「髄芽腫」の版間の差分

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== 背景、歴史的推移 ==
== 背景、歴史的推移 ==
 髄芽腫は、多分化能を持つと想定された[[髄芽細胞]] (medulloblast)から生じる未分化な胎児性[[脳腫瘍]]として名付けられ、[[神経膠腫]]と区別されてきた<ref name=Bailey1925>'''Bailey, P. and Cushing, H.'''<br>Medulloblastoma Cerebellia: Common Type of Midcerebellar Glioma of Childhood<br>''Arch. Neurol. Psychaitr.'' 1925, 14; 192-224 [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/2/21/Archneurpsyc_14_2_002.pdf PDF]</ref> 。近年までこの腫瘍は、病理学的解析と腫瘍形成部位を基に「髄芽腫」として同一<u>(編集部コメント:均一?均一な集団として?)</u>に扱われてきたが、個々の腫瘍の薬剤への反応性や予後の違いから、腫瘍間の異種性と細分化の必要性が議論されてきた。
 髄芽腫は、多分化能を持つと想定された[[髄芽細胞]] (medulloblast)から生じる未分化な胎児性[[脳腫瘍]]として名付けられ、[[神経膠腫]]と区別されてきた<ref name=Bailey1925>'''Bailey, P. and Cushing, H.'''<br>Medulloblastoma Cerebellia: Common Type of Midcerebellar Glioma of Childhood<br>''Arch. Neurol. Psychaitr.'' 1925, 14; 192-224 [https://bsd.neuroinf.jp/w/images/2/21/Archneurpsyc_14_2_002.pdf PDF]</ref> 。近年までこの腫瘍は、病理学的解析と腫瘍形成部位を基に「髄芽腫」として単一の疾患として治療されてきたが、個々の腫瘍の薬剤への反応性や予後の違いから、腫瘍間の異種性と細分化の必要性が議論されてきた。


 現在ではDNAの[[メチル化]]<ref name=Capper2018><pubmed>29539639</pubmed></ref><ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> や、遺伝子<ref name=Northcott2011><pubmed>20823417</pubmed></ref> あるいはタンパク質の発現<ref name=Forget2018><pubmed>30205043</pubmed></ref><ref name=Archer2018><pubmed>30205044</pubmed></ref> を基に髄芽腫の分子レベルでの細分化が行われ、大別して四つの異なる疾患として個別に研究、治療する必要性が唱えられている<ref name=Taylor2012><pubmed>22134537</pubmed></ref><ref name=Cavalli2017><pubmed>28609654</pubmed></ref><ref name=Schwalbe2017><pubmed>28545823</pubmed></ref> (表1)。
 現在ではDNAの[[メチル化]]<ref name=Capper2018><pubmed>29539639</pubmed></ref><ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> や、遺伝子<ref name=Northcott2011><pubmed>20823417</pubmed></ref> あるいはタンパク質の発現<ref name=Forget2018><pubmed>30205043</pubmed></ref><ref name=Archer2018><pubmed>30205044</pubmed></ref> を基に髄芽腫の分子レベルでの細分化が行われ、大別して四つの異なる疾患として個別に研究、治療する必要性が唱えられている<ref name=Taylor2012><pubmed>22134537</pubmed></ref><ref name=Cavalli2017><pubmed>28609654</pubmed></ref><ref name=Schwalbe2017><pubmed>28545823</pubmed></ref> (表1)。
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==サブグループ ==
==サブグループ ==
=== グループ1 (WNT型) ===
=== グループ1 (WNT型) ===
 [[WNT型髄芽腫]]は主に[[APC]]や[[CTNNB1]]、[[DDX3X]]などに遺伝子変異を持ち<ref name=Waszak2018><pubmed>29753700</pubmed></ref><ref name=Pugh2012><pubmed>22820256</pubmed></ref><ref name=Robinson2012><pubmed>22722829</pubmed></ref> 、[[WNT]]シグナル伝達経路の活性化が特徴的である。[[小脳]][[第四脳室]]から後脳背側部に生じ、主に小細胞性の病理学形態を持つ。歴史的にみて予後も良く、薬剤反応性も高い<ref name=DeSouza2014><pubmed>25101241</pubmed></ref> 。
 [[WNT型髄芽腫]]は主に''[[APC]]''''[[CTNNB1]]''''[[DDX3X]]''などに遺伝子変異を持ち<ref name=Waszak2018><pubmed>29753700</pubmed></ref><ref name=Pugh2012><pubmed>22820256</pubmed></ref><ref name=Robinson2012><pubmed>22722829</pubmed></ref> 、[[WNT]]シグナル伝達経路の活性化が特徴的である。[[小脳]][[第四脳室]]から後脳背側部に生じ、主に小細胞性の病理学形態を持つ。歴史的にみて予後も良く、薬剤反応性も高い<ref name=DeSouza2014><pubmed>25101241</pubmed></ref> 。


