「頭頂葉」の版間の差分

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 [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を被験者にした[[fMRI実験]]から、一次体性感覚野は物理的な刺激が与えられないと賦活しないが、二次体性感覚野は実際の刺激が与えられなくても他人が触られている映像を観察しただけで賦活することが示されている<ref><pubmed>15091347</pubmed></ref>。また、「皮膚に注射針が刺された」画像などを観察して、痛みが想像できるような状況に置かれた場合でも二次体性感覚野は賦活する<ref><pubmed>16855007</pubmed></ref>。
 [[wikipedia:ja:ヒト|ヒト]]を被験者にした[[fMRI実験]]から、一次体性感覚野は物理的な刺激が与えられないと賦活しないが、二次体性感覚野は実際の刺激が与えられなくても他人が触られている映像を観察しただけで賦活することが示されている<ref><pubmed>15091347</pubmed></ref>。また、「皮膚に注射針が刺された」画像などを観察して、痛みが想像できるような状況に置かれた場合でも二次体性感覚野は賦活する<ref><pubmed>16855007</pubmed></ref>。


== 頭頂連合野 ==
== 頭頂連合野 ==
 頭頂連合野は中心溝の後方にある一次体性感覚野、腹側前方にある二次体性感覚野を除く頭頂葉の部分である。[[空間認知]]、[[運動視覚]]、高次の[[体性感覚]]の処理、手や腕等の[[運動制御]]、[[言語機能]]等、様々な[[認知機能]]に関わる。頭頂連合野外側は頭頂間溝を境として上頭頂小葉と下頭頂小葉に分けられる。なお、[[ブロードマンの脳区分]]において、ヒトでは上頭頂小葉は[[5野]]と[[7野]]が当てられているが、サルでは上頭頂小葉と下頭頂小葉がそれぞれ5野と7野とされているので、両者の対応を考える場合には注意が必要である。


 ニューロン活動が示す性質から、頭頂連合野外側の頭頂間溝領域は[[LIP野]]([[the lateral intraparietal area]])、[[MIP野]]([[the medial intraparietal area]])、[[AIP野]]([[the anterior intraparietal area]])、[[VIP野]]([[the ventral intraparietal area]])、[[PIP野]]([[the posterior intraparietal area]])、[[CIP野]][[the caudal intraparietal area]])などに、下頭頂小葉は[[7a野]]、[7b野]]の小領域にさらに区分される。また、頭頂連合野内側は、頭頂後頭溝吻側壁に沿って腹側部が[[PO野]]([[the parieto-occipital area]])、[[背側部]][[POa野]]と呼ばれている。その前方の内側面は腹側部が[[7m野]]、背側部の部分が[[MDP野]][[the medial dorsal parietal area]])に区分される。
 頭頂連合野は中心溝の後方にある一次体性感覚野、腹側前方にある二次体性感覚野を除く頭頂葉の部分である。[[空間認知]][[運動視覚]]、高次の[[体性感覚]]の処理、手や腕等の[[運動制御]]、[[言語機能]]等、様々な[[認知機能]]に関わる。頭頂連合野外側は頭頂間溝を境として上頭頂小葉と下頭頂小葉に分けられる。なお、[[ブロードマンの脳区分]]において、ヒトでは上頭頂小葉は[[5野]][[7野]]が当てられているが、サルでは上頭頂小葉と下頭頂小葉がそれぞれ5野と7野とされているので、両者の対応を考える場合には注意が必要である。


=== 5野 ===
 ニューロン活動が示す性質から、頭頂連合野外側の頭頂間溝領域はLIP野(The lateral intraparietal area)、MIP野(The medial intraparietal area)、AIP野(The anterior intraparietal area)、VIP野(The ventral intraparietal area)、PIP野(The posterior intraparietal area)、CIP野(The caudal intraparietal area)などに、下頭頂小葉は[[7野|7a野]]、[[7野|7b野]]の小領域にさらに区分される。また、頭頂連合野内側は、頭頂後頭溝吻側壁に沿って腹側部がPO野(The parieto-occipital area)、背側部がPOa野と呼ばれている。その前方の内側面は腹側部が[[7野|7m野]]、背側部の部分がMDP野(The medial dorsal parietal area)に区分される。
 サルの上頭頂小葉と頭頂間溝内側壁に存在する領野であり、手や上肢への触刺激や上肢の関節角などの体性感覚に応答を示すニューロン群が存在する<ref><pubmed>808592</pubmed></ref>。また、頭頂間溝内側壁には体性感覚の[[受容野]]近傍で呈示された視覚刺激に対して応答を示すニューロン群が存在する。遠方にある餌を手元に寄せることができるようにサルにレーキ(熊手のような道具)を使わせると、視覚性応答が得られる空間位置がレーキの先端部や到達可能な範囲にまで拡張される。このようなニューロン群は体性感覚と視覚を統合した身体像を表現していると考えられている<ref><pubmed>8951846</pubmed></ref> <ref><pubmed>11377755</pubmed></ref>。


