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 2000年になり、ApoER2とVLDLRのダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになること<ref name="ref2"><pubmed>10380922</pubmed></ref>が明らかになり、さらに生化学的結合実験等により、ApoER2とVLDLRがReelinの[[wikipedia:ja:受容体|レセプター]]であることが示された<ref><pubmed>10571241</pubmed></ref><ref><pubmed>10571240</pubmed></ref>。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフにDab1のPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はApoER2、VLDLRを介してReelinシグナルを受け取る事が示唆された<ref name="ref2" />。また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させた[[wikipedia:Gene knockin|ノックインマウス]]が、リーラーフェノタイプになる事が示された<ref name="5F"><pubmed>10959835</pubmed></ref>。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。  
 2000年になり、ApoER2とVLDLRのダブルノックアウトマウスが、リーラーフェノタイプになること<ref name="ref2"><pubmed>10380922</pubmed></ref>が明らかになり、さらに生化学的結合実験等により、ApoER2とVLDLRがReelinの[[wikipedia:ja:受容体|レセプター]]であることが示された<ref><pubmed>10571241</pubmed></ref><ref><pubmed>10571240</pubmed></ref>。またApoER2とVLDLRの細胞内ドメインのNPxYモチーフにDab1のPTBドメインを介して結合出来る事が示され、Dab1はApoER2、VLDLRを介してReelinシグナルを受け取る事が示唆された<ref name="ref2" />。また同年、活性化型Srcによってチロシンリン酸化を受ける可能性のある5つのチロシンが同定され、この5つのチロシンリン酸化部位全てをフェニルアラニンに変異させた[[wikipedia:Gene knockin|ノックインマウス]]が、リーラーフェノタイプになる事が示された<ref name="5F"><pubmed>10959835</pubmed></ref>。この実験結果により、Dab1のチロシンリン酸化はReelinシグナルにとって必須であることが示された。  


 2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までに[[wikipedia:ja:PI3キナーゼ|Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)]]<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、[[wikipedia:SOCS3|SOCS3]]<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[wikipedia:NCK2|Nck&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;math&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;\beta&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;/math&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;]]<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[wikipedia:PAFAH1B1|Lis1]]<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、[[wikipedia:Src family kinase|Src family kinase]]<ref name="ref1" /><ref><pubmed>18981215</pubmed></ref>、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)<ref name="crk"><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうち''crk''と''crkl''ダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>19074029</pubmed></ref>、''c3g''の[[wikipedia:ja:ジーントラップ法|ジーントラップ]]系統マウス<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>、及び''src''と[[wikipedia:FYN|''fyn'']]のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じることが報告されている。  
 2003年以降、チロシンリン酸化されたDab1に結合する様々なタンパク質が報告され、現在までに[[wikipedia:ja:PI3キナーゼ|Phosphoinositide 3-kinase (PI3K)]]<ref><pubmed>12882964</pubmed></ref>、[[wikipedia:SOCS3|SOCS3]]<ref><pubmed>17974915</pubmed></ref>、[[wikipedia:NCK2|Nck&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;math&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;\beta&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;lt;/math&amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;amp;gt;]]<ref><pubmed>14517291</pubmed></ref>、[[wikipedia:PAFAH1B1|Lis1]]<ref><pubmed>14578885</pubmed></ref>、[[wikipedia:Src family kinase|Src family kinase]]<ref name="ref1" /><ref><pubmed>18981215</pubmed></ref>、Crkファミリータンパク質(Crk、CrkL)<ref name="crk"><pubmed>15062102</pubmed></ref><ref><pubmed>15316068</pubmed></ref><ref><pubmed>15110774</pubmed></ref>がDab1のチロシンリン酸化依存的に結合することが報告されている。このうち''crk''と''crkl''ダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>19074029</pubmed></ref>、''c3g''の[[wikipedia:ja:ジーントラップ法|ジーントラップ]]系統マウス<ref><pubmed>18506028</pubmed></ref>、及び''src''と[[wikipedia:FYN|''fyn'']]のダブルノックアウトマウス<ref><pubmed>16162939</pubmed></ref>においてはリーラーフェノタイプ様の異常が生じることが報告されている。  


