「DCC」の版間の差分

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<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0013459 桝 正幸]、[http://researchmap.jp/read0105431 桝 和子]</font><br>
<font size="+1">[http://researchmap.jp/read0013459 桝 正幸]、[http://researchmap.jp/read0105431 桝 和子]</font><[[br]]>
''筑波大学 医学医療系 分子神経生物学''<br>
''筑波大学 医学医療系 分子神経生物学''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年12月30日 原稿完成日:2016年月日<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2016年12月30日 原稿完成日:2016年3月13日<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
担当編集委員:[http://researchmap.jp/fujiomurakami 村上 富士夫](大阪大学 大学院生命機能研究科)<br>
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[[image:DCC(図1).jpg|thumb|300px|'''図1.ネトリン受容体'''<br>ネトリン受容体には、DCC/UNC-40、UNC-5、DSCAMが存在する。いずれも免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜1回貫通分子であるが、異なる構造を有する。<br>DB:DCC結合ドメイン、DD:deathドメイン、FN III:フィブロネクチン・タイプIIIドメイン、Ig:免疫グロブリン様ドメイン、ZU5:ZU5ドメイン。<br><ref name=ref7><pubmed>21558366</pubmed></ref>より引用、改変。]]
[[image:DCC(図1).jpg|thumb|300px|'''図1.ネトリン受容体'''<br>ネトリン受容体には、DCC/UNC-40、UNC-5、DSCAMが存在する。いずれも免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜1回貫通分子であるが、異なる構造を有する。<br>DB:DCC結合ドメイン、DD:deathドメイン、FN III:フィブロネクチン・タイプIIIドメイン、Ig:免疫グロブリン様ドメイン、ZU5:ZU5ドメイン。<br><ref name=ref7><pubmed>21558366</pubmed></ref>より引用、改変。]]


 [[大腸癌]]の70%では進展に伴い18番[[染色体]]18q21の欠失が起こることから、この領域に[[腫瘍抑制遺伝子]]があると想定されていた。その候補分子として同定されたのがDCCである<ref name=ref1><pubmed>2188735</pubmed></ref>。
 [[大腸癌]]の70%では進展に伴い18番[[染色体]]18q21の欠失が起こることから、この領域に[[腫瘍抑制遺伝子]]があると想定されていた。その候補分子として同定されたのがDCCである<ref name=ref1><[[pubmed]]>2188735</pubmed></ref>。


 多くの癌でDCCの発現が低下すること、DCCの欠失が患者の予後と相関すること、逆に[[形質転換]]した細胞にDCCを異所性に発現させると腫瘍原性が低下することなどの事実から、DCCが腫瘍抑制遺伝子として働く可能性があると考えられているが、因果関係を示すデータは無く、DCCが腫瘍抑制遺伝子であることは証明されていない。
 多くの癌でDCCの発現が低下すること、DCCの欠失が患者の予後と相関すること、逆に[[形質転換]]した細胞にDCCを異所性に発現させると腫瘍原性が低下することなどの事実から、DCCが腫瘍抑制遺伝子として働く可能性があると考えられているが、因果関係を示すデータは無く、DCCが腫瘍抑制遺伝子であることは証明されていない。
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== 分子構造 ==
== 分子構造 ==
 [[細胞膜]]を1回貫通する[[1型膜タンパク質]]である。細胞外に4つの[[免疫グロブリン様ドメイン]]と6つの[[フィブロネクチン・タイプIIIドメイン]]を持ち、細胞内には3つの保存された領域(P1~P3モチーフ)を持つ<ref name=ref2 /> <ref name=ref7 />[[パラログ]]である[[ネオゲニン]]([[neogenin]])はDCCと50%の相同性を示す<ref name=ref2 />。線虫のUNC-40、ショウジョウバエのFrazzledはDCCの相同遺伝子であり、同じドメイン構造を持つ<ref name=ref3 /> <ref name=ref4 /> <ref name=ref7 />。
 [[細胞膜]]を1回貫通する[[1型膜タンパク質]]である。細胞外に4つの[[免疫グロブリン様ドメイン]]と6つの[[フィブロネクチン・タイプIIIドメイン]]を持ち、細胞内には3つの保存された領域(P1~P3モチーフ)を持つ<ref name=ref7 /><ref name=ref2 /> (図1)。[[パラログ]]である[[ネオゲニン]]([[neogenin]])はDCCと50%の相同性を示す<ref name=ref2 />。線虫のUNC-40、ショウジョウバエのFrazzledはDCCの相同遺伝子であり、同じドメイン構造を持つ<ref name=ref7 /><ref name=ref3 /> <ref name=ref4 /> 。