=== LIP野 ===
=== 5野  ===
 頭頂間溝外側壁の後方半領域を占める領野であり、多くの視覚領野から入力を受け<ref><pubmed>11058227</pubmed></ref>、[[サッカード眼球運動]]系の中枢である[[前頭眼野]](the frontal eye field, FEF)や上丘(the superior colliculus, SC)に直接の神経連絡がある<ref><pubmed>7540675</pubmed></ref><ref><pubmed>7745137</pubmed></ref><ref><pubmed>2358530</pubmed></ref><ref><pubmed>9405568</pubmed></ref>。LIP野には視覚性活動とサッカード関連活動を示すニューロンが多く存在し、特に近傍の領野と差別化される特徴として記憶誘導性サッカード課題において遅延期間中に強い活動を示すことが知られている<ref><pubmed>1753277</pubmed></ref><ref><pubmed>1753276</pubmed></ref><ref><pubmed>3402565</pubmed></ref>。LIP野は視覚・運動の変換過程を伴う認知行動において重要な役割を果たすと考えられおり、さまざまな認知機能:[[注意]]<ref><pubmed>12511644</pubmed></ref><ref><pubmed>8930237</pubmed></ref><ref><pubmed>9461214</pubmed></ref>、[[企図]]・[[意図]]<ref><pubmed>8890266</pubmed></ref><ref><pubmed>8890265</pubmed></ref><ref><pubmed>9062187</pubmed></ref>、[[視覚探索]]<ref><pubmed>16597719</pubmed></ref><ref><pubmed>19073809</pubmed></ref><ref><pubmed>17079346</pubmed></ref><ref><pubmed>12427844</pubmed></ref>、[[意思決定]]<ref><pubmed>18488024</pubmed></ref> <ref><pubmed>12417672</pubmed></ref>、[[報酬予測]]<ref><pubmed>10421364</pubmed></ref>に関連したニューロン活動が報告されている。
=== AIP野 ===
 頭頂間溝の外側壁前方部にある領野であり、手操作運動時に活動するニューロン群は視覚優位型、視覚運動型、運動優位型の3つのタイプに分けられる<ref name=ref2><pubmed>9246729</pubmed></ref>。この領野は腹側運動前野(F5)との間に双方向の神経投射があることから、手操作運動の制御に密接に関連すると考えられている。手の運動によって物体を操作する場合、操作対象となる物体の形状に応じて手の形状を細かく調整する必要があるが、AIP野には操作対象の3次元構造に対して選択性を示すニューロン群が存在することが知られている<ref><pubmed>10805659</pubmed></ref>。
=== VIP野 ===
 頭頂間溝の底部にある領野であり、視覚刺激の動きに良く応答するニューロン群が存在し、多くは動き方向に対して選択的である。顔に近い場所で動く刺激に対して良く応答するニューロンや、近づいてくる刺激や遠ざかる刺激に対して選択的に応答するニューロンも見つかる。VIP野では、多くのニューロンが体性感覚刺激のみでも応答する。体性感覚の受容野位置は主として顔か頭部であり、個々のニューロンにおいては、視覚と体性感覚の受容野位置、サイズ、及び、動き刺激に対する方向選択性が一致することが多い<ref><pubmed>9425183</pubmed></ref>。
=== CIP野 ===
 頭頂間溝外側壁の後方部にある領野であり、物体の3次元の形状の情報処理に関わるニューロンが存在し、3次元空間内の棒や面の方位に選択的な活動を示す<ref name=ref2 />。また、テクスチャーなどの二次元的な絵画的手掛かりにも選択性のある応答を示す。さらに、円柱などの単純な立体に選択的に反応するニューロンも見つかっている<ref><pubmed>12376700</pubmed></ref>。
=== 7a野 ===
 7a野(area 7a)は下頭頂小葉の後方半領域を占める領野であり、静止した対象物を注視している時に活動する[[注視ニューロン]]が存在し、その多くは注視点位置(あるいは視線方向)・距離に対して選択的である。また、動く視標を追跡する時に活動する [[追跡ニューロン]]も報告されている<ref name=ref2 />。視覚探索、注意に関連したニューロン活動も報告されている<ref><pubmed>11415960</pubmed></ref> <ref><pubmed>15634786</pubmed></ref>。後頭頂連合野内の領野と神経投射があるが、側頭葉の[[IT野]]や前頭前野の[[46野]]と直接投射があることから、LIP野などの頭頂連合野内の他の領野より情報処理の階層としてより上位に存在するとの考え方もある<ref><pubmed>2358530</pubmed></ref>。
=== 7b野 ===
 7b野(area 7b)は下頭頂小葉の前方半領域を占める領野であり、体性感覚刺激と視覚刺激の両方に応答するニューロン群が存在する。[[腹側運動前野]](F5)では、他者の動作を観察している時に活動し、さらに同じ動作を自身が行っている時にも活動するニューロン群([[ミラーニューロン]])の存在が報告されているが、同様の性質を持つニューロン群が7b野においても見出されている<ref><pubmed>11533734</pubmed></ref>。これらのニューロン群は、他人の動作の理解や模倣等に関係すると考えられている。
=== PO野(V6野)、POa野(V6a野)、7m野、MIP野 ===
 手動作系の到達運動に関係すると考えられており、背側運動前野と相互連絡がある。[[POa野]]([[V6a野]])には頭部座標系における対象位置をコードするニューロン群が存在する。また、サルが到達運動を行っている時に[[方向選択性]]を持って活動するニューロンもあることが知られている<ref><pubmed>14517595</pubmed></ref>。