 2004年には、''dab1''欠損マウスの[[wikipedia:Dentate gyrus|海馬歯状回]]の[[wikipedia:Granule cell|顆粒細胞]]の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること<ref name="Niu"><pubmed>14715136</pubmed></ref>、''dab1''欠損マウス由来の海馬神経細胞を培養した場合でも、樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少すること<ref name="Niu" />が報告された。また、2006年、''dab1''のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること<ref name="dab1KD"><pubmed>16467525</pubmed></ref>、生後、時期特異的にdab1にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害される<ref name="matsuki"><pubmed>18477607</pubmed></ref>ことが、報告され、dab1は神経細胞の移動過程以外にも、樹状突起の発達にも関与することが示唆された。  
 2004年には、''dab1''欠損マウスの[[wikipedia:Dentate gyrus|海馬歯状回]]の[[wikipedia:Granule cell|顆粒細胞]]の樹状突起が野生型に比べて突起の数が減少していること<ref name="Niu"><pubmed>14715136</pubmed></ref>、''dab1''欠損マウス由来の海馬神経細胞を培養した場合でも、樹状突起が短くなり、枝分かれの数も減少すること<ref name="Niu" />が報告された。また、2006年、''dab1''のノックダウン実験により、神経細胞の樹状突起形成が阻害されること<ref name="dab1KD"><pubmed>16467525</pubmed></ref>、生後、時期特異的にdab1にノックアウトした場合、海馬の樹状突起形成が阻害される<ref name="matsuki"><pubmed>18477607</pubmed></ref>ことが、報告され、dab1は神経細胞の移動過程以外にも、樹状突起の発達にも関与することが示唆された。  
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=== 大脳新皮質発生で観察されるDab1欠損による発生異常  ===
=== 大脳新皮質発生で観察されるDab1欠損による発生異常  ===


[[Image:Migration.png|thumb|700px|<b>図2 大脳新皮質の正常発生と''reelin''、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B、C) 野生型(B)、または''reeler''、''yotari''、''scrambler''、''apoer2/vldlr''ダブルノックアウトマウス(C)の大脳新皮質の発生過程を示す。(B, i)野生型マウスでラジアルグリア細胞(radial glia cell、RG:神経幹細胞として働く)から誕生した神経細胞は]]  
[[Image:Migration.png|thumb|600px|<b>図2 大脳新皮質の正常発生と''reelin''、''dab1''変異マウス、''apoER2/vldlr'' ダブルノックアウトマウスの発生異常</b><br> (A) 発生期のマウス脳の模式図。下図は点線部分で冠状断にした際の断面図。薄い赤色部分を拡大した図をBとCに示す。(B、C) 野生型(B)、または''reeler''、''yotari''、''scrambler''、''apoer2/vldlr''ダブルノックアウトマウス(C)の大脳新皮質の発生過程を示す。脳の表面は上方向、脳室側は下方向。数字は野生型マウスで配置される予定の層を示す。(B, i)野生型マウスで脳室帯(ventricular zone: VZ)に存在するラジアルグリア細胞(radial glia cell、RG) 神経幹細胞)から誕生した神経細胞は、脳の表面方向に向かい移動する。CR:カハールレチウス(Cajal-Retzius)細胞。SP:サブプレート(subplate)神経細胞。PP:プレプレート(preplate)。(B, ii) 6層の神経細胞はサブプレート神経細胞を乗り越えて、辺縁帯 (MZ:marginal zone)の直下で樹状突起を形成して分化する。(B,iii) 遅生まれの神経細胞は次々に早生まれの神経細胞を追い越し、脳表層で分化を開始する。CP:皮質板(cortical plate)。(C, i,ii,iii) 一方、''reeler''、''yotari'', ''scrambler''マウス、及び ''apoer2/vldlr''ダブルノックアウトマウスでは脳室帯で誕生した神経細胞がサブプレート神経細胞を追い越すことが出来ずに脳の表面付近に異所性に配置される。後から誕生した神経細胞も移動障害により先行する神経細胞を追い越せずに配置され、全体的に見た場合、層構造が逆転した様な配置になる。また一部の神経細胞は樹状突起をインターナルプレキシフォームゾーン(IPZ:internal plexiform zone)と呼ばれる異常な構造に向けて展開する。SPP:スーパープレート(super plate)。]]  


