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英語名:Ca2+-dependent activator protein for secretion (CAPS)
<div align="right"> 
<font size="+1">[http://researchmap.jp/sadakata 定方 哲史]</font><[[br]]>
''群馬大学 先端科学研究指導者育成ユニット''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2012年3月16日 原稿完成日:2012年3月30日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/michisukeyuzaki 柚崎 通介](慶應義塾大学 医学部生理学)<br>
</div>


 脊椎動物においてはCAPS1、CAPS2の2つのファミリーメンバーが存在する(Official gene symbolはそれぞれCadps, Cadps2)が、センチュウやショウジョウバエにおいてはパラログは存在せず、一遺伝子のみである。
{{PBB|geneid=8618}}
{{PBB|geneid=93664}}
英語名:Ca<sup>2+</sup>-dependent activator protein for secretion (CAPS)


{{box|text=
 有芯小胞の輸送・分泌に関与する145kDaの水溶性タンパク質。神経系、および内分泌系の細胞に発現が見られる。自閉症や糖尿病などとの関連が示唆されている。
}}


== 研究の歴史 ==
==ファミリー==


 1992年、145kDのタンパク質がCa2+依存的な有芯小胞(DCV)の分泌に重要であることが報告された<ref><pubmed>1516133</pubmed></ref>。後にCAPS1 cDNAがクローニングされ、線虫UNC-31のセキツイ動物ホモログであることが明らかになった<ref><pubmed>9289490</pubmed></ref>。さらにCAPS1のPHドメインはPhosphatidylserine, Phosphatidylinositol 4,5-bisphosphateを介して細胞膜に結合すること、C末の135アミノ酸が有芯小胞に結合することなどが分かってきた<ref><pubmed>11927595</pubmed></ref>。2004年には、CAPS1の働きとして、有芯小胞のpriming stepに関与すると報告された<ref><pubmed>15312653</pubmed></ref>。これがCAPS1の働きとしての最初の主張である。しかし、後のCAPS1 KOマウスを用いた報告では、CAPS1がpriming stepに重要であるという結論を否定し、有芯小胞へのカテコラミンのloading stepに働いているという主張がされた<ref><pubmed>15820695</pubmed></ref>。その後、同グループはCAPS1とCAPS2はシナプス小胞のプライミングステップに関与すると大幅に主張を変えている<ref><pubmed>18022372</pubmed></ref>。また、CAPS1はゴルジ膜における有芯小胞の生合成に関与するという報告もあり<ref><pubmed>20921225</pubmed></ref>、CAPSタンパク質の働きとしては、有芯小胞の分泌に関与することは明らかなものの、どのステップに関与しているのかについては未だ統一的な見解がない。
 脊椎動物においてはCAPS1、CAPS2の2つのファミリーメンバーが存在する(Official gene symbolはそれぞれCadps, Cadps2)が、[[線虫]]や[[wikipedia:ja:ショウジョウバエ|ショウジョウバエ]]においては[[wikipedia:ja:遺伝子重複#.E3.83.91.E3.83.A9.E3.83.AD.E3.82.B0.E3.81.A8.E3.82.AA.E3.83.BC.E3.82.BD.E3.83.AD.E3.82.B0|パラログ]]は存在せず、一遺伝子のみである。


== 機能 ==


== 構造 ==
 1992年、145kDのタンパク質がCa<sup>2+</sup>依存的な[[有芯小胞]](DCV)の分泌に重要であることが報告された<ref><[[pubmed]]>1516133</pubmed></ref>。後にCAPS1 [[wikipedia:ja:cDNA|cDNA]]cDNAが[[wikipedia:ja:クローニング|クローニング]]クローニングされ、線虫UNC-31の脊椎動物ホモログであることが明らかになった<ref><pubmed>9289490</pubmed></ref>。さらにCAPS1の[[wikipedia:Pleckstrin homology domain|PHドメイン]]は[[wikipedia:ja:ホスファチジルセリン|ホスファチジルセリン]]、[[ホスファチジルイノシトール|ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸]]を介して [[細胞膜]]に結合すること、C末の135アミノ酸が有芯小胞に結合することなどが分かってきた<ref><pubmed>11927595</pubmed></ref>。2004年には、CAPS1の働きとして、有芯小胞のプライミングステップに関与すると報告された<ref><pubmed>15312653</pubmed></ref>。これがCAPS1の働きとしての最初の主張である。しかし、後のCAPS1 KOマウスを用いた報告では、CAPS1がプライミングステップに重要であるという結論を否定し、有芯小胞への[[カテコールアミン]]のローディングステップに働いているという主張がされた<ref><pubmed>15820695</pubmed></ref>。その後、同グループはCAPS1とCAPS2はシナプス小胞のプライミングステップに関与すると大幅に主張を変えている<ref><pubmed>18022372</pubmed></ref>。また、CAPS1は[[ゴルジ体|ゴルジ]]膜における有芯小胞の生合成に関与するという報告もあり<ref><pubmed>20921225</pubmed></ref>、CAPSタンパク質の働きとしては、有芯小胞の分泌に関与することは明らかなものの、どのステップに関与しているのかについては未だ統一的な見解がない。


 CAPS1、CAPS2ともに、C2ドメイン、PHドメインを有し、C末の135アミノ酸で有芯小胞に結合する。C末側はシナプス小胞のプライミングステップに関与するタンパク質であるMunc13と低い相同性がある(図1)。


