高次運動野

提供:脳科学辞典
2012年3月23日 (金) 18:47時点におけるKeisetsushima (トーク | 投稿記録)による版

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高次運動関連領野の分類

霊長類動物(サル)では、古典的には Brodmann (1909), およびVogt and Vogt (1919) (図1)が細胞構築から、現在の運動関連領野区分けの原形となる優れた分類を行っている。少し古い脳生理・解剖学の教科書、あるいは専門書の記述では、皮質前頭葉の一次運動野(M1)は、中心溝のすぐ前方に位置しており、M1の前方の外側面には運動前野 (PM) が、内側面には補足運動野(SMA)が記載されている。  その後の研究により、大脳皮質外側面の運動関連領野の分類に関して、主に3つの運動野、すなわちM1, PMd, およびPMcに区分される時期が続いた。しかし、最近の研究により、より細分されることが明らかになり、PMdとPMcは、それぞれ前後方向に2つの領域、PMdr と PMdc 、およびPMvr と PMvcに区分されることが多く、外側面全体では5つの運動野に区分けされるようになっている(Takada et al., 2004)(図2)。Rizzolatti のグループによる類似の区分け(F命名法)を図3に示す(Rizzolatti1 and Luppino, 2001)。一方、Barbas and Pandya (1987) (see also Morecraft et al., 2004)はPMv を前後方向ではなく、上・下方向(6Vaと6Vb)に細分しているが(図4)、現在までの生理学的知見では前後方向に区分するのが適当であるように思われる。 上記の外側面に存在する5つの運動関連領野に加えて、大脳半球内側面にも、大まかに区分して3つの運動関連領野、すなわち補足運動野(SMA),前補足運動野(Pre-SMA)、および帯状皮質運動野が存在する。帯状皮質運動野は正確には吻側帯状皮質運動野(CMAr)と、2つの尾側帯状皮質運動野(CMAdとCMAv)に区分されるので、正確には大脳内側面には5つの運動関連領野が存在すると言える (Dum and Strick, 1991, 2002, He et al., 1995, Picard and Strick, 1996) (図5)。まとめると、サルの大脳皮質には、M1を含め、合計10個の運動関連領野が存在する(眼球運動関連領野を除く)。 これら10ヶ所の運動関連領野の働きについては現在、精力的に研究が進められているものの、各領野の実体の解明は簡単ではなく、例えばM1の機能に関してでさえ、運動のパラメター、例えば力の大きさ、方向、距離などの制御に関わっていることに疑いはないものの、M1の特定の細胞が、どのパラメターの制御に関わっているかを因果関係的に証明するのは簡単ではない (cf. Georgopoulos et al., 1989)。また、運動前野 (PM) の背側部 (PMd) と腹側部 (PMv) で機能の一端が生理学的に明らかになったのは近年になってからである(Hoshi and Tanji, 2007, Kurata, 2007, 2010, Wise, 1985)。各々の領域に関する詳細については各論を参照されたい。 最後に、図6にヒトの運動関連領野の区分をBrodmann の地図に重ねて表示したもの(虫明と宮井、2007)、および帯状皮質の部分を拡大したマップ(Ridderinkhof et al., 2004)を示した。ヒトとサルの運動関連領野の構成は基本的に相同であると思われるが、実験上の制限から、解剖学および生理学的にサルで適用されているような区分けは現状では難しい。特に、帯状皮質運動野に関して、サルでは吻側帯状皮質運動野はBrodmann の24野、尾側帯状皮質運動野は23野に存在するが、ヒトでは前帯状皮質運動野(RCZ: rostral cingulate zone, 或いはACC: anterior cingulate cortex)の本体はBrodmann の32野(一部24野)にあり、後帯状皮質運動野(CCZ: caudal cingulate zone)は、ほぼ24野に位置している(Ridderinkhof et al., 2004)(図6)。近年、ヒトとサルの詳細についての比較なしに、ACCの機能仮説を組み立てている総説・論文があるが、主たる根拠となっているヒトf-MRI 実験から導かれた仮説とサル細胞活動から得られた説の整合性には注意深い実験内容(記録部位・課題設定)の比較検証が必須である。