 サルの上頭頂小葉と頭頂間溝内側壁に存在する領野であり、手や上肢への触刺激や上肢の関節角などの体性感覚に応答を示すニューロン群が存在する<ref><pubmed>808592</pubmed></ref>。また、頭頂間溝内側壁には体性感覚の[[受容野]]近傍で呈示された視覚刺激に対して応答を示すニューロン群が存在する。遠方にある餌を手元に寄せることができるようにサルにレーキ(熊手のような道具)を使わせると、視覚性応答が得られる空間位置がレーキの先端部や到達可能な範囲にまで拡張される。このようなニューロン群は体性感覚と視覚を統合した身体像を表現していると考えられている<ref><pubmed>8951846</pubmed></ref> <ref><pubmed>11377755</pubmed></ref>。
=== LIP野  ===
 頭頂間溝外側壁の後方半領域を占める領野であり、多くの視覚領野から入力を受け<ref><pubmed>11058227</pubmed></ref>、[[サッカード眼球運動]]系の中枢である[[前頭眼野]](the frontal eye field, FEF)や上丘(the superior colliculus, SC)に直接の神経連絡がある<ref><pubmed>7540675</pubmed></ref><ref><pubmed>7745137</pubmed></ref><ref><pubmed>2358530</pubmed></ref><ref><pubmed>9405568</pubmed></ref>。LIP野には視覚性活動とサッカード関連活動を示すニューロンが多く存在し、特に近傍の領野と差別化される特徴として記憶誘導性サッカード課題において遅延期間中に強い活動を示すことが知られている<ref><pubmed>1753277</pubmed></ref><ref><pubmed>1753276</pubmed></ref><ref><pubmed>3402565</pubmed></ref>。LIP野は視覚・運動の変換過程を伴う認知行動において重要な役割を果たすと考えられおり、さまざまな認知機能:[[注意]]<ref><pubmed>12511644</pubmed></ref><ref><pubmed>8930237</pubmed></ref><ref><pubmed>9461214</pubmed></ref>、[[企図]]・[[意図]]<ref><pubmed>8890266</pubmed></ref><ref><pubmed>8890265</pubmed></ref><ref><pubmed>9062187</pubmed></ref>、[[視覚探索]]<ref><pubmed>16597719</pubmed></ref><ref><pubmed>19073809</pubmed></ref><ref><pubmed>17079346</pubmed></ref><ref><pubmed>12427844</pubmed></ref>、[[意思決定]]<ref><pubmed>18488024</pubmed></ref> <ref><pubmed>12417672</pubmed></ref>、[[報酬予測]]<ref><pubmed>10421364</pubmed></ref>に関連したニューロン活動が報告されている。
=== AIP野  ===
