「陳述記憶・非陳述記憶」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
18行目: 18行目:


 意味記憶は知識に相当し、言語とその意味(概念)、知覚対象の意味や対象間の関係、社会的約束など、世の中に関する組織化された記憶である。例えば、「ミカン」が意味するもの(大きさ、色、形、味や、果物の一種であるという知識など)に関する記憶が相当する。通常同じような経験の繰り返しにより形成され、その情報をいつ・どこで獲得したかのような付随情報の記憶は消失し、内容のみが記憶されたものと考えられる。
 意味記憶は知識に相当し、言語とその意味(概念)、知覚対象の意味や対象間の関係、社会的約束など、世の中に関する組織化された記憶である。例えば、「ミカン」が意味するもの(大きさ、色、形、味や、果物の一種であるという知識など)に関する記憶が相当する。通常同じような経験の繰り返しにより形成され、その情報をいつ・どこで獲得したかのような付随情報の記憶は消失し、内容のみが記憶されたものと考えられる。
==== 自伝的記憶 ====
:自分と関連する人生についての記憶を、特に[[自伝的記憶]]という。エピソード記憶を中心に構成されるが、同時に自分に関する意味記憶(卒業した学校名など)も含むため、自伝的記憶とエピソード記憶は同義ではない。


== 非陳述記憶  ==
== 非陳述記憶  ==


 非陳述記憶とは、意識上に内容を想起できない記憶で、言語などを介してその内容を陳述できない記憶である。非宣言的記憶とも呼ばれる。非陳述記憶には[[手続き記憶]]、[[プライミング]]、[[連合学習]]、[[非連合学習]]などが含まれる。処理効率(正確性や速度)の向上として、行為の中に表現される。
 非陳述記憶とは、意識上に内容を想起できない記憶で、言語などを介してその内容を陳述できない記憶である。非宣言的記憶とも呼ばれる。非陳述記憶には[[手続き記憶]]、[[プライミング]]、[[古典的条件付け]]、[[非連合学習]]などが含まれる。処理効率(正確性や速度)の向上として、行為の中に表現される。


=== 手続き記憶 ===
=== 手続き記憶 ===
35行目: 31行目:
 プライミングとは、以前の経験により、後に経験する対象の同定を促進(あるいは抑制)される現象を指し、[[直接プライミング]]と[[間接プライミング]]がある。
 プライミングとは、以前の経験により、後に経験する対象の同定を促進(あるいは抑制)される現象を指し、[[直接プライミング]]と[[間接プライミング]]がある。


=== 連合学習 ===
=== 古典的条件付け ===


 連合学習(条件づけ)とは、梅干しを見ると唾液が出るなどのように、経験の繰り返しや訓練により本来は結びついていなかった刺激に対して、新しい反応(行動)が形成される現象をいう。[[古典的条件付け]]と[[オペラント条件づけ]]がある。
 古典的条件付けとは、梅干しを見ると唾液が出るなどのように、経験の繰り返しや訓練により本来は結びついていなかった刺激に対して、新しい反応(行動)が形成される現象をいう。


=== 非連合学習 ===
=== 非連合学習 ===
46行目: 42行目:


