「間脳の発生」の版間の差分

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視床と視床下部の間に位置する腹側視床には視床網様核、不確帯、視床下核などの神経核がある。
視床と視床下部の間に位置する腹側視床には視床網様核、不確帯、視床下核などの神経核がある。
 視床下部は漏斗、灰白隆起、乳頭体など多くの神経要素を含み、自律神経系の中枢として内分泌系と密接に関係し、自律神経機能、摂食、日周期リズムなど生物の生存に必須な機能(いわゆる植物神経系としての機能)を担う。睡眠と覚醒の制御に関わることでも知られる。視床下部は下垂体と結合していることから血液を介して内分泌系にも影響を及ぼしている。視床下部は無羊膜類ではよく発達し、一般的には視床よりも大きな領域を占める。羊膜類の段階になると、視床のサイズが視床下部を凌駕するようになる[18]。
 視床下部は漏斗、灰白隆起、乳頭体など多くの神経要素を含み、自律神経系の中枢として内分泌系と密接に関係し、自律神経機能、摂食、日周期リズムなど生物の生存に必須な機能(いわゆる植物神経系としての機能)を担う。睡眠と覚醒の制御に関わることでも知られる。視床下部は下垂体と結合していることから血液を介して内分泌系にも影響を及ぼしている。視床下部は無羊膜類ではよく発達し、一般的には視床よりも大きな領域を占める。羊膜類の段階になると、視床のサイズが視床下部を凌駕するようになる[18]。
4、比較形態学・発生学からみた間脳の形態
間脳の領域構成については、形態学、組織学、そして発生学の観点から様々な研究が行われてきた。Rendahl(1924)は間脳がsynencephalonとposterior/anterior parencephalonに分けられることを指摘している[19]。近年の分子発生学の発展に伴い、ニワトリやマウス、アフリカツメガエル等を用いて、間脳の領域が転写因子などの領域マーカー遺伝子の発現と照らし合わせて調べられ、発生期にみられるプロソメアとの対応関係が示されてきた。synencephalonとposterior/anterior parencephalonはプロソメア1とプロソメア2/3におおよそ対応している。プロソメア1に含まれる領域はさらにprecommissural、juxtacommissural、commissuralの三つの領域に細分されている[8][20]。
こうした知見を基に、現在では、成体の羊膜類、両生類、魚類の間脳は後ろから視蓋前域(Pretectum)、視床(Thalamus)、視床前域(Prethalamus)、そして視床下部(Hypothalamus)に分けられており、これらはそれぞれプロソメア1、2、3の背側要素(翼板)に対応している[1][2][6][7][8][20][21][22][23]。これらの構成は解剖学の教科書に見られる形態学的単位と対応しない場合がある。例えば従来の考えでは視蓋前域と松果体は共に視床上部に含まれているが、後者では視蓋前域(プロソメア1)と松果体(プロソメア2)は異なる領域である。また、腹側視床と視床(背側視床)は視床前域と視床という名称に変更されている[2]。最近の比較形態学的研究や発生学的研究ではプロソメアに基づくモデルが使われる場合が多いようである。プロソメアはPuellesとRubensteinによって発表されてから、間脳から終脳をカバーする大規模な分節として、菱脳のロンボメアと同じく重要な脳分節として捉えられてきた。プロソメア1から3の三つについては、現在ではこれらの領域は多くの研究者によって認められている。ただし、プロソメア3より前方にあるコンパートメントについては、現在も議論が続けられている(6、視床下部と終脳に関する発生基盤参照)。
5、魚類の間脳の形態と発生
魚類(条鰭魚類)の間脳の発生過程では,マウスや他の脊椎動物と同様にプロソメア1〜3と視床下部の領域が分化する.しかしながら,その後に分化していく神経核については他の脊椎動物には見られないようなものが出現する.その代表的なものが、間脳の腹側に発生するPG複合体(preglomerular complex)である。この神経核は発生期に視床などの間脳翼板領域の細胞が移動してくることによってできると考えられている[24][25]。この神経核複合体からの軸索は哺乳類の視床の神経核のように終脳外套に投射している[26][27]。しかしその投射先は哺乳類の新皮質(背側外套)とは必ずしも相同ではないらしい。
6、視床下部と終脳に関する発生基盤
視床下部は、前脳の前方腹側で発生するが、他の間脳領域(プロソメア1〜3)とは発現する遺伝子の種類が異なる例が多い。視床下部は少なくともその一部は神経管の腹側の要素(基板)であると考えられており、基板に発現するShh遺伝子の発現が見られる。ただしShhは視床下部の全域に発現するわけではない。また、Nkx2.1遺伝子が発現していることも視床下部の特徴である[28]。この遺伝子は実際に前脳腹側の形成に関わっている[29][30]。そして、視床下部領域と終脳とを合わせたものをひとつのコンパートメントと捉える考えが、プロソメアモデルを提唱したPuellesらの研究グループから出されている[2][31](図)。この視床下部−終脳コンパートメントはsecondary procencephalonと名付けられている。このモデルでは発生期の前脳は間脳(プロソメア1〜3)とsecondary procencephalonに分化するとされる。つまり、従来のモデルでは視床下部は間脳に含まれるが、このモデルでは視床下部は二次前脳に含まれる。前脳が後方の「間脳」と前方の「secondary procencephalon」にわかれるとする形態発生学的な根拠として、「間脳」領域の発生は腹側にある脊索の影響を受け、「secondary procencephalon」は脊索前板(prechordal plate)の影響を受けることが挙げられる。このモデルに従うなら、secondary procencephalonの背側部分が柊脳で、その腹側部分が視床下部となり、同時に視床下部が神経管の最も前方の領域となる[31]。secondary procencephalonはさらにHypotyalamo-telencephalic prosomere 1と2(HP1とHP2)に細分されている。HP1が後方でHP2が前方である。視床下部はHP1に含まれる部分がpeduncular hypothalamus(PHy)、HP2に含まれる部分がterminal hypothalamus(THy)と名付けられている(図)。終脳ではHP1が外套(Pallium)と外套下部(subpallium)の多くの領域を占め、HP2は視索前野と前交連を含む領域を占める。さらに真骨魚類では終脳と視床下部の間にあるoptic recess region(視交叉陥凹部;目の網膜も含む)を一つのユニットとして認め、secondary procencephalonを三つのパートに分ける考えも出されている[32]。
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