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Dbxファミリータンパク質
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<font size="+1">[https://researchmap.jp/read0068738 江角 重行]</font><br>
''熊本大学大学院 生命科学研究部 形態構築学講座''<br>
DOI:<selfdoi /> 原稿受付日:2023年5月8日 原稿完成日:2023年5月31日<br>
担当編集委員:[https://researchmap.jp/hiroshikawasaki 河崎 洋志](金沢大学 医学系 脳神経医学教室)<br>
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熊本大学大学院 生命科学研究部 形態構築学講座
英語名:developing brain homeobox family<br>
江角重行
 
英語名:Developing brain homeobox family
英略語:Dbx
英略語:Dbx


{{box|text= ホメオボックス型転写因子Dbx (Developing Brain homeoboX)ファミリーは、主に中枢・末梢神経系の発生時期に一過的・局所的に発現する転写因子であり、哺乳類ではDbx1と Dbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。Dbx1・Dbx2は発生期の脊髄前駆細胞ドメインに局所的かつ一過的に発現しており、脊髄の介在ニューロン運命決定に必須である。Dbx1は終脳の背側腹側境界領域や視索前領域、中脳、視床上部、背側視床、視床下部の原基などにも発現しており、大脳皮質発生過程に一過的に存在するカハールレチウス細胞・扁桃体・視床下部外側核・中脳の呼吸中枢・中脳の交連線維などの発生や分化に大きく関与する。Dbx2は脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI (Zona limitans Intrathalamica) 周囲に至る翼板と基板間の領域や間葉系の細胞の一部で発現しているが、機能についての報告はほとんどない。}}
{{box|text= ホメオボックス型転写因子Dbx (developing brain homeobox)ファミリーは、主に中枢・末梢神経系の発生時期に一過的・局所的に発現する転写因子であり、哺乳類ではDbx1とDbx2が存在し、細胞分化や細胞運命決定に関わる。Dbx1・Dbx2は発生期の脊髄前駆細胞ドメインに局所的かつ一過的に発現しており、脊髄の介在ニューロン運命決定に必須である。Dbx1は終脳の背側腹側境界領域や視索前領域、中脳、視床上部、背側視床、視床下部の原基などにも発現しており、大脳皮質発生過程に一過的に存在するカハールレチウス細胞・扁桃体・視床下部外側核・中脳の呼吸中枢・中脳の交連線維などの発生や分化に大きく関与する。Dbx2は脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI (zona limitans intrathalamica) 周囲に至る翼板と基板間の領域や間葉系の細胞の一部で発現しているが、機能についての報告はほとんどない。}}


== Dbxファミリーとは ==
== Dbxファミリーとは ==
 Dbxファミリーは、[[ホメオドメイン]]を利用したクローニングによって[[マウス]]で同定された、進化的に保存された遺伝子である<ref name=Lu1992><pubmed>1355604</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref>。
 Dbxファミリーは、[[ホメオドメイン]]を利用したクローニングによって[[マウス]]で同定された、進化的に保存された遺伝子である<ref name=Lu1992><pubmed>1355604</pubmed></ref><ref name=Shoji1996><pubmed>8798145</pubmed></ref>。


 [[哺乳類]]においては、[[Dbx1]], [[Dbx2]]が存在し、[[細胞分化]]や[[細胞運命決定]]に関わる。[[脊髄]]発生においては、Dbx1, Dbx2は[[翼板]]([[alar plate]])と[[基板]]([[basal plate]])間に位置する領域([[前駆細胞ドメイン]])に一過的に発現し、[[介在ニューロン]]の発生に必須である<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref>。
 [[哺乳類]]においては、[[Dbx1]], [[Dbx2]]が存在し、[[細胞分化]]や[[細胞運命決定]]に関わる。[[脊髄]]発生においては、Dbx1、Dbx2は[[翼板]]([[alar plate]])と[[基板]]([[basal plate]])間に位置する領域([[前駆細胞ドメイン]])に一過的に発現し、[[介在ニューロン]]の発生に必須である<ref name=Briscoe2000><pubmed>10830170</pubmed></ref><ref name=Pierani1999><pubmed>10399918</pubmed></ref>。


 Dbx1は[[終脳]]発生過程でも一過的(胎生9.5-13.5日齢)に[[外套]]下部 /腹側外套([[ventral pallium]], VP/[[pallial-subpallial boundary]], PSB)や、[[視索前領域]]([[preoptic area]], POA)に発現する。この領域で産生されたDbx1系譜神経細胞は[[大脳皮質]]の[[カハールレチウス細胞]]<ref name=Bielle2005><pubmed>16041369</pubmed></ref>、[[扁桃体]][[基底外側核]]の[[グルタミン酸]]作動性[[興奮性ニューロン]]や[[扁桃体内側核]]の[[GABA]]作動性[[抑制性ニューロン]]になどに分化する<ref name=Hirata2009><pubmed>19136974</pubmed></ref>。
 Dbx1は[[終脳]]発生過程でも一過的(胎生9.5-13.5日齢)に[[外套]]下部 /腹側外套([[ventral pallium]], VP/[[pallial-subpallial boundary]], PSB)や、[[視索前領域]]([[preoptic area]], POA)に発現する。この領域で産生されたDbx1系譜神経細胞は[[大脳皮質]]の[[カハールレチウス細胞]]<ref name=Bielle2005><pubmed>16041369</pubmed></ref>、[[扁桃体]][[基底外側核]]の[[グルタミン酸]]作動性[[興奮性ニューロン]]や[[扁桃体内側核]]の[[GABA]]作動性[[抑制性ニューロン]]になどに分化する<ref name=Hirata2009><pubmed>19136974</pubmed></ref>。


 また、Dbx1は[[視床下部]]原基にも発現しており、[[視床下部外側核]]、[[弓状核]]ニューロンの発生を制御することがわかっている<ref name=Sokolowski2015><pubmed>25864637</pubmed></ref>。さらに、[[中脳]]の[[呼吸中枢]](pre-Bötzinger complex respiratory neurons)の発生にも必須であり<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref>、Dbx1ノックアウトマウスは生後0日目に呼吸不全で死亡する<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref>。
 また、Dbx1は[[視床下部]]原基にも発現しており、[[視床下部外側核]]、[[弓状核]]ニューロンの発生を制御することがわかっている<ref name=Sokolowski2015><pubmed>25864637</pubmed></ref>。さらに、[[中脳]]の[[呼吸中枢]]([[pre-Bötzinger複合体]]呼吸ニューロン)の発生にも必須であり<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref>、Dbx1ノックアウトマウスは生後0日目に呼吸不全で死亡する<ref name=Gray2010><pubmed>21048147</pubmed></ref>。


 Dbx2については発生期の脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI周囲の至るまで翼板と基板間の領域や、[[肢芽]]、[[歯芽]]、成熟した[[アストロサイト]]や[[間葉系]]の細胞の一部で発現するが、機能については、未解な部分が多い。これはDbx2遺伝子改変マウスを用いた報告がほとんどないためである。
 Dbx2については発生期の脊髄前駆細胞ドメインだけでなく、脊髄から視床ZLI周囲の至るまで翼板と基板間の領域や、[[肢芽]]、[[歯芽]]、成熟した[[アストロサイト]]や[[間葉系]]の細胞の一部で発現するが、機能については、未解な部分が多い。これはDbx2遺伝子改変マウスを用いた報告がほとんどないためである。