== 構造 ==
 CAPS1、CAPS2ともに、[[wikipedia:C2_domain|C2ドメイン]]、PHドメインを有し、C末の135アミノ酸で有芯小胞に結合する。C末側はシナプス小胞のプライミングステップに関与するタンパク質であるMunc13と低い相同性がある(図1)。[[Image:CAPS図1.jpg|thumb|center|300px|'''図1.CAPSタンパク質の構造''']]


== 分布 ==
== 分布 ==


 脳組織においてCAPS1は幅広く発現するが、CAPS2は特異的な細胞のみで発現する。CAPS2発現細胞としては、大脳インターニューロン(一部)、海馬の顆粒細胞・CA1錐体細胞・インターニューロン(一部)、小脳の顆粒細胞、中脳のドーパミン産生細胞、海馬台、手綱核で強い発現が見られる。CAPS1に関しては殆どの神経細胞で発現が見られる。
 脳組織において[http://mouse.brain-map.org/gene/show/26807 CAPS1]は幅広く発現するが、[http://mouse.brain-map.org/experiment/show/69540266 CAPS2]は特異的な細胞のみで発現する。CAPS2発現細胞としては、[[大脳]][[介在ニューロン]](一部)、[[海馬]]の[[顆粒細胞]]・[[CA1]][[錐体細胞]]・介在ニューロン(一部)、[[小脳]]の顆粒細胞、[[中脳]]の[[ドーパミン]]産生細胞、[[海馬台]]、[[手綱核]]で強い発現が見られる。CAPS1に関しては殆どの神経細胞で発現が見られる。
 
 脳以外では、副腎髄質、ランゲルハンス島などでCAPS1の強い発現が見られ、甲状腺のC細胞、胃主細胞、気管支上皮などでCAPS2の強い発現が見られる。


 脳以外では、[[副腎髄質]]、 [[wikipedia:ja:ランゲルハンス島|ランゲルハンス島]]などでCAPS1の強い発現が見られ、 [[wikipedia:ja:甲状腺|甲状腺]]の[[wikipedia:ja:濾胞傍細胞|C細胞]]、 [[wikipedia:ja:胃|胃]][[wikipedia:ja:主細胞 (胃)|主細胞]]、 [[wikipedia:ja:気管|気管]]支上皮などでCAPS2の強い発現が見られる。


== 疾患との関係 ==
== 疾患との関係 ==


 CAPS2遺伝子はヒト7番染色体長腕部にある自閉症責任領域(AUTS1)に位置している。自閉症は、三歳までに発病する精神疾患として知られ、“対人関係における障害”、“言語などによるコミュニケーションの障害”、“興味の限局、反復的で常同的な行動”を特徴とした疾患である。人口千人当たり一人以上の割合で発症する非常に発症率の高い病気であるが、その発症メカニズムは明らかになっていない。一卵性双生児の一致率が70~90%であることから、遺伝子の異常が関与すると考えられている。
 CAPS2遺伝子はヒト7番染色体長腕部にある自閉症責任領域(AUTS1)に位置している。[[自閉症]]は、三歳までに発病する[[精神疾患]]として知られ、「対人関係における障害」、「言語などによるコミュニケーションの障害」、「興味の限局、反復的で常同的な行動」を特徴とした疾患である。人口千人当たり一人以上の割合で発症する非常に発症率の高い病気であるが、その発症メカニズムは明らかになっていない。 [[wikipedia:ja:一卵性双生児|一卵性双生児]]の一致率が70~90%であることから、遺伝子の異常が関与すると考えられている。


 CAPS2 KOマウスは、社会性行動の異常、母性行動の異常、多動、新奇環境への適応力の低下、小脳VI, VII葉の低形成、プルキンエ細胞の減少といった自閉症様の形質を示すことが明らかになった。また、ヒト自閉症患者の血中におけるCAPS2の発現を解析したところ、自閉症患者特異的にCAPS2のexon3のスキップが亢進していることが分かった。このexon 3-skipped CAPS2は、軸索輸送タンパク質であるp150Gluedに結合できず、プレシナプス部に輸送されないことなどが明らかになった。これらの結果から、自閉症患者の脳内では、exon 3-skipped CAPS2の発現によってBDNFの局所的分泌が異常になり、これが神経ネットワークの形成異常につながる可能性が示唆された(図2)<ref><pubmed>17380209</pubmed></ref><ref><pubmed>17344385</pubmed></ref>。
 CAPS2 KOマウスは、[[社会性行動]]の異常、[[養育行動の神経回路|母性行動]]の異常、[[多動]]、新奇環境への適応力の低下、小脳VI, VII葉の低形成、[[プルキンエ細胞]]の減少といった自閉症様の形質を示すことが明らかになった。また、ヒト自閉症患者の血中におけるCAPS2の発現を解析したところ、一部の患者にて患者特異的にCAPS2のexon3のスキップが亢進していることが分かった。このexon 3-skipped CAPS2は、[[軸索輸送]]タンパク質であるp150Gluedに結合できず、プレシナプス部に輸送されないことなどが明らかになった。これらの結果から、一部の自閉症患者の脳内では、exon 3-skipped CAPS2の発現によってBDNFの局所的分泌が異常になり、これが神経ネットワークの形成異常につながる可能性が示唆された(図2)<ref><pubmed>17380209</pubmed></ref><ref><pubmed>17344385</pubmed></ref>。


[[Image:CAPS図2.jpg|thumb|center|300px|'''図2.CAPS2による細胞局所からのBDNF分泌とエクソン3欠損型の分泌障害モデル''']]


== 参照文献 ==
== 参考文献 ==


<references />
<references />
(執筆者:定方哲史 担当編集委員:柚崎通介)

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