「22q11.2欠失症候群および22q11.2重複症候群」の版間の差分

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''国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
''国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年9月17日 原稿完成日:2015年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2015年9月17日 原稿完成日:2015年月日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/ryosuketakahashi 高橋 良輔](京都大学 大学院医学研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/read0141446 漆谷 真](京都大学 大学院医学研究科)<br>
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 その後、これらの症候群が実は同じ[[wikipedia:ja:染色体異常|染色体異常]]に由来することが判明したが<ref name=ref1><pubmed>1360769</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>1349199</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>2045103</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>1349369</pubmed></ref>、どの用語を使うかで学会が分裂し用語論争と先取権争いに発展した。しかしそれらの動きは患者の利益に繋がらないことから、用語をその遺伝的機序に基づき22q11欠失症候群に統一する動きがある。
 その後、これらの症候群が実は同じ[[wikipedia:ja:染色体異常|染色体異常]]に由来することが判明したが<ref name=ref1><pubmed>1360769</pubmed></ref> <ref name=ref2><pubmed>1349199</pubmed></ref> <ref name=ref3><pubmed>2045103</pubmed></ref> <ref name=ref4><pubmed>1349369</pubmed></ref>、どの用語を使うかで学会が分裂し用語論争と先取権争いに発展した。しかしそれらの動きは患者の利益に繋がらないことから、用語をその遺伝的機序に基づき22q11欠失症候群に統一する動きがある。


 22q11欠失患者では、[[知的障害]]、[[ADHD]]、[[統合失調症]]、[[自閉症スペクトラム障害]]の発症が認められ、22q11重複患者でも[[認知機能]]の低下および知的障害や[[自閉症]]スペクトラム障害が高い頻度で生じる<ref name=ref5><pubmed>23917946</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>24577245</pubmed></ref>。その後、[[精神疾患]]患者のサンプルで報告された[[copy number variant]]([[CNV]])と総称される[[染色体]]変異は各精神疾患診断名の中で1%以下の割合で存在し、それゆえに他の精神疾患関連CNVと併せてrare copy number variantsと総称されるものの中にも22q11.2欠失および重複は含まれていることがわかった<ref name=ref7><pubmed>22424231</pubmed></ref>。
 22q11欠失患者では、[[知的障害]]、[[ADHD]]、[[統合失調症]]、[[自閉症スペクトラム障害]]の発症が認められ、22q11重複患者でも[[認知機能]]の低下および知的障害や[[自閉症]]スペクトラム障害が高い頻度で生じる<ref name=ref5><pubmed>23917946</pubmed></ref> <ref name=ref6><pubmed>24577245</pubmed></ref>。その後、[[精神疾患]]患者のサンプルで報告された[[コピー数変化]]([[CNV]])と総称される[[染色体]]変異は各精神疾患診断名の中で1%以下の割合で存在し、それゆえに他の精神疾患関連CNVと併せてrare copy number variantsと総称されるものの中にも22q11.2欠失および重複は含まれていることがわかった<ref name=ref7><pubmed>22424231</pubmed></ref>。
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|+ 表1.22q11.2欠失症候群の別名
|+ 表1.22q11.2欠失症候群の別名
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 [[Sept5|''Sept5'']]欠損マウスは、社会行動に選択的な異常を示す<ref name=ref21 /> <ref name=ref30><pubmed>22589251</pubmed></ref>。認知機能の重要な要素である[[作業記憶]]は、''Tbx1''欠損28および''Dgcr8''欠損<ref name=ref31><pubmed>24904170</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>23719809</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>18469815</pubmed></ref>で異常を呈する。
 [[Sept5|''Sept5'']]欠損マウスは、社会行動に選択的な異常を示す<ref name=ref21 /> <ref name=ref30><pubmed>22589251</pubmed></ref>。認知機能の重要な要素である[[作業記憶]]は、''Tbx1''欠損28および''Dgcr8''欠損<ref name=ref31><pubmed>24904170</pubmed></ref> <ref name=ref32><pubmed>23719809</pubmed></ref> <ref name=ref33><pubmed>18469815</pubmed></ref>で異常を呈する。


