「Eph受容体」の版間の差分

編集の要約なし
編集の要約なし
編集の要約なし
8行目: 8行目:


== Eph受容体の構造とサブファミリー ==
== Eph受容体の構造とサブファミリー ==
 Eph受容体は、そのアミノ酸配列及びとリガンドとの親和性の違いにより、EphAとEphB の2つのサブクラスに分類されている。脊椎動物において、EphAサブクラスは現在10種類 (EphA1~A10)、 EphBサブクラスは6種類同定されている (EphB1~B6)。EphA、EphBはそれぞれエフリン A (ephrin-A) とエフリンB (ephrin-B)と呼ばれる細胞膜上のリガンドとほぼ選択的に結合するが、近年EphA4およびEphB2がそれぞれephrin-B3、ephrin-A5と結合することも報告されている<ref name=ref3><pubmed>12808016</pubmed></ref>。  
 Eph受容体は、そのアミノ酸配列及びとリガンドとの親和性の違いにより、EphAとEphBの2つのサブクラスに分類されている。脊椎動物において、EphAサブクラスは現在10種類 (EphA1~A10)、EphBサブクラスは6種類同定されている (EphB1~B6)。EphA、EphBはそれぞれエフリンA (ephrin-A) とエフリンB (ephrin-B)と呼ばれる細胞膜上のリガンドとほぼ選択的に結合するが、近年EphA4およびEphB2がそれぞれephrin-B3、ephrin-A5と結合することも報告されている<ref name=ref3><pubmed>12808016</pubmed></ref>。  


== Eph受容体シグナルの細胞生物学的機能 ==
== Eph受容体シグナルの細胞生物学的機能 ==
22行目: 22行目:
* 胎生期神経前駆細胞の増殖および細胞死の制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドは胎生期の神経上皮細胞(神経前駆細胞)に発現しており、特にEphA4とephrin-B1を介したシグナルは神経前駆細胞の増殖を正に制御している<ref><pubmed>19542359</pubmed></ref>。また胎生期の大脳皮質原基において、EphA7とephrin-A5を介したシグナルは細胞死を亢進させる<ref><pubmed>15902206</pubmed></ref>。  
* 胎生期神経前駆細胞の増殖および細胞死の制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドは胎生期の神経上皮細胞(神経前駆細胞)に発現しており、特にEphA4とephrin-B1を介したシグナルは神経前駆細胞の増殖を正に制御している<ref><pubmed>19542359</pubmed></ref>。また胎生期の大脳皮質原基において、EphA7とephrin-A5を介したシグナルは細胞死を亢進させる<ref><pubmed>15902206</pubmed></ref>。  


* 神経細胞移動と軸索ガイダンス制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドを介したシグナルは、視神経や聴神経、前交連、脳梁、中脳被蓋から線条体への繊維投射、視床皮質路、皮質脊髄路といった様々な神経軸索の伸張と経路選択、標的領域への投射を制御している。軸索ガイダンスにおいては、Eph受容体を発現する軸索がエフリンリガンドを発現する標的に到達した際、軸索が反発する、いわゆる接触依存性の反発因子として機能する場合が多い。軸索を伸張させる組織と標的組織において受容体とリガンドの発現量に勾配がある場合、 Eph受容体を介したシグナルは位置特異的な神経投射(トポグラフィックマップ)の形成に重要な役割を果たしている<ref><pubmed>9321682</pubmed></ref>。  
* 神経細胞移動と軸索ガイダンス制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドを介したシグナルは、視神経や聴神経、前交連、脳梁、中脳被蓋から線条体への繊維投射、視床皮質路、皮質脊髄路といった様々な神経軸索の伸張と経路選択、標的領域への投射を制御している。軸索ガイダンスにおいては、Eph受容体を発現する軸索がエフリンリガンドを発現する標的に到達した際、軸索が反発する、いわゆる接触依存性の反発因子として機能する場合が多い。軸索を伸張させる組織と標的組織において受容体とリガンドの発現量に勾配がある場合、Eph受容体を介したシグナルは位置特異的な神経投射(トポグラフィックマップ)の形成に重要な役割を果たしている<ref><pubmed>9321682</pubmed></ref>。  


* シナプス形成と可塑性制御<br>樹状突起の発達過程において、EphB2受容体が樹状突起に集積し、突起進展と維持に必須の役割を果たしている。またエフリンリガンドも樹状突起に局在しており、特に ephrin-B1、ephirin-B3を介したシグナルが海馬神経細胞のスパインの成熟や後シナプス構造の形成を制御し、シナプス可塑性の維持に重要な役割を果たしている<ref><pubmed>14691139</pubmed></ref> <ref><pubmed>11580887</pubmed></ref>。  
* シナプス形成と可塑性制御<br>樹状突起の発達過程において、EphB2受容体が樹状突起に集積し、突起進展と維持に必須の役割を果たしている。またエフリンリガンドも樹状突起に局在しており、特にephrin-B1、ephirin-B3を介したシグナルが海馬神経細胞のスパインの成熟や後シナプス構造の形成を制御し、シナプス可塑性の維持に重要な役割を果たしている<ref><pubmed>14691139</pubmed></ref> <ref><pubmed>11580887</pubmed></ref>。  


* 成体神経幹細胞の増殖・分化制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドは成体脳に存在する神経幹細胞とニッチ細胞にも発現している。成体側脳室壁では、EphA7受容体が上衣細胞に発現し、神経幹細胞および前駆細胞に発現しているephrin-A2リガンドを介した逆方向性シグナルにより細胞増殖を負に制御している<ref><pubmed>15713841</pubmed></ref>。またアストロサイトおよび移動中のニューロブラストに発現しているEphBおよびephrin-B受容体が、神経幹細胞の増殖とニューロブラストの移動様式を制御している<ref><pubmed>11036265</pubmed></ref> 。さらに成体海馬歯状回においては、神経前駆細胞に発現するEphB1およびEphB2が、前駆細胞の増殖と移動、突起進展を制御していることが報告されている<ref><pubmed>18057206</pubmed></ref>。  
* 成体神経幹細胞の増殖・分化制御<br>Eph受容体とエフリンリガンドは成体脳に存在する神経幹細胞とニッチ細胞にも発現している。成体側脳室壁では、EphA7受容体が上衣細胞に発現し、神経幹細胞および前駆細胞に発現しているephrin-A2リガンドを介した逆方向性シグナルにより細胞増殖を負に制御している<ref><pubmed>15713841</pubmed></ref>。またアストロサイトおよび移動中のニューロブラストに発現しているEphBおよびephrin-B受容体が、神経幹細胞の増殖とニューロブラストの移動様式を制御している<ref><pubmed>11036265</pubmed></ref> 。さらに成体海馬歯状回においては、神経前駆細胞に発現するEphB1およびEphB2が、前駆細胞の増殖と移動、突起進展を制御していることが報告されている<ref><pubmed>18057206</pubmed></ref>。