 近年の遺伝子組換えマウスを用いた実験から、WNT型髄芽腫は小脳[[神経前駆細胞]]由来ではなく、[[後脳]]背側部の神経前駆細胞より起こることが示されている<ref name=Gibson2010><pubmed>21150899</pubmed></ref> 。WNTシグナルの脳腫瘍内での活性化、[[血液脳関門]]細胞の適切な形成を阻害するため<ref name=Phoenix2016><pubmed>27050100</pubmed></ref> 、薬剤の腫瘍細胞へのアクセスが比較的容易であることが予後良好の原因の一つであると考えられている。
 近年の[[遺伝子組換えマウス]]を用いた実験から、WNT型髄芽腫は小脳[[神経前駆細胞]]由来ではなく、[[後脳]]背側部の神経前駆細胞より起こることが示されている<ref name=Gibson2010><pubmed>21150899</pubmed></ref> 。WNTシグナルの脳腫瘍内での活性化、[[血液脳関門]]細胞の適切な形成を阻害するため<ref name=Phoenix2016><pubmed>27050100</pubmed></ref> 、薬剤の腫瘍細胞へのアクセスが比較的容易であることが予後良好の原因の一つであると考えられている。


===グループ2(SHH型)===
===グループ2(SHH型)===
 [[SHH型髄芽腫]]は[[SHH]]シグナル伝達経路おける遺伝子変異が特徴的である。主な遺伝子変異は[[PTCH1]]、[[SMO]]、[[SUFU]]、あるいは[[MYCN]]などで高頻度に観察される<ref name=Pugh2012><pubmed>22820256</pubmed></ref><ref name=Robinson2012><pubmed>22722829</pubmed></ref> 。そのためマウスを用いた研究を基に、SHHシグナルを活性化する膜タンパク[[Smoothened]]の機能阻害剤<ref name=Romer2004><pubmed>15380514</pubmed></ref> など、SHHシグナル伝達経路の抑制が化学療法の候補として考えられ、実際に適用され始めている<ref name=Robinson2015><pubmed>26169613</pubmed></ref><ref name=Rudin2009><pubmed>19726761</pubmed></ref> 。病理学的には、小脳半球の表層上に観察され、小細胞性のものや大細胞性のものなど様々である一方、結節型の腫瘍はほぼSHH型髄芽腫に属する。
 [[SHH型髄芽腫]]は[[SHH]]シグナル伝達経路おける遺伝子変異が特徴的である。主な遺伝子変異は''[[PTCH1]]''''[[SMO]]''''[[SUFU]]''、[[GLI2]]あるいは''[[MYCN]]''などで高頻度に観察される<ref name=Pugh2012><pubmed>22820256</pubmed></ref><ref name=Robinson2012><pubmed>22722829</pubmed></ref> 。そのためマウスを用いた研究を基に、SHHシグナルを活性化する膜タンパク[[Smoothened]]の機能阻害剤<ref name=Romer2004><pubmed>15380514</pubmed></ref> など、SHHシグナル伝達経路の抑制が化学療法の候補として考えられ、実際に適用され始めている<ref name=Robinson2015><pubmed>26169613</pubmed></ref><ref name=Rudin2009><pubmed>19726761</pubmed></ref> 。病理学的には、小脳半球の表層上に観察され、小細胞性のものや大細胞性のものなど様々である一方、結節型の腫瘍はほぼSHH型髄芽腫に属する。