 大脳新皮質の神経細胞は脳室帯で誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これを[[カハールレティウス]](Cajal-Retzius)細胞を含む辺縁帯とサブプレートと呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終分化を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  
 大脳新皮質の神経細胞は脳室帯で誕生後、脳の表面方向に放射状に移動し、最初期に誕生した神経細胞で形成される[[プレプレート]]と呼ばれる細胞層の間に入り込んで、これを[[カハールレティウス]](Cajal-Retzius)細胞を含む辺縁帯とサブプレートと呼ばれる二つの層に分離する(プレプレートスプリッティング)(図2B, iからii)。神経細胞は辺縁帯の直下で移動を終了し、樹状突起を発達させて最終分化を行なう。神経細胞は次々に脳室帯で誕生して脳表面方向に移動するが、誕生時期の遅い神経細胞は誕生時期の早い神経細胞を追い越し、より脳の表層側に配置されるようになる(図2B, iii)。この細胞配置の仕組みは“インサイドアウト”様式と呼ばれ、哺乳類の大脳新皮質でのみ観察される特徴的な組織構築様式である。  


 Dab1欠損マウスでは神経細胞は正常に産生されるが、神経細胞はプレプレートの間に入ることが出来ず、プレプレートスプリッティングが起らない。その為辺縁帯が存在しない。後続の神経細胞は正常に移動出来ずに、脳表面から脳室方向に積み重なって行き、“アウトサイドイン”と呼ばれる異常な組織構築を行うようになり、大体の層構造が逆転する異常が観察される。異常な構造中には、[[インターナルプレキシフォームゾーン(internal plexiform zone)]]と呼ばれる細胞密度の低い領域が散在し、この部分に[[視床]]から[[サブプレート]]に投射する[[軸索]]が走行し、また、神経細胞からは樹状突起がこの領域に向かい展開される。
 Dab1欠損マウスでは神経細胞は正常に産生されるが、神経細胞はプレプレートの間に入ることが出来ず、プレプレートスプリッティングが起らない。その為辺縁帯が存在しない。後続の神経細胞は正常に移動出来ずに、脳表面から脳室方向に積み重なって行き、“アウトサイドイン”と呼ばれる異常な組織構築を行うようになり、大体の層構造が逆転する異常が観察される。異常な構造中には、[[インターナルプレキシフォームゾーン(internal plexiform zone)]]と呼ばれる細胞密度の低い領域が散在し、この部分に[[視床]]から[[サブプレート]]に投射する[[軸索]]が走行し、また、神経細胞からは樹状突起がこの領域に向かい展開される傾向がある。


=== Dab1の大脳新皮質神経発生における機能  ===
=== Dab1の大脳新皮質神経発生における機能  ===


 dab1欠損により引き起こされるこれらの神経細胞の移動障害が、dab1が欠損した細胞自身の障害によるものなのか、あるいは、dab1を欠損した周囲の細胞によって引き起こされた二次的な原因によるものなのか、あるいは両方なのか、Dab1の機能を解明する上で、焦点となった。この問題を解決するため、野生型Dab1を持つ細胞とDab1を欠損した細胞の[[wikipedia:Chimera (genetics)|キメラマウス]]が作成された<ref><pubmed>11698592</ref>&lt;/pubmed&gt;。その結果、野生型のDab1を持つ細胞群がDab1を欠損した細胞群の上に配置されるような大脳新皮質(スーパーコルテックス)が形成される一方、少数の野生型細胞がDab1欠損細胞群中に取り込まれることが示された。この結果より、Dab1欠損による細胞の移動障害は主には細胞内因性の障害によって引き起こされているが、一部は周囲の細胞の障害にも影響されていることが示唆された。また、dab1を欠損したyotariマウスにdab1を''in utero'' [[wikipedia:ja:電気穿孔法|エレクトロポレーション法]]により、導入してやることにより、Dab1をレスキューした場合においてもdab1を導入された神経細胞はDab1を欠損した神経細胞を追い越して、脳表層まで到達し、プレプレートスプリッティングも引き起こす<ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>ことから、dab1欠損による移動障害が主には細胞内在性に引き起こされていることが示唆されている。  
 dab1欠損により引き起こされるこれらの神経細胞の移動障害が、dab1が欠損した細胞自身の障害によるものなのか、あるいは、dab1を欠損した周囲の細胞によって引き起こされた二次的な原因によるものなのか、あるいは両方なのか、Dab1の機能を解明する上で焦点となった。この問題を解決するため、野生型Dab1を持つ細胞とDab1を欠損した細胞の[[wikipedia:Chimera (genetics)|キメラマウス]]が作成された<ref><pubmed>11698592</ref></pubmed>。その結果、野生型のDab1を持つ細胞群がDab1を欠損した細胞群の上に配置されるような大脳新皮質(スーパーコルテックス)が形成される一方、少数の野生型細胞がDab1欠損細胞群中に取り込まれることが示された。この結果より、Dab1欠損による細胞の移動障害は主には細胞内因性の障害によって引き起こされているが、一部は周囲の細胞の障害にも影響されていることが示唆された。また、dab1を欠損したyotariマウスにdab1を''in utero'' [[wikipedia:ja:電気穿孔法|エレクトロポレーション法]]により、導入してやることにより、Dab1をレスキューした場合においてもdab1を導入された神経細胞はDab1を欠損した神経細胞を追い越して、脳表層まで到達し、プレプレートスプリッティングも引き起こす<ref><pubmed>19796633</pubmed></ref>ことから、dab1欠損による移動障害が主には細胞内在性に引き起こされていることが示唆されている。  


