「電流源密度推定法」の版間の差分

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式(1)が式(2)の解となっていることは、直接代入により確認できる。 式(2)が意味するのは、(式(1)に従って発生した)電位の空間分布が与えられれば、その原因である電流源の密度分布は、与えられた電位の空間分布に微分操作(空間二階微分)を施すことで得られるということである。 この原理に基づき、実験的に測定されたLFP信号の空間分布から、神経活動に由来する電流源の分布を推定する手法が電流源密度推定法である。  
式(1)が式(2)の解となっていることは、直接代入により確認できる。 式(2)が意味するのは、(式(1)に従って発生した)電位の空間分布が与えられれば、その原因である電流源の密度分布は、与えられた電位の空間分布に微分操作(空間二階微分)を施すことで得られるということである。 この原理に基づき、実験的に測定されたLFP信号の空間分布から、神経活動に由来する電流源の分布を推定する手法が電流源密度推定法である。  


細胞外記録されるLFP信号の発生原因となる電流源の実体は、神経細胞の膜を透過して細胞外空間へ流出、もしくは逆向きに細胞内へ流入する膜電流である。 細胞外空間からは、前者は電流の湧き出し(current source)、後者は吸い込み(current sink)として観測される。 (ここで、湧き出しは細胞内から細胞外への電流、すなわち過分極過程に、吸い込みはその逆向き、脱分極過程に対応する。) ケーブル理論に従えば、膜電流と膜電位の間には以下の関係が成り立つ。
細胞外記録されるLFP信号の発生原因となる電流源の実体は、神経細胞の膜を透過して細胞外空間へ流出、もしくは逆向きに細胞内へ流入する膜電流である。 細胞外空間からは、前者は電流の湧き出し(current source)、後者は吸い込み(current sink)として観測される。 (ここで、湧き出しは細胞内から細胞外への電流、すなわち過分極過程に、吸い込みはその逆向き、脱分極過程に対応する。) ケーブル理論に従えば、膜電流<math>I_m</math>と膜電位<math>V_m</math>の間には以下の関係が成り立つ。


(3)  
<math>I_m = \frac{V_m}{r_m} + c_m \frac{\partial V_m}{\partial t} \ \cdots \ (3)</math> (<math>r_m</math>: 膜抵抗; <math>c_m</math>: 膜容量)


すなわち、膜電流は膜電位の瞬間的な値(抵抗性成分:右辺第1項)と変化率(容量性成分:右辺第2項)によって決まる。 神経細胞においては、シナプス後電位と活動電位が膜電位変化の主要な原因であるが、 それぞれが生起する膜電位変化のサイズ・変化率は異なるため、それらが式(3)に従って誘起する膜電流の大きさは様々である。 また、実際にLFP信号として測定されるのは電極近傍に存在する多数の神経細胞からの総体的な寄与であるため、各成分の時間的・空間的な配置に従って、LFP信号に対するそれらの寄与の強めあい・打ち消しあいが生じうる。 これらの要因を考慮に入れたMitzdorf(1985)による推定では、活動電位に由来する膜電流はLFP信号にほとんど反映されず、また、シナプス後電位に関しては、興奮性・抑制性のシナプスからの寄与の割合はおよそ5:1であるとされている。 このため、LFP信号を用いた電流源密度推定法で推定される電流源分布は、主に興奮性シナプス活動の空間分布を反映していると考えてよい。  
すなわち、膜電流は膜電位の瞬間的な値(抵抗性成分:右辺第1項)と変化率(容量性成分:右辺第2項)によって決まる。 神経細胞においては、シナプス後電位と活動電位が膜電位変化の主要な原因であるが、 それぞれが生起する膜電位変化のサイズ・変化率は異なるため、それらが式(3)に従って誘起する膜電流の大きさは様々である。 また、実際にLFP信号として測定されるのは電極近傍に存在する多数の神経細胞からの総体的な寄与であるため、各成分の時間的・空間的な配置に従って、LFP信号に対するそれらの寄与の強めあい・打ち消しあいが生じうる。 これらの要因を考慮に入れたMitzdorf(1985)による推定では、活動電位に由来する膜電流はLFP信号にほとんど反映されず、また、シナプス後電位に関しては、興奮性・抑制性のシナプスからの寄与の割合はおよそ5:1であるとされている。 このため、LFP信号を用いた電流源密度推定法で推定される電流源分布は、主に興奮性シナプス活動の空間分布を反映していると考えてよい。  
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大脳皮質や海馬皮質では、神経組織が層状の解剖学的構造を持つことが知られている。 ここで、層を貫く向きにz軸を、層と平行な面上にx軸とy軸を持つ座標系を導入する。 この座標系では式(2)は  
大脳皮質や海馬皮質では、神経組織が層状の解剖学的構造を持つことが知られている。 ここで、層を貫く向きにz軸を、層と平行な面上にx軸とy軸を持つ座標系を導入する。 この座標系では式(2)は  


(4)  
<math>(\frac{\partial^2}{\partial x^2} + \frac{\partial^2}{\partial y^2} + \frac{\partial^2}{\partial z^2}) \Phi = - \frac{I(x,y,z)}{\sigma} \ \cdots \ (4)</math>


で表されるが、zの各値に対応するx-y平面上での解剖学的一様性を考慮し、電位も同様にx-y平面上で一様であると仮定すると、式(4)は  
で表されるが、zの各値に対応するx-y平面上での解剖学的一様性を考慮し、電位も同様にx-y平面上で一様であると仮定すると、式(4)は  


(5)  
<math>\frac{\partial^2 \Phi}{\partial z^2} = - \frac{I(z)}{\sigma} \ \cdots \ (5)</math>


に簡単化される。 現実的には、例えば初期感覚皮質では層構造に直交するコラム構造の存在が知られており、x-y平面上の電位の一様性はかなり大胆な仮定であると言わざるを得ないが、実際の応用では最低次の近似として広く受け入れられている。 また、式(5)ではz座標は連続値を取るが、実際の電位測定では、例えば皮質表面に垂直に挿入された線状電極アレイ(linear electrode array)を用いて、z軸方向の離散的な点における電位の値が測定される。 それら測定値から各点における電位のz軸方向二階微分を推定し、それを式(5)に代入して電流源密度の推定値を得る。  
に簡単化される。 現実的には、例えば初期感覚皮質では層構造に直交するコラム構造の存在が知られており、x-y平面上の電位の一様性はかなり大胆な仮定であると言わざるを得ないが、実際の応用では最低次の近似として広く受け入れられている。 また、式(5)ではz座標は連続値を取るが、実際の電位測定では、例えば皮質表面に垂直に挿入された線状電極アレイ(linear electrode array)を用いて、z軸方向の離散的な点における電位の値が測定される。 それら測定値から各点における電位のz軸方向二階微分を推定し、それを式(5)に代入して電流源密度の推定値を得る。