 遺伝子組換えマウスを用いた豊富な研究から、SHH型は小脳顆粒細胞から生じるとされ<ref name=Yang2008><pubmed>18691548</pubmed></ref><ref name=Schuller2008><pubmed>18691547</pubmed></ref> 、WNT型とは異なる。小児だけでなく成人でも生じるが、遺伝子発現など分子的な特性がお互い異なることから<ref name=Kool2014><pubmed>24651015</pubmed></ref> 、成人髄芽腫は異なる細胞腫<u>(編集部コメント:細胞種?)</u>から生じる可能性もある。またがん抑制遺伝子[[TP53]]の機能欠損変異がみられる腫瘍は非常に予後が不良で、最新のWHO区分でも予後不良の遺伝子型として特別に分類されている<ref name=Pickles2018><pubmed>28949028</pubmed></ref> 。
 遺伝子組換えマウスを用いた豊富な研究から、SHH型は小脳[[顆粒細胞]]から生じるとされ<ref name=Yang2008><pubmed>18691548</pubmed></ref><ref name=Schuller2008><pubmed>18691547</pubmed></ref> 、WNT型とは異なる。小児だけでなく成人でも生じるが、遺伝子発現など分子的な特性がお互い異なることから<ref name=Kool2014><pubmed>24651015</pubmed></ref> 、成人髄芽腫は異なる細胞種から生じる可能性もある。またがん抑制遺伝子''[[TP53]]''の機能欠損変異がみられる腫瘍は非常に予後が不良で、最新のWHO区分でも予後不良の遺伝子型として特別に分類されている<ref name=Pickles2018><pubmed>28949028</pubmed></ref> 。


 さらに、PTCH1欠損変異をもつSHH型腫瘍モデルを用いた実験で、[[Sox2]]+ あるいは[[CD15]]+の腫瘍細胞ががん幹細胞として働くことが示唆されており<ref name=Read2009><pubmed>19185848</pubmed></ref><ref name=Ward2009><pubmed>19487286</pubmed></ref><ref name=Vanner2014><pubmed>24954133</pubmed></ref> 、それらの細胞をもちいた薬剤スクリーニングの研究も報告されはじめている<ref name=Markant2013><pubmed>24067506</pubmed></ref> 。
 さらに、''PTCH1''欠損変異をもつSHH型腫瘍モデルを用いた実験で、[[Sox2]]+ あるいは[[CD15]]+の腫瘍細胞ががん幹細胞として働くことが示唆されており<ref name=Read2009><pubmed>19185848</pubmed></ref><ref name=Ward2009><pubmed>19487286</pubmed></ref><ref name=Vanner2014><pubmed>24954133</pubmed></ref> 、それらの細胞をもちいた薬剤スクリーニングの研究も報告されはじめている<ref name=Markant2013><pubmed>24067506</pubmed></ref> 。


