、神経線維は終脳の外側を通るようになる。
8.3 体性感覚地図
脊椎動物の脳にある感覚性神経回路には、末梢にある受容器の配置がそのままニューロン配置に変換されることで感覚地図(トポグラフィックマップ)がつくられる。これは視覚系、聴覚系、体性感覚系、味覚系など様々な感覚系で見られる。間脳の神経核にもそのような感覚地図が発生するが、それらの中ではマウスの体性感覚地図に関する研究が進んでいる。
哺乳類の多くでは口の周りに長い毛が見られる。それらはその付け根に血管が入るために空洞になっていることから洞毛と呼ばれる.これらのヒゲは上顎に規則正しい配置で並んでおり、鰓弓神経の一つである三叉神経の上顎枝によって支配されている。三叉神経の軸索は菱脳(後脳)のロンボメア2にある神経根を通って菱脳に入り,菱脳の前方にある三叉神経主知覚核と、後方にある三叉神経脊髄路核に入力する.これらの神経核の中では,神経細胞が洞毛の空間的な配置をそっくりそのまま写し取ったかのように配置されており、その形態はバレレット(barrelettes)と呼ばれている。哺乳類の三叉神経系では,菱脳のニューロンの配置によってつくられた地図がその位置関係を保ったまま間脳へ,そして最終的に終脳の体性感覚野へ伝えられている.間脳の視床後内側腹側核で見られるパターンはバレロイド(barreloids)、終脳で見られるものはバレル(barrels)と呼ばれている。こうした地図は生後に神経活動依存的な仕組みによって形成されるが、発生期に発現する転写因子もその形成に間接的に関わることが知られている。視床腹側内側核のバレロイドの形成はDRG11遺伝子やNMDA受容体の変異体で異常が生じる[47]。また、菱脳(後脳)に発現するHoxa2 のコンディショナルノックアウトマウスでもその形成が妨げられるが、これは後脳の三叉神経主知覚核(PrV)にできるバレレットの形成が妨げられたことによる二次的な影響であると考えられる。
8.4 網膜視蓋投射
網膜は前脳の一部が左右に突出して眼胞を形成し、そこから発生する構造である。したがって、網膜やそこにある神経節細胞などのニューロン形成も間脳の発生に含められるべきである。それらの詳細は他の項「視覚系の発生」などに譲り、本項では網膜から出力する求心性神経の発生について概説する。
脊椎動物では、視覚の情報が視蓋(上丘)に投射する過程(網膜視蓋投射)では、鼻側の網膜の軸索は視蓋の尾側へ投射し,側頭部側の網膜の軸索は視蓋の吻側へ投射することで、トポグラフィックなマップが形成される。この過程では膜結合型のタンパク質でありチロシンキナーゼドメインを持つEphとそのリガンドである膜タンパク質エフリン(ephrin)との反発的な相互作用が重要な役割を担っている[48][49]。前後軸方向の軸索投射においては、EphA3を強く発現する側頭部側の視神経は,視蓋に入るとリガンドであるephrinA2とA5と反発的に作用するためこれの強く発現する場所には入れず,ephrinの発現の弱い吻側でシナプスを作る.一方,EphA3をあまり発現していない鼻側の視神経は,視蓋に入ってもephrinnと相互作用があまり起こらないため尾側の方にまで伸長できる.また、背原軸方向の軸索投射にはEphBとエフリンBのシステムが関わる[50]。こうしたトポグラフィックなマップ形成には神経活動依存的な仕組みも必須である。
関連項目
Eph
エフリン
蓋板
眼優位性カラム(眼優位性コラム)
視覚系の発生
神経管
翼板
基板
底板
43

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