 22q11.2重複については、ヒト22q11.2ゲノム領域を含んだBAC(bacterial artificial chromosome)クローンを用いて[[トランスジェニックマウス]]を作成し、複数遺伝子を過剰発現させた場合の解析が進んでいる<ref name=ref5 />。''SEPT5''、[[GP1BB|''GP1BB'']]、''TBX1''、[[GNB1|''GNB1L'']]を含む200 kbのヒト22q11.2相当部位を過剰発現させたマウスでは、[[抗精神薬]]で抑えられる活動量亢進を示し、社会行動の低下がみられた<ref name=ref34><pubmed>16365290</pubmed></ref>。その隣接部位190 kbの染色体領域は、[[TXNRD2|''TXNRD2'']]、[[COMT|''COMT'']]、[[ARVCF|''ARVCF'']]を含み、この部位の過剰発現は作業記憶を選択的に障害した<ref name=ref35><pubmed>19617637</pubmed></ref>。これらの遺伝子の過剰発現が、さまざまな精神疾患のいろいろな側面に関与していると推定されている。
 22q11.2重複については、ヒト22q11.2ゲノム領域を含んだ[[wj:ベクター (遺伝子工学)#人工染色体ベクター|BAC]]([[wj:ベクター (遺伝子工学)#人工染色体ベクター|bacterial artificial chromosome]])クローンを用いて[[トランスジェニックマウス]]を作成し、複数遺伝子を過剰発現させた場合の解析が進んでいる<ref name=ref5 />。''SEPT5''、[[GP1BB|''GP1BB'']]、''TBX1''、[[GNB1|''GNB1L'']]を含む200 kbのヒト22q11.2相当部位を過剰発現させたマウスでは、[[抗精神薬]]で抑えられる活動量亢進を示し、社会行動の低下がみられた<ref name=ref34><pubmed>16365290</pubmed></ref>。その隣接部位190 kbの染色体領域は、[[TXNRD2|''TXNRD2'']]、[[COMT|''COMT'']]、[[ARVCF|''ARVCF'']]を含み、この部位の過剰発現は作業記憶を選択的に障害した<ref name=ref35><pubmed>19617637</pubmed></ref>。これらの遺伝子の過剰発現が、さまざまな精神疾患のいろいろな側面に関与していると推定されている。


==治療==
==治療==
 現時点で22q11.2欠失・重複自体の治療法はないが、症候群内の個々の症状に対してはさまざまな治療法が施されている。心臓疾患は修復外科手術により生存率が高まり、胸腺欠如は胸腺移植手術によって機能が回復し、[[wikipedia:ja:細菌|細菌]][[wikipedia:ja:感染症|感染症]]は[[wikipedia:ja:抗生物質|抗生物質]]で対処できる。副甲状腺機能低下症に起因する[[wikipedia:ja:低カルシウム血症|低カルシウム血症]]は、[[wikipedia:ja:ビタミンD|ビタミンD]]や[[カルシウム]]サプリメントで補正される。精神症状には向精神薬等が用いられる。認知機能の遅れや知的障害、学習困難に対しては、専門機関、専門家による療育プログラムが施行されている。
 現時点で22q11.2欠失・重複自体の治療法はないが、症候群内の個々の症状に対してはさまざまな治療法が施されている。心臓疾患は修復外科手術により生存率が高まり、胸腺欠如は胸腺移植手術によって機能が回復し、[[wikipedia:ja:細菌|細菌]][[wikipedia:ja:感染症|感染症]]は[[wikipedia:ja:抗生物質|抗生物質]]で対処できる。副甲状腺機能低下症に起因する[[wikipedia:ja:低カルシウム血症|低カルシウム血症]]は、[[wikipedia:ja:ビタミンD|ビタミンD]]や[[カルシウム]]サプリメントで補正される。精神症状には向精神薬等が用いられる。認知機能の遅れや知的障害、学習困難に対しては、専門機関、専門家による療育プログラムが施行されている。
==関連項目==
*[[コピー数変化]]


==参考文献==
==参考文献==
<references />
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