===グループ3===
===グループ3===
 [[グループ3型髄芽腫]]は最も予後が悪いとされ、主に[[wj:がん遺伝子|がん遺伝子]][[MYC]]の高発現が特徴的である<ref name=Taylor2012><pubmed>22134537</pubmed></ref> 。最新のWHO区分では上述のTP53変異を持つSHH型と並び、MYC増幅型は予後不良と分類される<ref name=Pfister2009><pubmed>19255330</pubmed></ref> 。最近の研究によりヒトグループ3髄芽腫の約17%および5%がそれぞれMYCとMYCN増幅型であるとされ<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> 、遺伝子組換えマウスを用いた研究でMYCやMYCNがグループ3髄芽腫の形成に重要であることが示されている<ref name=Kawauchi2017><pubmed>28504719</pubmed></ref><ref name=Kawauchi2012><pubmed>22340591</pubmed></ref><ref name=Pei2012><pubmed>22340590</pubmed></ref><ref name=Hill2015><pubmed>25533335</pubmed></ref> 。また、腫瘍細胞内で起こるDNA再配列により異常に活性化された[[GFI1]]および[[GFI1B]]がグループ3腫瘍細胞の成長に関わっており<ref name=Lee2019><pubmed>30659187</pubmed></ref><ref name=Northcott2014><pubmed>25043047</pubmed></ref> 、協調して機能する[[Lsd1]]1が標的となる可能性も示唆されている<ref name=Lee2019><pubmed>30659187</pubmed></ref> 。しかしながら、残りのグループ3髄芽腫の形成を誘発するがん遺伝子は未だ同定、証明されていない。
 [[グループ3型髄芽腫]]は最も予後が悪いとされ、主に[[wj:がん遺伝子|がん遺伝子]]''[[MYC]]''の高発現が特徴的である<ref name=Taylor2012><pubmed>22134537</pubmed></ref> 。最新のWHO区分では上述の[[TP53]]変異を持つSHH型と並び、''MYC''増幅型は予後不良と分類される<ref name=Pfister2009><pubmed>19255330</pubmed></ref> 。最近の研究によりヒトグループ3髄芽腫の約17%および5%がそれぞれMYCとMYCN増幅型であるとされ<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> 、遺伝子組換えマウスを用いた研究で''MYC''や''MYCN''がグループ3髄芽腫の形成に重要であることが示されている<ref name=Kawauchi2017><pubmed>28504719</pubmed></ref><ref name=Kawauchi2012><pubmed>22340591</pubmed></ref><ref name=Pei2012><pubmed>22340590</pubmed></ref><ref name=Hill2015><pubmed>25533335</pubmed></ref> 。また、腫瘍細胞内で起こるDNA再配列により誘導された''[[GFI1]]''および''[[GFI1B]]''がグループ3腫瘍細胞の成長に関わっており<ref name=Lee2019><pubmed>30659187</pubmed></ref><ref name=Northcott2014><pubmed>25043047</pubmed></ref> 、協調して機能する''[[Lsd1]]''が標的となる可能性も示唆されている<ref name=Lee2019><pubmed>30659187</pubmed></ref> 。しかしながら、残りのグループ3髄芽腫の形成を誘発するがん遺伝子は未だ同定、証明されていない。


 マウスにおいては複数の異なる細胞群からMYC増幅型髄芽腫が誘導されることが示されており<ref name=Kawauchi2017><pubmed>28504719</pubmed></ref> 、正確な起源細胞の同定にはさらなる研究結果が待たれる。
 マウスにおいては複数の異なる細胞群から''MYC''増幅型髄芽腫が誘導されることが示されており<ref name=Kawauchi2017><pubmed>28504719</pubmed></ref> 、正確な起源細胞の同定にはさらなる研究結果が待たれる。