 頭頂間溝の外側壁前方部にある領野であり、手操作運動時に活動するニューロン群は視覚優位型、視覚運動型、運動優位型の3つのタイプに分けられる<ref name="ref2"><pubmed>9246729</pubmed></ref>。この領野は腹側運動前野(F5)との間に双方向の神経投射があることから、手操作運動の制御に密接に関連すると考えられている。手の運動によって物体を操作する場合、操作対象となる物体の形状に応じて手の形状を細かく調整する必要があるが、AIP野には操作対象の3次元構造に対して選択性を示すニューロン群が存在することが知られている<ref><pubmed>10805659</pubmed></ref>。
=== VIP野  ===
 頭頂間溝の底部にある領野であり、視覚刺激の動きに良く応答するニューロン群が存在し、多くは動き方向に対して選択的である。顔に近い場所で動く刺激に対して良く応答するニューロンや、近づいてくる刺激や遠ざかる刺激に対して選択的に応答するニューロンも見つかる。VIP野では、多くのニューロンが体性感覚刺激のみでも応答する。体性感覚の受容野位置は主として顔か頭部であり、個々のニューロンにおいては、視覚と体性感覚の受容野位置、サイズ、及び、動き刺激に対する方向選択性が一致することが多い<ref><pubmed>9425183</pubmed></ref>。
=== CIP野  ===
 頭頂間溝外側壁の後方部にある領野であり、物体の3次元の形状の情報処理に関わるニューロンが存在し、3次元空間内の棒や面の方位に選択的な活動を示す<ref name="ref2" />。また、テクスチャーなどの二次元的な絵画的手掛かりにも選択性のある応答を示す。さらに、円柱などの単純な立体に選択的に反応するニューロンも見つかっている<ref><pubmed>12376700</pubmed></ref>。
=== 7a野  ===
 7a野(area 7a)は下頭頂小葉の後方半領域を占める領野であり、静止した対象物を注視している時に活動する[[注視ニューロン]]が存在し、その多くは注視点位置(あるいは視線方向)・距離に対して選択的である。また、動く視標を追跡する時に活動する [[追跡ニューロン]]も報告されている<ref name="ref2" />。視覚探索、注意に関連したニューロン活動も報告されている<ref><pubmed>11415960</pubmed></ref> <ref><pubmed>15634786</pubmed></ref>。後頭頂連合野内の領野と神経投射があるが、側頭葉の[[IT野]]や前頭前野の[[46野]]と直接投射があることから、LIP野などの頭頂連合野内の他の領野より情報処理の階層としてより上位に存在するとの考え方もある<ref><pubmed>2358530</pubmed></ref>。
=== 7b野  ===
 7b野(area 7b)は下頭頂小葉の前方半領域を占める領野であり、体性感覚刺激と視覚刺激の両方に応答するニューロン群が存在する。[[腹側運動前野]](F5)では、他者の動作を観察している時に活動し、さらに同じ動作を自身が行っている時にも活動するニューロン群([[ミラーニューロン]])の存在が報告されているが、同様の性質を持つニューロン群が7b野においても見出されている<ref><pubmed>11533734</pubmed></ref>。これらのニューロン群は、他人の動作の理解や模倣等に関係すると考えられている。
=== PO野(V6野)、POa野(V6a野)、7m野、MIP野  ===
 手動作系の到達運動に関係すると考えられており、背側運動前野と相互連絡がある。POa野(V6a野)には頭部座標系における対象位置をコードするニューロン群が存在する。また、サルが到達運動を行っている時に[[方向選択性]]を持って活動するニューロンもあることが知られている<ref><pubmed>14517595</pubmed></ref>。


==関連項目==
==関連項目==