「Cre/loxPシステム」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
1行目: 1行目:
 Cre/loxPシステムとはloxP配列と呼ばれる[[wikipedia:ja:|DNA]]配列に対しDNA組換え酵素Creが働くことにより生じる部位特異的組換え反応を利用した[[wikipedia:ja:|遺伝子組換え実験]]系である。本来、[[wikipedia:ja:|バクテリオファージ]]P1が[[wikipedia:ja:|宿主]]である[[wikipedia:ja:|大腸菌]]内で複製される際に自身のゲノムを環状化するための組換えシステムである。遺伝子工学、発生工学に分野で主にloxP配列間に存在する遺伝子をCre発現により欠失させるために使用される<ref><pubmed> 11340053 </pubmed></ref>。  
 Cre/loxPシステムとはloxP配列と呼ばれる[[wikipedia:ja:DNA|DNA]]配列に対しDNA組換え酵素Creが働くことにより生じる部位特異的組換え反応を利用した[[wikipedia:ja:遺伝子組換え実験|遺伝子組換え実験]]系である。本来、[[wikipedia:ja:バクテリオファージ|バクテリオファージ]]P1が[[wikipedia:ja:宿主|宿主]]である[[wikipedia:ja:大腸菌|大腸菌]]内で複製される際に自身のゲノムを環状化するための組換えシステムである。遺伝子工学、発生工学に分野で主にloxP配列間に存在する遺伝子をCre発現により欠失させるために使用される<ref><pubmed> 11340053 </pubmed></ref>。  


== 原理  ==
== 原理  ==
25行目: 25行目:
=== Creのバリエーション  ===
=== Creのバリエーション  ===


 Creと変異[[エストロゲン]]受容体の融合タンパク質であるCre-ERタンパク質は通常[[wikipedia:ja:|細胞質]]に存在するが、エストロゲン誘導体である[[wikipedia:ja:|タモキシフェン]]と結合することにより核内に移行し、loxP配列に対して組換えを起こす。これを利用してCre-loxPシステムの働く時期をタモキシフェン依存的に調節することが可能である(図3)<ref><pubmed> 7624356 </pubmed></ref>。
 Creと変異[[エストロゲン]]受容体の融合タンパク質であるCre-ERタンパク質は通常[[wikipedia:ja:細胞質|細胞質]]に存在するが、エストロゲン誘導体である[[wikipedia:ja:タモキシフェン|タモキシフェン]]と結合することにより核内に移行し、loxP配列に対して組換えを起こす。これを利用してCre-loxPシステムの働く時期をタモキシフェン依存的に調節することが可能である(図3)<ref><pubmed> 7624356 </pubmed></ref>。


[[Image:CreloxP図3.jpg|thumb|right|300px|図3 タモキシフェンによるCre-ERの制御]]  
[[Image:CreloxP図3.jpg|thumb|right|300px|図3 タモキシフェンによるCre-ERの制御]]  
35行目: 35行目:
=== Cre/loxPと類似のシステム  ===
=== Cre/loxPと類似のシステム  ===


 [[wikipedia:ja:|出芽酵母]](''Saccharomyces cerevisiae'')由来の組換え酵素FLPとFRT配列 <ref><pubmed> 6286142 </pubmed></ref>
 [[wikipedia:ja:出芽酵母|出芽酵母]](''Saccharomyces cerevisiae'')由来の組換え酵素FLPとFRT配列 <ref><pubmed> 6286142 </pubmed></ref>


5'-GAAGTTCCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTC-3'  
5'-GAAGTTCCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTC-3'  


もCre-loxPシステムと同様の目的で頻用される。 また、[[wikipedia:ja:|醤油酵母]](''Zygosaccharomyces rouxii'')由来の組換え酵素RとRS配列<ref><pubmed> 3889347 </pubmed></ref>、バクテリオファージMu由来の組換え酵素Ginとgix配列<ref><pubmed> 1836050 </pubmed></ref>も例は少ないものの使用されている。  
もCre-loxPシステムと同様の目的で頻用される。 また、[[wikipedia:ja:醤油酵母|醤油酵母]](''Zygosaccharomyces rouxii'')由来の組換え酵素RとRS配列<ref><pubmed> 3889347 </pubmed></ref>、バクテリオファージMu由来の組換え酵素Ginとgix配列<ref><pubmed> 1836050 </pubmed></ref>も例は少ないものの使用されている。  