=== グループ4 ===
=== グループ4 ===
 [[グループ4型髄芽腫]]は髄芽腫全体の最も大きい割合を占める。上述の他の髄芽腫型に比べ、異種性、多様性に富んでいる<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> 。グループ4髄芽腫の6%でがん遺伝子MYCNの増幅がみられる<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> 。ヒト髄芽腫のゲノム解析から、[[PRDM6]]の増幅や[[KDM6]]の機能欠損変異がグループ4特異的に高頻度でみられる<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> が、これらの遺伝子変異の腫瘍進展への影響はよく知られていない。一方で、最近のヒト髄芽腫のプロテオミクス解析から、グループ4特異的にSRCシグナルの活性化が発見され、マウス実験によりSRCの異常活性がグループ4髄芽腫を誘導する要因の一つであることが示されている<ref name=Forget2018><pubmed>30205043</pubmed></ref> 。どの細胞から生まれるかについては生物学的実験からは未だ特定されていない。
 [[グループ4型髄芽腫]]は髄芽腫全体の最も大きい割合を占める。上述の他の髄芽腫型に比べ、異種性、多様性に富んでいる<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> 。グループ4髄芽腫の6%でがん遺伝子''MYCN''の増幅がみられる<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> 。ヒト髄芽腫のゲノム解析から、''[[PRDM6]]''の増幅や''[[KDM6]]''の機能欠損変異がグループ4特異的に高頻度でみられる<ref name=Northcott2017><pubmed>28726821</pubmed></ref> が、これらの遺伝子変異の腫瘍進展への影響はよく知られていない。一方で、最近のヒト髄芽腫のプロテオミクス解析から、グループ4特異的にSRCシグナルの活性化が発見され、マウス実験によりSRCの異常活性がグループ4髄芽腫を誘導する要因の一つであることが示されている<ref name=Forget2018><pubmed>30205043</pubmed></ref> 。どの細胞から生まれるかについては生物学的実験からは未だ特定されていない。


 近年の科学技術の進展により、脳腫瘍の分子レベルでの分類は、遺伝子発現によってだけでなく、たんぱく質の発現やサブグループ特異的な[[エンハンサー]]の同定、DNAのメチル化といった様々なレベルで解析が進んでいる。その中でも髄芽腫の分子解析は最も先んじており、より正確な腫瘍の区分化と診断がおこなわれつつある<ref name=Ramaswamy2016><pubmed>27040285</pubmed></ref> 。また、一細胞レベルでの遺伝子発現解析から、一つの腫瘍内での腫瘍細胞の多様性が分子レベルで確認され始め、腫瘍の薬剤耐性を説明する手がかりも得られつつある。
 近年の科学技術の進展により、脳腫瘍の分子レベルでの分類は、遺伝子発現によってだけでなく、たんぱく質の発現やサブグループ特異的な[[エンハンサー]]の同定、DNAのメチル化といった様々なレベルで解析が進んでいる。その中でも髄芽腫の分子解析は最も先んじており、より正確な腫瘍の区分化と診断がおこなわれつつある<ref name=Ramaswamy2016><pubmed>27040285</pubmed></ref> 。また、一細胞レベルでの遺伝子発現解析から、一つの腫瘍内での腫瘍細胞の多様性が分子レベルで確認され始め、腫瘍の薬剤耐性を説明する手がかりも得られつつある。
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== 疫学 ==
== 疫学 ==
 髄芽腫は小児脳腫瘍の中では頻度が高く、アメリカでは20歳未満の脳腫瘍患者の全体の約20%を占め、年間約500前後が新規に髄芽腫と診断されている。患者の平均年齢は5-7歳であり、約70%の腫瘍が10歳未満に発見される<ref name=Johnson2014><pubmed>25192704</pubmed></ref> 。およそ5-6%の症例は、TP53やPTCH1、ELP1、BRCA2、APCなどに遺伝子変異を持つ[[wj:腫瘍傾向症候群|腫瘍傾向症候群]]の患者で観察される<ref name=Waszak2018><pubmed>29753700</pubmed></ref> 。全体としての生存率は転移の有無で異なり、[[脊髄]]転移のない場合で70-80%だが、転移が認められると50-60%まで低下する。
 髄芽腫は小児脳腫瘍の中では頻度が高く、アメリカでは20歳未満の脳腫瘍患者の全体の約20%を占め、年間約500前後が新規に髄芽腫と診断されている。患者の平均年齢は5-7歳であり、約70%の腫瘍が10歳未満に発見される<ref name=Johnson2014><pubmed>25192704</pubmed></ref> 。およそ5-6%の症例は、''TP53''や''PTCH1''、''ELP1''、''BRCA2''、''APC''などに遺伝子変異を持つ[[wj:腫瘍傾向症候群|腫瘍傾向症候群]]の患者で観察される<ref name=Waszak2018><pubmed>29753700</pubmed></ref> 。全体としての生存率は転移の有無で異なり、[[脊髄]]転移のない場合で70-80%だが、転移が認められると50-60%まで低下する。