 では、Dab1の欠損により、何が一次的に障害されているのか?、この問題を解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、dab1の欠損によりどんな移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed>20182622</pubmed></ref>。早生まれの神経細胞は脳室帯(ventricular zone)で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった突起を用いて細胞体を引き上げる、somal translocationと呼ばれる形式で、移動する<ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。一方、遅生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、[[脳室下帯(subventricular zone)]]の直上で[[多極性の形態(多極性細胞)]]をとり、突起を出したり縮めたりしながら多極性移動([[Multipolar migration]])と呼ばれる移動を行い、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面にロコモーションと呼ばれる方式で移動する<ref><pubmed>14602813</pubmed></ref>。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた[[先導突起(leading process)]]と呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動様式により移動を行う。''in utero''エレクトロポレーションによってdab1のノックダウンが行われた結果、dab1が[[wikipedia:ja:遺伝子ノックダウン|ノックダウン]]された神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションと樹状突起の発達が障害されていることが示された<ref name="dab1KD" />。この実験結果ではターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、樹状突起形成の発達障害はその二次的な影響との可能性も考えられるが、海馬において生後3日からに次期特異的にdab1をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name="matsuki" />、dab1ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name="Niu" />から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆された。また、dab1のコンディショナルノックアウトマウスを用いた実験では、早生まれの細胞ではsomal translocationが阻害され、遅生まれの細胞ではteriminal translocationが阻害されていることが示された。  
 では、Dab1の欠損により、何が一次的に障害されているのか?、この問題を解明する為に、周囲の細胞が正常な環境下で、一部の神経細胞でのみDab1の機能を阻害し、dab1の欠損によりどんな移動障害が引き起こされるのかが詳細に観察された。大脳新皮質の神経細胞は誕生時期の違いにより、異なる移動過程を経ることが知られている<ref><pubmed>20182622</pubmed></ref>。早生まれの神経細胞は脳室帯(ventricular zone)で誕生した後、もともと脳の表層にアンカリングしてあった突起を用いて細胞体を引き上げる、somal translocationと呼ばれる形式で、移動する<ref><pubmed>11567613</pubmed></ref>。一方、遅生まれの神経細胞は脳室帯で誕生した後、[[脳室下帯(subventricular zone)]]の直上で[[多極性の形態(多極性細胞)]]をとり、突起を出したり縮めたりしながら多極性移動([[Multipolar migration]])と呼ばれる移動を行い、その後、紡錘形の形態にトランスフォームして脳表面にロコモーションと呼ばれる方式で移動する<ref><pubmed>14602813</pubmed></ref>。さらに、脳表面付近では神経細胞の進行方向に長く伸びた[[先導突起(leading process)]]と呼ばれる突起を辺縁帯(marginal zone)付近まで伸ばし、核を引き上げる様に移動するターミナルトランスロケーションと呼ばれる移動様式により移動を行う。''in utero''エレクトロポレーションによってdab1のノックダウンが行われた結果、dab1が[[wikipedia:ja:遺伝子ノックダウン|ノックダウン]]された神経細胞は脳の表層近くまで移動するが、移動の最終過程であるターミナルトランスロケーションと樹状突起の発達が障害されていることが示された<ref name="dab1KD" />。この実験結果ではターミナルトランスロケーションも阻害されていることから、樹状突起形成の発達障害はその二次的な影響との可能性も考えられるが、海馬において生後3日からに次期特異的にdab1をノックアウトした場合に、樹状突起形成に異常が生じること<ref name="matsuki" />、dab1ノックアウトマウスから得られた神経細胞を培養した場合にも樹状突起の形成に障害が生じること<ref name="Niu" />から、dab1には樹状突起形成を促進する働きがあることが示唆された。また、dab1のコンディショナルノックアウトマウスを用いた実験では、早生まれの細胞ではsomal translocationが阻害され、遅生まれの細胞ではteriminal translocationが阻害されていることが示された。  