 複数の記憶システム(図1)の存在を支持する証拠は、まず脳の特定部位の損傷により記憶障害を呈した症例報告により示された。例えば[[内側側頭葉]]-[[海馬]]と[[海馬傍回]]([[内嗅皮質]]・[[周嗅皮質]]・[[海馬傍皮質]])-を損傷した[[健忘症]]患者では、エピソード記憶の障害が顕著である一方、他の記憶(意味記憶、手続き記憶、プライミングなど)に障害はみられない。こうしたエピソード記憶の選択的障害([[健忘症候群]])を引き起こす病巣としては、内側側頭葉(海馬・海馬傍回)の他に、[[間脳]]([[視床]]・[[乳頭体]])、[[前脳基底部]]が数多く報告されてきた<ref name="ref3">'''RM Bauer, L Grande, E Valenstein'''<br>Amnesic disorders.<br>In: KM Heilman, E Valenstein, eds.<br>Clinical Neuropsychology 4th ed.<br>'' Oxford University Press(New York)'': 2003, pp.1495-573</ref>。その他、[[脳梁膨大部後域]]、[[脳弓]]の損傷による健忘も報告されている<ref name="ref3" />。これらの脳部位は[[Papez回路]]と呼ばれる、海馬-脳弓-乳頭体-[[乳頭体視床路]]-[[視床前核]]-[[帯状回]]-海馬傍回-海馬という閉鎖回路を構成しており、エピソード記憶に重要な役割を果たしていると考えられている<ref>'''AR Mayes'''<br>Effects on memory of Papez circuit lesions.<br>In: F Boller, J Grafman, eds.<br>Handbook of neuropsychology, 2nd ed. Vol 2<br>''Elsevier(Amsterdam)'': 2000, pp.111-31</ref>。その他のさまざまな記憶に関連する神経基盤(図1)に関しても、神経心理学的研究、脳機能画像研究、そして動物実験生理学研究によって明らかになってきている<ref name="ref1" />。  
 複数の記憶システム(図1)の存在を支持する証拠は、まず脳の特定部位の損傷により記憶障害を呈した症例報告により示された。例えば[[内側側頭葉]]-[[海馬]]と[[海馬傍回]]([[内嗅皮質]]・[[周嗅皮質]]・[[海馬傍皮質]])-を損傷した[[健忘症]]患者では、エピソード記憶の障害が顕著である一方、他の記憶(意味記憶、手続き記憶、プライミングなど)に障害はみられない。こうしたエピソード記憶の選択的障害([[健忘症候群]])を引き起こす病巣としては、内側側頭葉(海馬・海馬傍回)の他に、[[間脳]]([[視床]]・[[乳頭体]])、[[前脳基底部]]が数多く報告されてきた<ref name="ref3">'''RM Bauer, L Grande, E Valenstein'''<br>Amnesic disorders.<br>In: KM Heilman, E Valenstein, eds.<br>Clinical Neuropsychology 4th ed.<br>'' Oxford University Press(New York)'': 2003, pp.1495-573</ref>。その他、[[脳梁膨大部後域]]、[[脳弓]]の損傷による健忘も報告されている<ref name="ref3" />。これらの脳部位は[[Papez回路]]と呼ばれる、海馬-脳弓-乳頭体-[[乳頭体視床路]]-[[視床前核]]-[[帯状回]]-海馬傍回-海馬という閉鎖回路を構成しており、エピソード記憶に重要な役割を果たしていると考えられている<ref>'''AR Mayes'''<br>Effects on memory of Papez circuit lesions.<br>In: F Boller, J Grafman, eds.<br>Handbook of neuropsychology, 2nd ed. Vol 2<br>''Elsevier(Amsterdam)'': 2000, pp.111-31</ref>。その他のさまざまな記憶に関連する神経基盤(図1)に関しても、神経心理学的研究、脳機能画像研究、そして動物実験生理学研究によって明らかになってきている<ref name="ref1" />。  
 意味記憶に関わる神経基盤としては、特に側頭葉の重要性が指摘されている。例えば側頭葉前方部の限局性萎縮により、単語、物品、人物などの意味理解が選択的に障害される意味認知症が生じる<ref name="ref5">'''JS Snowden, PJ Goulding, D Neary'''<br>Semantic dementia: A form of circumscribed cerebral atrophy.<br>'' Behavioural Neurology'' <br>: 1989, 2(3): 167-182</ref>。左右差を伴い、左側頭葉前方部の萎縮では語義の障害が、右側頭葉前方部の萎縮では人物の意味記憶が障害されることが多い。その他、脳損傷後に特定の意味カテゴリー(例:動物)の意味理解が選択的に障害される(意味記憶のカテゴリー特異性障害)ことが報告されており[6]、近年の脳機能画像研究により特定の脳部位と意味カテゴリーの関係性が明らかになりつつある[7]。


== 関連語  ==
== 関連語  ==
55

回編集