 ヨーロッパの症例研究ではWNT型は95%の10年生存率である一方、SHH型、グループ3型の10年生存率はそれぞれ50%および51%である<ref name=Kool2012><pubmed>22358457</pubmed></ref> 。未成年と成人の髄芽腫の生存率比較は、いくつかの研究で結論が異なっているが<ref name=Curran2009><pubmed>19396401</pubmed></ref><ref name=Lai2008><pubmed>18278809</pubmed></ref><ref name=Li2018><pubmed>30046397</pubmed></ref> 、2018年のSEERデータベースを基にした疫学研究では、10年生存率はほぼ等しく約67%であると報告されている<ref name=Li2018><pubmed>30046397</pubmed></ref> 。
 ヨーロッパの症例研究ではWNT型は95%の10年生存率である一方、SHH型、グループ3型の10年生存率はそれぞれ50%および51%である<ref name=Kool2012><pubmed>22358457</pubmed></ref> 。未成年と成人の髄芽腫の生存率比較は、いくつかの研究で結論が異なっているが<ref name=Curran2009><pubmed>19396401</pubmed></ref><ref name=Lai2008><pubmed>18278809</pubmed></ref><ref name=Li2018><pubmed>30046397</pubmed></ref> 、2018年のSEERデータベースを基にした疫学研究では、10年生存率はほぼ等しく約67%であると報告されている<ref name=Li2018><pubmed>30046397</pubmed></ref> 。
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 標準リスク群では[[wj:アルキル化剤|アルキル化剤]]に分類される[[wj:シクロフォスファミド|シクロフォスファミド]](cyclophosphamide), [[wj:プラチナ製剤|プラチナ製剤]]である[[wj:シスプラチン|シスプラチン]](cisplatin), [[wj:微小管|微小管]]重合の[[阻害剤]]である[[wj:ビンクリスチン|ビンクリスチン]](vincristine), [[wj:トポイソメラーゼⅡ|トポイソメラーゼⅡ]]阻害剤である[[エトポシド]](etoposide)を組み合わせた化学療法([[ICE療法]]や[[PackerBレジメン]]と呼ばれている)に[[wj:メトトレキサート|メトトレキサート]](Methotrexate, MTX)を髄注するプロトコールを用いて行われ<ref name=Packer2006><pubmed>16943538</pubmed></ref> 、高リスク群ではそれらのプロトコールに加え[[wj:ナイトロジェン・マスタード|ナイトロジェン・マスタード]]系の[[wj:アルキル化剤|アルキル化剤]]である[[wj:チオテパ|チオテパ]](Thiotepa)やアルキル化剤に分類される抗がん剤である[[wj:メルファラン|メルファラン]](Melphalan,L-PAM)を用いた大量化学療法を行うレジメンが行われている。
 標準リスク群では[[wj:アルキル化剤|アルキル化剤]]に分類される[[wj:シクロフォスファミド|シクロフォスファミド]](cyclophosphamide), [[wj:プラチナ製剤|プラチナ製剤]]である[[wj:シスプラチン|シスプラチン]](cisplatin), [[wj:微小管|微小管]]重合の[[阻害剤]]である[[wj:ビンクリスチン|ビンクリスチン]](vincristine), [[wj:トポイソメラーゼⅡ|トポイソメラーゼⅡ]]阻害剤である[[エトポシド]](etoposide)を組み合わせた化学療法([[ICE療法]]や[[PackerBレジメン]]と呼ばれている)に[[wj:メトトレキサート|メトトレキサート]](Methotrexate, MTX)を髄注するプロトコールを用いて行われ<ref name=Packer2006><pubmed>16943538</pubmed></ref> 、高リスク群ではそれらのプロトコールに加え[[wj:ナイトロジェン・マスタード|ナイトロジェン・マスタード]]系の[[wj:アルキル化剤|アルキル化剤]]である[[wj:チオテパ|チオテパ]](Thiotepa)やアルキル化剤に分類される抗がん剤である[[wj:メルファラン|メルファラン]](Melphalan,L-PAM)を用いた大量化学療法を行うレジメンが行われている。