 軸索反発作用を伝えるネトリン受容体[[UNC5]](哺乳[[動物]]では[[UNC5A]]-[[UNC5D|D]]の4種類が存在する)も[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]に属する膜1回貫通分子であり、細胞外領域に2つの免疫グロブリン様ドメインと2つの[[トロンボスポンジン・タイプI リピート]]を持つ<ref name=ref7 /> <ref name=ref8><pubmed>9126742</pubmed></ref>。細胞内には、[[ZO-1|zona occludens 1]]に相同な [[ZU-5ドメイン]]、DCC結合(DB)ドメイン、[[deathドメイン]](DD)を持つ。
 軸索反発作用を伝えるネトリン受容体[[UNC5]](哺乳[[動物]]では[[UNC5A]]-[[UNC5D|D]]の4種類が存在する)も[[免疫グロブリンスーパーファミリー]]に属する膜1回貫通分子であり、細胞外領域に2つの免疫グロブリン様ドメインと2つの[[トロンボスポンジン・タイプI リピート]]を持つ<ref name=ref7 /> <ref name=ref8><pubmed>9126742</pubmed></ref>。細胞内には、[[ZO-1|zona occludens 1]]に相同な [[ZU-5ドメイン]]、DCC結合(DB)ドメイン、[[deathドメイン]](DD)を持つ。


 DSCAMは[[ダウン症候群]]で重複している遺伝子として同定されたが、ネトリンの受容体としても働く<ref name=ref9><pubmed>18585357</pubmed></ref>。免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜1回貫通分子であり、細胞外に10個の免疫グロブリン様ドメインと6つのフィブロネクチン・タイプ IIIドメインを持つ。
 DSCAMは[[ダウン症候群]]で重複している遺伝子として同定されたが、ネトリンの受容体としても働く<ref name=ref9><pubmed>18585357</pubmed></ref>。免疫グロブリンスーパーファミリーに属する膜1回貫通分子であり、細胞外に10個の免疫グロブリン様ドメインと6つのフィブロネクチン・タイプ IIIドメインを持つ(図1)。


== 機能 ==
== 機能 ==
=== タンパク質としての機能 ===
=== タンパク質としての機能 ===
 DCCとネオゲニンは、ネトリンと結合し、軸索の誘引を行う<ref name=ref2 />。ネトリン1は、DCC細胞外領域の4番目・5番目のフィブロネクチンtype IIIドメインと結合する。DCCにネトリンが結合すると、細胞内のP3ドメインを介してDCCが二量体化し、細胞内シグナル系を活性化することにより、最終的に[[アクチン]]骨格の再編成を行う。ネトリン依存性に細胞内領域が切断され[[転写制御因子]]として働くことも示されている。ネオゲニンは、ネトリンファミリーに属さない別のリガンドである[[repulsive guidance molecule]] ([[RGMa]])にも結合し、軸索反発を示す<ref name=ref10><pubmed> 28007423 </pubmed></ref>。UNC5は、単独でネトリンに対し軸索反発作用を示すが、DCCと共発現して軸索反発を起こすこともある。DCC-UNC5による反発作用は、DCCの細胞内P1ドメインとUNC5の細胞内DBドメインの結合により引き起こされる。
 DCCとネオゲニンは、ネトリンと結合し、軸索の誘引および細胞移動の制御を行う<ref name=ref2 /><ref name=ref7/>。ネトリン1は、DCC細胞外領域の4番目・5番目のフィブロネクチンtype IIIドメインと結合する。DCCにネトリンが結合すると、細胞内のP3ドメインを介してDCCが二量体化し、細胞内シグナル系を活性化することにより、最終的に[[アクチン]]骨格の再編成を行う。ネトリン依存性に細胞内領域が切断され[[転写制御因子]]として働くことも示されている。ネオゲニンは、ネトリンファミリーに属さない別のリガンドである[[repulsive guidance molecule]] ([[RGMa]])にも結合し、軸索反発を示す<ref name=ref10><pubmed> 28007423 </pubmed></ref>。UNC5は、単独でネトリンに対し軸索反発作用を示すが、DCCと共発現して軸索反発を起こすこともある。DCC-UNC5による反発作用は、DCCの細胞内P1ドメインとUNC5の細胞内DBドメインの結合により引き起こされる。
 
 DCCは、胎児の脊髄交連神経細胞の軸索以外にも、脳梁、前交連、海馬交連、手綱交連を形成する神経軸索にも強く発現する。


 DCCは、軸索ガイダンスと[[神経細胞移動|細胞移動]]の制御以外に、[[軸索分岐|軸索の分岐]]、[[シナプス形成]]、[[オリゴデンドロサイト]]の発生、[[髄鞘]]形成にも関与する<ref name=ref7 />。DCCは[[細胞接着]]機能も有し、[[乳腺]]、[[肺]]、[[血管]]など神経系以外の臓器の形態形成にも関与する<ref name=ref11><pubmed>17356579 </pubmed></ref>。
 DCCは、軸索ガイダンスと[[神経細胞移動|細胞移動]]の制御以外に、[[軸索分岐|軸索の分岐]]、[[シナプス形成]]、[[オリゴデンドロサイト]]の発生、[[髄鞘]]形成にも関与する<ref name=ref7 />。DCCは[[細胞接着]]機能も有し、[[乳腺]]、[[肺]]、[[血管]]など神経系以外の臓器の形態形成にも関与する<ref name=ref11><pubmed>17356579 </pubmed></ref>。

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