[[Image:Dab1 signaling pathway.png|thumb|700px|<b>図3 大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b>]]  
[[Image:Dab1 signaling pathway.png|thumb|700px|<b>図3 大脳新皮質層形成時におけるDab1を介するシグナル伝達系の模式図</b><br>主にCajal-Retzius細胞から分泌されたReelinは移動神経細胞に発現するApoER2やVLDLRに結合し、FynあるいはSrcの活性化により、Dab1をリン酸化する。リン酸化されたDab1にはPI3K, SOCS3, Nck<math>\beta</math>, Crkが結合する。Crkの下流でC3GがRap1をGDP結合型からGTP結合型に変換し、活性化されたRap1はN-cadherinとIntegrin<math>\alpha</math>5<math>\beta</math>1の活性を制御すると考えられている。NotchとDab1の結合にDab1のリン酸化が必要かは明らかになっていない。]]  


<br>  一方Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについてはN-cadherin<ref name="ncad" />とIntegrin<ref name="integrin" />が関与していることが実験的に示唆されている。大脳新皮質神経細胞のReelin刺激により、Dab1のチロシンリン酸化が起こり、ここにCrkを介するC3Gの活性化、続くRap1の活性化が起こることが培養細胞を用いた実験により知られていた為、Rap1のエフェクターとして既に知られていたN-cadherinの関与が調べられた。実験では、Rap1の不活性化因子であるRap1GAPを強制発現させることにより、Rap1を不活性化した。これにより、神経細胞の移動が障害され、皮質板に侵入する神経細胞の割合が減少する。Rap1はN-cadherinの細胞内から細胞表面への輸送に関わっていることが知られていたことから、Rap1GAPとN-cadherinを同時に発現させた所、Rap1GAPによる神経細胞の移動障害が抑制されることが示唆された。この結果により、間接的ではあるが、Reelin-Dab1シグナルがRap1を介してN-cadherinの細胞表面への輸送制御を行うことにより、神経細胞移動を制御している可能性が示唆された。  
<br>  一方Dab1が神経細胞移動を制御する分子メカニズムについてはN-cadherin<ref name="ncad" />とIntegrin<ref name="integrin" />が関与していることが実験的に示唆されている。大脳新皮質神経細胞のReelin刺激により、Dab1のチロシンリン酸化が起こり、ここにCrkを介するC3Gの活性化、続くRap1の活性化が起こることが培養細胞を用いた実験により知られていた為、Rap1のエフェクターとして既に知られていたN-cadherinの関与が調べられた。実験では、Rap1の不活性化因子であるRap1GAPを強制発現させることにより、Rap1を不活性化した。これにより、神経細胞の移動が障害され、皮質板に侵入する神経細胞の割合が減少する。Rap1はN-cadherinの細胞内から細胞表面への輸送に関わっていることが知られていたことから、Rap1GAPとN-cadherinを同時に発現させた所、Rap1GAPによる神経細胞の移動障害が抑制されることが示唆された。この結果により、間接的ではあるが、Reelin-Dab1シグナルがRap1を介してN-cadherinの細胞表面への輸送制御を行うことにより、神経細胞移動を制御している可能性が示唆された。  
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