 またサブグループの発見後はサブグループ毎に分子標的薬の臨床研究も海外では行われており、SHH typeの髄芽腫に対してSHHのpathwayの一つであるSMOの阻害剤である[[wj:vismodenib|vismodenib]]を使用した臨床試験の報告が報告されており、有効例が報告されている<ref name=Robinson2015><pubmed>26169613</pubmed></ref> 。
 またサブグループの発見後はサブグループ毎に分子標的薬の臨床研究も海外では行われており、SHH typeの髄芽腫に対してSHHのpathwayの一つであるSMOの阻害剤である[[wj:ビスモデギブ|ビスモデギブ]]を使用した臨床試験の報告が報告されており、有効例が報告されている<ref name=Robinson2015><pubmed>26169613</pubmed></ref> 。


 今後はこのようなサブグループ毎に分子標的薬の臨床試験が進むものと思われる。
 今後はこのようなサブグループ毎に分子標的薬の臨床試験が進むものと思われる。
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|-
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! 標準リスク
! 標準リスク
|  ||TP53 wildtype<br>MYCN増幅(-)<br>髄膜播種(-)||MYCN増幅(-)<br>かつ<br>髄膜播種(-)"||髄膜播種(-)<br>かつ<br>chromosome 11 loss(-)
|  ||''TP53'' wildtype<br>''MYCN''増幅(-)<br>髄膜播種(-)||''MYCN''増幅(-)<br>かつ<br>髄膜播種(-)"||髄膜播種(-)<br>かつ<br>chromosome 11 loss(-)
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! 高リスク
! 高リスク
|  || いずれかもしくは両方<br>MYCN増幅(+)<br>髄膜播種(+)"||  || 髄膜播種(+)
|  || いずれかもしくは両方<br>''MYCN''増幅(+)<br>髄膜播種(+)"||  || 髄膜播種(+)
|-
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! 超高リスク
! 超高リスク
|  || TP53 変異(+) || 髄膜播種(+) ||
|  || ''TP53''変異(+) || 髄膜播種(+) ||
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|-
! 不明
! 不明
| 髄膜播種(+) ||  || MYC増幅(+)<br>かつ<br>髄膜播種(-)<br>病理組織上の異形成性<br>Isochromosome 17q(+)||病理組織上の異形成性
| 髄膜播種(+) ||  || ''MYC''増幅(+)<br>かつ<br>髄膜播種(-)<br>病理組織上の異形成性<br>Isochromosome 17q(+)||病理組織上の異形成性
|}
|}


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=== 白質脳症 ===
=== 白質脳症 ===
 髄芽腫の治療において、メトトレキサート(Methotrexate, MTX)を髄注した際に出現する晩期障害である。[[運動障害]](歩行時のもつれなど)や[[認知機能障害]]([[認知症]]様症状)<u>編集部コメント:痴呆という言葉は現在では認知症と置き換えられているのでそれに合わせました</u>を呈する。
 髄芽腫の治療において、メトトレキサート(Methotrexate, MTX)を髄注した際に出現する晩期障害である。[[運動障害]](歩行時のもつれなど)や[[認知機能障害]]([[認知症]]様症状を呈する。


=== 内分泌障害 ===
=== 内分泌障害 ===