== 使用例  ==
== 使用例  ==
51行目: 51行目:
=== Cre発現依存的遺伝子発現  ===
=== Cre発現依存的遺伝子発現  ===


 ある遺伝子を細胞あるいは動物個体の組織で高発現させるためには組織特異的プロモーターの下流に目的の遺伝子をつなげた外来遺伝子を構築し導入する方法が用いられる。 しかし、そのプロモーターによる発現量が低かった場合には以下の方法を用いることでプロモーターの組織特性を保ちながら目的遺伝子の高発現が期待できる。 まず、組織特異的プロモーターの下流にCre遺伝子をつけた外来遺伝子およびMCVプロモーターなどの高発現が期待できるプロモーター下流に2つのloxP配列に挟まれた[[wikipedia:ja:|polyA付加シグナル]]などの転写停止配列、さらにその下流に目的の遺伝子をつなげた外来遺伝子をそれぞれ構築する。これらの外来遺伝子を同時に導入すると、組織特異的プロモーターが働く部位ではloxP配列間の転写停止配列が欠損し、その下流に位置する目的遺伝子が高発現する。一方、組織特異的プロモーターが働かない部位では転写停止配列が存在するため目的の遺伝子は発現しない(図5)。
 ある遺伝子を細胞あるいは動物個体の組織で高発現させるためには組織特異的プロモーターの下流に目的の遺伝子をつなげた外来遺伝子を構築し導入する方法が用いられる。 しかし、そのプロモーターによる発現量が低かった場合には以下の方法を用いることでプロモーターの組織特性を保ちながら目的遺伝子の高発現が期待できる。 まず、組織特異的プロモーターの下流にCre遺伝子をつけた外来遺伝子およびMCVプロモーターなどの高発現が期待できるプロモーター下流に2つのloxP配列に挟まれた[[wikipedia:ja:polyA付加シグナル|polyA付加シグナル]]などの転写停止配列、さらにその下流に目的の遺伝子をつなげた外来遺伝子をそれぞれ構築する。これらの外来遺伝子を同時に導入すると、組織特異的プロモーターが働く部位ではloxP配列間の転写停止配列が欠損し、その下流に位置する目的遺伝子が高発現する。一方、組織特異的プロモーターが働かない部位では転写停止配列が存在するため目的の遺伝子は発現しない(図5)。


[[Image:CreloxP図5.jpg|thumb|right|300px|図5 Cre発現依存的遺伝子発現]]  
[[Image:CreloxP図5.jpg|thumb|right|300px|図5 Cre発現依存的遺伝子発現]]  
57行目: 57行目:
=== 培養細胞における選択マーカーの除去  ===
=== 培養細胞における選択マーカーの除去  ===


 培養細胞に外来遺伝子を導入する際、細胞の遺伝子が導入された細胞を選択をするために[[wikipedia:ja:|ネオマイシン]]耐性遺伝子など[[wikipedia:ja:|薬剤耐性遺伝子]]を選択マーカーとして用いる。しかし、目的の細胞が得られた後にはこれらの選択マーカー遺伝子を発現するための[[プロモーター]]が内在性のプロモーターに干渉する例があるために、選択後は除くことが望ましい。この場合にもCre/loxPシステムが利用される。細胞に導入する外来遺伝子の選択マーカーは2つのloxP配列で挟まれた形にしておく。この選択マーカーを除くためにCreとともに[[wikipedia:ja:|ピューロマイシン]]耐性遺伝子を発現するプラスミドpCrePacを一過性に導入し、ピューロマイシン存在下で培養するとCreにより選択マーカーが除去された細胞のみが生存する(図6)<ref><pubmed> 9421534 </pubmed></ref>。
 培養細胞に外来遺伝子を導入する際、細胞の遺伝子が導入された細胞を選択をするために[[wikipedia:ja:ネオマイシン|ネオマイシン]]耐性遺伝子など[[wikipedia:ja:薬剤耐性遺伝子|薬剤耐性遺伝子]]を選択マーカーとして用いる。しかし、目的の細胞が得られた後にはこれらの選択マーカー遺伝子を発現するための[[プロモーター]]が内在性のプロモーターに干渉する例があるために、選択後は除くことが望ましい。この場合にもCre/loxPシステムが利用される。細胞に導入する外来遺伝子の選択マーカーは2つのloxP配列で挟まれた形にしておく。この選択マーカーを除くためにCreとともに[[wikipedia:ja:ピューロマイシン|ピューロマイシン]]耐性遺伝子を発現するプラスミドpCrePacを一過性に導入し、ピューロマイシン存在下で培養するとCreにより選択マーカーが除去された細胞のみが生存する(図6)<ref><pubmed> 9421534 </pubmed></ref>。


[[Image:Crelox図6.jpg|thumb|right|300px|図6 培養細胞における選択マーカーの除去]]
[[Image:Crelox図6.jpg|thumb|right|300px|図6 培養細胞における選択マーカーの除去]]